65 モッチャレ④
「グリス、ノイジー!!」
リドゥは低空飛行で回避指示を飛ばす二人に声をかけた。
「そこ前転して! ……よし! 何リドゥ、どしたの?!」
「今からレッドに誘導してもらう! 皆んなを僕の後方へ!!」
「「?! 了解!!」」
二人が爆速で飛んでいくと同時に、レッドが地上へ出ているモッチャレの攻撃域に躍り出る。
当然モッチャレは、襲ってくださいとばかりに現れたレッドへ直ぐに狙いを定めた。
「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」
が、レッドはすました表情で攻撃をヒラリと躱すと、モッチャレが潜ったのに合わせて、その場でダバダバ足踏みを始める。僕が提案した攻撃先誘導策だ。
──ゴゴゴゴゴ……!
地面に潜ったモッチャレが近付いてるのか、振動が徐々に強くなっていく。それでもレッドは足踏みを止めず……──、
「! ふっ!」
「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」
回避の頼みの綱たるグリス不在にも関わらず、自力で飛び出し攻撃を回避してみせた!
頭の回転が速いと言うことは、それだけ思考力が高い証明。レッドは攻撃を躱しながら考察し、モッチャレが飛び出してくる直前の震度を完璧に把握していた!
「やーいやーい」
レッドはいい加減甚だしい煽り声を発しながらその場を跳ねる。表情が何一つ変わりないのが余計腹立たしい。
「ッ……!! ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」
これにはモッチャレも業を煮やしたのか、遂に地面に潜り直すのを止めて、顔出ししたままレッドを追いかけ始めた。モッチャレにも感情はあるようだった。
これで下準備の下地が整った。後はゴウが来るのを待つだけだが──、
「リドゥ!」
「!」
名前を呼ばれて振り向けば、先程月光洞窟へ向かわせたゴウが戻ってきていた。
その手には、取ってくるよう指定した月光石が、しっかりと握られていた。
「投げるぞ! 受け取れ! ん? ……えーーッ!?」
月光石を投げ渡してからゴウはびっくり仰天。「ありがとう!」と月光石を受け取ったリドゥは腹に幾重にもツタを括り付けており、腹から垂れ下がっているのを辿ってみれば、戦場にいる魔族全員が綱引きの構えを取っていたのだ!
「レッドォ!!」
「!」
僕が呼ぶなり、レッドはモッチャレを引き連れた状態で駆け戻ってくると、こちらとすれ違って遥か後方に位置する魔族の集団に合流する。これでモッチャレはレッドを追いかける為に軌道上の僕とぶつかるはずだ。
「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」
モッチャレは大きな口を開けてどんどん迫ってくる。
巨大な虚のような口内の先は何も見えない。いつ溶かされるとも知れない暗闇の恐怖を思い出し、全身から嫌な汗が滲む。
それでも、僕は行かなければならない!
「うわぁぁあぁあああーーーー!!!!!!」
僕は己を鼓舞する雄叫びとともに、モッチャレの口内向かって駆け出した!
「ブモォォォオオーーーー!!!!」
「今だ!」
「「「ブゥッ!!」」」
指示しといたロイストの分かり易い合図に合わせて、モッチャレ正面と周辺に展開していた魔族たちから神経毒が散布される。それを全身に浴びながら諸に吸い込んだモッチャレは──、
「ヴァババババ……!!」
全身が痺れて地べたに項垂れ、大口を開けたまま身動きが取れなくなった! これで当分は大丈夫! ……多分。
「主よ、ご武運を!!」
「ありがとう! 行ってきます!!」
僕は振り返ることなく、一心不乱に口内へ駆け込んだ!
◇ ◇ ◇
「ぶぉうぇええぅえぇえ……!!!!」
そして僕は案の定、口内特有のむせ返るような異臭に軽く胃液が逆流してくるとともに、少し正気を失くしましたとさ。
暗いよー! 怖いよー! 改めて入ってみるとめっちゃ臭くて泣きそうだけど、この為の月光石だ!
「はい!」
僕は右手に持っていた月光石を掲げて、モッチャレの体内を照らした!
