第02話
震える手足をなんとか抑えて、やっとのことで地球の瓶をビビは這い上がった。
「グロリア姉様!」彼女は腕を組んで待っている人影を見つけて驚いた。
見てほしくないところを見られたせいか、それともこれから教えなくてはならない不吉な話のせいか、ビビは背筋が寒くなる思いをした。
グロリアの金色の目は、今までにないほど虎のもののように恐ろしかった。
「ビビアン、おまえ。なんてことをしでかしたんだ!」
「なぜそのことをー」
もちろん話すつもりであったが、先手を取られてリズムがくるった。
「知らぬものがこの天国にいるだろうか?図書館の外は地球の瓶悪用のアラームが鳴っている。おまえがここによく来ることは承知だ。他にどういう論理がありえるんだ?」
「ああ、姉様。本当にごめんなさい。こんなつもりじゃなかったの。」光の涙がビビの目に溜まり、目を離れてきらきらと砕け散った。
「何度も注意したじゃないか。瓶を除くのはよろしくても、決して中に入るなと。」
「本当にそうだわ。ごめんなさい。心底反省してるわ。」そうビビは表せないくらいの心痛を伝えた。
「時期に警察が来る。お前はその涙を拭いて、ひとつも言葉を落とすでない。」
グロリアは命令すると、人差し指をビビの口の端から端まで一直線に動かした。その後、ビビが同意の言葉を言おうとしたが、口を開けても声は全くでなかった。
そのとき、すぐ近くでバターンと大きな音がしたかと思いきゃ、すぐさま制服姿の天使らに囲まれてしまった。
「彼女らを呼んだのは貴方か、妹よ。」
そう申したグロリアは、ビビの丸い目が恐怖で完全な円になるのを目撃した。しかし慰めはせず、警察長の方に目を向けた。
「もし逃げる気があるのなら、控えた方がよろしいですよ。いくら天国の大裁判官である貴方でも、天使警察から逃れることは無理でしょう。」警察長は忠告すると、ため息をついた。
「ご心配なく。私は逃げるつもりはありませぬ。」
「なんということだ。大裁判官ともあろう者が、二つも犯罪をおかすだなんて。正直言って、天国の恥です。」
その侮辱以上も以下も期待していなかったが、正直言ってグロリアは傷ついた。でも、その毒を受けたのがビビでなく自分だったのにはほっとした。
そんな思いに気付くことも無く、ビビはまた泣いていた。
「可哀想にビビアン。こんなことになろうとは想像もつかなかったでしょう。」と他の警察官がつぶやいていた。
「今から貴方を裁判所におつれしますが、その前に。」警察長はそう言うと、背の低い同僚に頭を傾けて合図した。
その警察官はグロリアに小さなお辞儀をすると、彼女の目の前にペンダントを差し出した。そのペンダントは楕円形の濃紺色の石が銀のフレームに囲まれ、同じく銀の鎖にぶら下がっていた。
説明を受ける必要もなく、グロリアはそれが何なのかを承知していた。千年も大裁判官の座を引き受けていたのだ、犯罪者の力を裁判の間封じ込めておく『力の鎖』は数えきれないほど見ている。
力の鎖を持った警察官は深い声で呪文を唱え始めた。彼の言葉が流れる間、グロリアの輝かしい力もまた、緩やかな川のように自分の体からペンダントの石へと流れ込んだ。呪文が終わった時には、彼女の翼も天使の輪も消えていた。今や、彼女の血管にある水銀のような天使の血以外、人間と変わるものはない。
「ご心配なく。裁判の結果次第ですが、その後で許可が出ればすぐに力を返します。」優しげな警察官はそう言い、また警察長の方に下がった。
厳しい警察長はまた、グロリアの力欠姿を見て、コメントをせずにはいられなかった。
「さすがは大裁判官。力欠でも貴方の体はまだその輝きを半分もなくしていない。」
それは、天使特有の肌から溢れ出る天性の光のことを差していた。確かに、グロリアの光は彼女が裁判した幾人もの天使と比べ物にならないほど損なわれていない。
「貴方を裁く役目は誰が引き取るのかしら。護衛!」
二人に腕を組まれ、裁判所へと向かった。
聾唖者のビビはただ黙々と泣きながら彼らの後を追うことしかできなかった。




