幕前の物語8
カメリア村近郊の山林。
急な斜面をメルは平地と変わらないスピードで登っていきます。
一方金貨百枚の借金を抱えた冒険者。いえ。かつて冒険者であった荷物はその背中に荷物を抱え、『ヒマラヤ山岳登山隊のシェルパ』のように彼女後をついていきます。
どうでもよいことですが、この世界には『ヒマラヤ』はありません。
「着きました。ここです」
メルが言うとおり、岩肌にぽっかりと空いた悠々と熊が出入りできそうな穴が開いていました。
「じゃ、この穴に入って死んでください」
「死んでくれってなんじゃそら」
荷物は疑念をメルにぶつけます。
「私生命探知の魔法が使えますので。そうですね。状況にもよりますけどその魔法を使うと視界が真っ暗になるんですが、生物のみ、鳥でも犬でも人間でも、生きてるなら赤く光って見えるんですよ」
「赤外線みたいなもんか」
「でも、逆に言えば生きてない者は見えないんで、例えばスケルトンみたいな奴が来たら気づかずにバッサリ。という事もあり得ます」
「なるほど。スケルトンやゾンビに体温はなさそうだからな」
メルは生命探知の魔法を使いました。
「この周囲には・・・。私と荷物さんだけ。後は遠くの方に森の動物さん達と、洞窟の中には何もなさそうですけど・・・」
「いないのか?」
「あ、でもマインドイーターの巣があるのかも」
「マインドイーター?」
「人間の脳味噌だけを食べるブレインイーターの幼体とも云われる魔物です。空気の中を漂うクラゲのような姿をしていて、人間の頭にへばりつき、魔力の源である精神力を奪い取ります。根こそぎ奪われるとその場で気絶するためそのまま野生の獣の餌になるか、衰弱死するかのどちらかです」
「弱点はないのか?」
「ございます。急激な温度変化に弱いので自分にダメージがあるのを覚悟で小規模な爆発魔法を使って引っぺがすのが有効ですね。後は空気中に漂ってる最中に氷結の魔法を撃ちこんで凍ったところを金づちとかで叩き壊すのが一番です。ただし、通常状態ではあらゆる攻撃を無効化し、また探知の魔法も、素因数分解魔法も効きません」
「どっかで聞いたような怪物だな・・・」
さらにメルは魔力探知の魔法を使いました。
「地面に何か。魔力の反応がありますね」
「魔力って?」
「さぁ?じゃ、行ってきてください」
メルは荷物に向かって洞窟に入るよう促します。
「行けって言われてもなぁ」
荷物は洞窟の入り口を覗き込みました。
「真っ暗で何も見えないぞ?」
「明りの魔法くらい使えるでしょう?」
「いや。使えん」
メルは荷物のその言葉を聞いて驚きました。明りの魔法は初歩中の初歩の魔法です。
どんな業突く張り魔法学科の生徒でも金貨十枚も出せば使い方を教えてくれる。そんな程度の魔法のはずです。
「本当に使えないのですか?」
自分の右手に魔法の明りを灯しながら、メルは内心『チッ。コイツマジ使えねぇな』と思っていました。
「そういえば宿屋のおじさんが若い頃使っていたっていたていう道具が荷物の中にあったはずだな。その中に明りになりそうなものがあればいいけど」
荷物は、自分が背負っていた『荷物袋』の中から明りとして使えそうなものを探します。
「毛布。ロープ。バールのような物。これは薬草っぽいな。あのおっさんの現役時代って言ったら十年以上前か?消費期限過ぎてんだろこれ?で、水筒。あれ中身酒じゃねこれ?俺達未成年だっつーの。でこっちにはパンとチーズか。流石にこれは新しいのみたいだな。あ、これは使えそうだな。ドラクエ1で出てきた松明ってやつじゃないのか?」
荷物は木の棒きれに布が巻き付けられた物体を取り出しました。布からは油臭い匂いがします。
「後はこいつに火をつければ・・・えっとライターはないかな?」
さらに荷物を漁っていると黒灰色の石が出てきました。
「これは、もしかして火打ち石って奴かな?これを叩きつければ火花が出て火が付くはず・・・あ。でも二つで一セットじゃないと意味ないんじゃなかったっけこれ?」
そこまで言ってから荷物はメルの母の形見の箱を思い出しました。そういえば残骸の中に。
「あった」
とても小さな破片ですが、同じ黒灰色の石がありました。よくみればその一部は摩耗しており、何度も叩きつけられた形跡があります。また、残骸の中には三日月状の金属部品もありました。
「これは引き金か?という事は火縄銃と違って弾丸か、あるいは装填された火薬と弾を引き金を引いた瞬間この石が動いて叩き、火花が出て点火して撃ち出す仕組みになっていたのか。いつでも発射できるかかなりの技術みたいだけど」
さらに簀巻きにされて馬車に乗せられいた時はできませんでしたが、荷物は錆びた金属棒を手に取って見ます。
『AD.1709』
「メルさんの御先祖様がこの世界に来たの三百年前かよ・・・」
ともかく、灯りはつけられそうです。荷物は火打石を使って松明に火をつけました。
「これでよし。・・・あれ?メルさん?」
メルさんの姿が見えません。
「もしかして先に中に入っちゃったのかな?」
仕方がないので荷物も後を追う事にしました。
洞窟はなだらかな下り道と、いくつかの横道。時折の行き止まりなどで構成されています。
垂直な穴などはなく、また危険な怪物などもなく、荷物は比較的簡単に奥深くまで進むことができました。そして六十度くらいの急な下り坂にさしかかりました。
その下にメルさんが倒れいるのが見えます。
「あれはメルさん?!もしかして例のマインドイーターとかいう化け物にやられたのか??!!」
そこに倒れていたのが宿屋の親父だったら見捨てていたでしょう。が、倒れているのは美少女です。
女の子です。多分処女です。間違いありません。ええおそらく。
荷物は考えました。
その必要はないな。女の子を助けることにはメリットしかない。
魔物に襲われる危険性?なにそれおいしいの?
バルスキツナお前なんの為のちんちんついてんだよ。
母ちゃん未来っていつさ?今だろ?
希望に向かってジャンプ!真っ暗な洞窟を奥深く降るだけだけど。
下り坂を無様に転げ落ちようできるだけカッコよく降りていきます。
そう。カッコよく。
その時。
荷物はある事に気づきました。
一旦荷物はメルの救助を中止すると、地上に戻って行きました。