体内が街灯が灯り始めた街並みのようにちょっと明るくなった。正気度もちょっと回復。
これで暗闇問題はどうにかなった! 後は目標を探すだけだが、仲間の神経毒がいつまで効くか未知数な以上、悠長には探せない。
さっき呑み込まれた時の記憶通りなら、目標はかなり奥だ。そう目星をつけて走ってみれば──、
「あった!」
モッチャレの体内には、案の定巨大なトゲが刺さっていた。
きっと刺さったまま再生したことで身体と同化してしまい、喉深くに刺さった子骨の如く除去るに除去れなくなったのだろう。これなら痛みに暴れ狂う訳だ。
僕はトゲの先端に穴を開けて、そこに腹に巻いておいた、幾重にも縄状に編み込んだツタを通して結ぶ。これで下準備は完了だ。
「リドゥ!」
「!」
振り返ると、口の前にレッドが立っていた。中継役として駆けつけてくれたのだ。
親指を立ててみせれば「ウォオオォーーン!」とレッドは遠吠えを上げる。
直後──、それが合図となってツタがピンと張った!
「それじゃあ……よろしく頼まぁぁあす!!!!」
僕は両手に魔力を纏い、トゲ周りの肉壁の『採掘』を開始した!
「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」
鼓膜が破けそうな悲鳴が体内で鳴り響く中、僕は必死に消滅っていく。肉壁の損傷は最小限に、けれど迅速に!
──ぐぐ……!
肉壁をかなり消滅り進めた辺りで、ようやくトゲが動き始めた。もっと緻密に最速で瞬間最大威力を発揮しろ!!
自分に言い聞かせるうちに、両手にこれまでにないほどの魔力が込められていくのを直感する。これが成長か……!!
「おおおぉおォォオオオ!!!!!!」
最後のひと踏ん張り! 今日一番の集中力で肉壁を消滅り進めた次の瞬間!
──ズリュッ……!
遂に拘束が解かれたトゲは生々しい音を立てながら勢いよく抜けて、同時に肉壁の再生が始まった!
自分の足では間に合わない! 皆の腕力が強いことを信じて、僕は直ぐさま肉壁の外へ引っ張られそうなトゲに飛び付いた!
「どわっしゃぁあ!!?」
刹那、トゲはもの凄い速度で外へ引っ張られていく! 口が風圧で揺れるるる……!!
「「「どっせぇぇええぇぇえええい!!!!」」」
そこへ聞こえてきた仲間たちの声とともに、僕はモッチャレの外への脱出に成功した!
「ヴォォオオン……!」
と同時に、神経毒が切れたのかモッチャレが脱力する。激痛の原因が取り除かれてようやく落ち着けたようだ。
「モッチャレお疲れさま……! よう耐えた!!」
「ヴォ? ……ヴォオン!」
モッチャレは若干困惑しながらも、トゲの除去を理解したのかニンマリと歯を見せて笑う。対処中は気付けなかったが、よく見ると愛嬌ある愉快な顔だった。
「モケ〜〜ッ!!」
それが可笑しくて「ふふっ……」と失笑していると、魔族の仲間たちが駆け寄ってきた。樹精霊・風導なんかは後方支援組だったからか久しぶりにさえ感じる。
「主よ! よくぞ無事でいてくれました……!」
「リドゥさま、全身ベトベトですわ。臭いがつかないよう早いところ洗濯しますので脱いでくださいまし。上着から下着まで全部」
「まぁそう急ぎなはるなアウネはん。脱がせるより先ずは着替えを用意するイガよ」
イガマキの口調が安定しないのは気の所為だろうか? とか思っていると、いつの間にか降りてきていたファランが「よっ。お疲れ」と服を着ながら話しかけてきた。終ぞ手は貸さなかったなコイツ……。
「だって、貸したらお主らの鍛錬にならんもん」
「それもそうですがよ。というか心読まないでください」
「ええじゃろそれくらい。それよりも、モッチャレワームから出てきたそれ……──」
「あぁ、モッチャレの中に刺さってたトゲです。かなり深い場所に生成される岩石ですが、にしては妙に真っ直ぐですよね?」
「そうなんか。……確かに、自然生成にしては不自然な形よの。ちょいと調べる必要があるわい」
ファランが断言する。新たな未知の予感に胸騒ぎを覚えるが、一先ずは……──、
「皆んな。帰ってひとっ風呂浴びよう!」
「「「賛成!」」」
「帰るなら滅喰龍の遺骨持ってくぞ。対ジユイの武器に加工できるじゃろうて」
「「「うーい」」」
「ヴォオン」
「そんじゃ撤収!」
僕たちは骨を携え、帰路へ着いた。
「あ、ついて来るおまえ!?」
「ヴォンッ!」
あと、モッチャレワームが仲間になった。
モッチャレに愛着湧いたところで第6章完結です。明日からもよろしくお願いします!!
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