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異世界殺菌をする町医者  作者: 虹色水晶
異世界から日本に戻れば斬新な小説。なぜ誰も書かないのだろう?
9/31

幕前の物語9

 メルは柔らかな光の中で目を覚ましました。それは天界の雲から天国に召された者達を照らすものようにメルに感じ取れましたが、実際には違っていました。

 目覚めたメルは、自分が先ほどのカメリア村の近郊の洞窟の入り口に仰向けに倒れていて、そして天国の光だと感じたとのは森の木陰の隙間から降り注ぐ只の陽光だということでした。

 つまり、彼女はまだ死んでいないのです。


「ここは・・・」


「お、気が付いたようだな」


 すぐそばに荷物さんが座っていました。


「悪いが救命措置をさせてもらったぞ。何せ非常事態だったもんでな」


「まぁ。では荷物さんが私に蘇生魔術を?」


 メルは目を輝かせます。


「え?いや俺魔法使えないから・・・」


「ですがこの洞窟の住まう怪物を倒し、私を救ってくださったのではありませんか?」


 改めてメルは聞きます。


「確かに俺は君を助けたけど化け物なんて倒してないよ」


「どういうことです?」


「まぁ。口で説明するより実際見てもらった方が早いかなぁ。俺の後についてきて」


 旧荷物さんは松明に火をつけると洞窟の中に入っていきます。メルも後から続きます。旧荷物さんはしばらくしてメルが倒れていた下り坂まで辿り着きました。


「この下で君は倒れていたんだよね?」


「はい。そのようですね」


「見ててごらん」


 旧荷物さんはあらかじめ洞窟の入り口で拾っていた森の小枝に松明の炎で火をつけると、それを下に向かって放り投げました。火のついた小枝は、すぐに火が小さくなり、八割以上も枝を残して火が消えてしまいました。


「これはいったい?」


「おそらくは無色透明の有毒ガスが下に溜まっているんだろう」


「ゆーどくがす?」


 メルの反応を見て、旧荷物さんは考え込みます。


「・・・そうか。この世界にはガスの概念がないのか。メルさん。料理で炭を燃やしたり、鍛冶屋が石炭をくべたりすると煙が出るじゃないか」


「はい。出ますよ」


「で、その煙は人間の体に悪い物が含まれている。例えばそれを狭い箱の中に詰めて猫を放り込むと猫は死んでしまうんだ」


「なんと残酷な!荷物さん貴方それでも人間ですか!!」


「俺じゃなくて昔シュレティンガーて人がやったんだよ・・・。この世界でいうところの魔術師な。で、この下には」


 旧荷物さんはあらためて手にした松明で下り坂を照らします。


「色はついていないし、匂いもしないけど、そういう人間の体に悪い一種の煙。空気が溜まっている。もしかすると鼻のいいドワーフとかなら気づいたかもしれないけど人間には無理だろう」


「ああ。だからロイさんはドワーフを連れた冒険者を見て、『彼らならなんとかできるかも』って言われたんですね」


「そしてメルさんの見つけた魔力反応だけど、魔物じゃなくてたぶんあれだね」


 再び小枝に火をつけると、今度は少し右寄り投げます。そこには白骨死体が転がっていました。

 頭部にはキラキラ光る宝石のイヤリングっぽいのが耳の辺りにあったり、首のあたりにはネックレスのようなものもあります。


「まず最初に村人Aがやってくる。で、洞窟の中で有毒ガスにやられて倒れる。化け物がいるかもってああいう魔法の武器や防具を持った冒険者がやってくる。やっぱり洞窟の中でガスにやられて倒れる。また冒険者がやってくる。以前来た冒険者の魔法の品を拾おうとしたり、あるいは彼らの持っていた金貨を拾おうとして洞窟の奥深くに入ってガスにやられて」


「それが今までずっと続いていたと?」


「完全な冒険者ホイホイだよ。あとメルさん。明りの魔法あるよね?」


「はい」


「それで光の玉を造って、下り坂の方に投げてみて」


 メルは言われるままに投げました。魔法の明りは、松明の炎と違って消えることなくその場に煌々と揺蕩っています。そこにはいくつかの骸骨と、金貨と、魔法の品があるだけです。金属製の武器や防具は残っているようですが、布製の服などは腐り落ちているようでした。


「魔法の光は自然発火の松明の火と違って有毒ガスと反応しない。だから冒険者達は誰一人として危険な毒ガスの存在に気づかなかったのさ。さらに周囲の骸骨をスケルトンじゃないかと遠くから攻撃しても反応なし。で、安心してお宝を取りに行こうとして」


「めでたく仲間入り、と」


「しかし残念だな。眼の前に大量の金銀財宝があるのにそれを回収できないなんて」


「え?荷物さんできないのですか?」


「ああ。いや俺はこれを使ったから」


 旧荷物さんはメルに長い縄を見せました。


「酒場の親父さんが用意してくれた道具の一つだよ。こいつの先にカギ爪をつけて放り投げて君の体を引っ張らせてもらったよ。ちょっと脚の辺りがきづついちゃったけど死ぬよりかマシだろ?」


「つまり。毒ガスのある下り坂の向こう側にある物を取ってくる方法があればよいのですね?」


「え?いや金貨一枚一枚とかイヤリング一個とかこの方法だと無理だろ」


 メルが左手をかざすと、白い雷光のような光が発生しました。それは坂の下にあった骸骨の側にある金貨を引き寄せます。


「え?なにそれ?」


「キネシスの術です。できないんですか?」


「できるわけないだろ!」


 旧荷物さんが毒ガスの満ちる洞窟内に木魂するような声で叫ぶとメルは思案した後。


「あ、魔法学科で教わってないんですね」


 と一人呟きます。


「いやだから俺は魔法なんて・・・」


「本当は学校に通ってらっしゃるんでしょう?」


「まぁさいたま市立大宮商業高校に通っていたが・・・」


「ともかく金貨や財宝は引き上げられます。えっとまだ貴方様のお名前伺いしてませんでしたよね?」


 メルは。この時初めて旧荷物さんの名前を尋ねました。


「は?」


「貴方にも立派なお名前があるのでしょう?私に教えてください」


「バルス・キナツ」


「ではバルスさま。私が魔法で金貨や魔法の品を引っ張りますのでバルス様はそれらを地上まで運んでくださいませ」


 メルに言われるまま。バルスは洞窟の入り口まで金貨や様々なお宝を地上に運んでいきます。小一時間ほど運んだところで食事を挟みつつ休憩を取る事にしました。


「大分持ってきたみたいけど。これ一体いくらくらいになるんだろう?」


 金貨。宝石。それから武器防具の類を見てバルスは尋ねます。


「洞窟内にまだ残っているものも含めれば金貨二十万枚くらいにはなるのではないでしょうか」


「それってどれくらいなのメルさん?」


「このカメリア村で農場付の屋敷が買えます」


 ふぅー。と息を吐いてからバルスはチーズを挟んだパンを口に放り込みました。


「そんな大金どうすりゃいいんだ・・・」


「ですから、お屋敷を買ってしまえばいいんですよ」


「はい?」


「二十万枚の金貨なんて持って歩けません。たとえ宝石にしても嵩張ります。魔法の品にしてもそれなりの量になりますから持ち歩けば目立ちます。そんな事をすれば盗賊や、やたら他人の金品を奪う冒険者に目をつけられます。たとえば」


 メルは刀身白く輝く大剣を持ちあげました。これも洞窟内で志半ばで力尽きた、冒険者の遺品です。


「これはアイスソードと言って、氷の魔術が封印された魔剣です」


「なんか持っていると『殺してでも奪い取る』とか言われて襲われそうだな」


「ですからすべて売り払い、そのお金で御屋敷を買ってしまうんですよ」


「そしたらそのお屋敷が襲われないかい?」


「御屋敷の建物と土地は不動産です。どんな腕のいい盗賊でも盗むことはできません」


「その発想はなかった」


「さて。後はこの洞窟だけど。どうすればいいかな」


「それなら大丈夫です」


 メルは手ごろな大きさな板切れを用意すると、文字を書いて柱を立て、洞窟の入り口に立てました。


「なんて書いてあるの?」


「閉鎖鉱山立ち入り禁止」


「なるほど。これだけで迂闊に入る人間は激減するな」


「後は村人に事情を説明して、依頼を取り消せば事件は解決です。では参りましょうかバルス様」


「そうだねメルさん」


 こうして。さいたま市立大宮高校なる魔法学科から来た若者とメルの暮らしが始まりました。

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