幕前の物語7
「カメリア村まで女性1名。荷物二つ」
自分の鞄と、そして簀巻きの冒険者を放り込んだメルは御者にそう言いました。
「荷物二つ?いやその兄ちゃんは・・・」
「食い逃げ犯に人権はありません。ただの道具です。荷物二つ」
「へい。カメリア村まで、女性一名、荷物二つですね」
荷馬車を操る御者は素直に従います。
「えぇと。僕はどうなるんですか?」
「荷物さんにはお仕事をして貰います」
メルの『荷物』の認識はあくまでも『荷物』でした。
「カメリア村という、帝都に穀物を供給するほかは取り立てて特徴のない村があります。その村の近くの森に数多の冒険者が挑んで、そして帰らない謎の洞窟があるのです。そこにいるであろう怪物を退治してくれらばいいのです。それで荷物さんは無罪放免です」
「もしできなかったら?」
「できなかったら死にます。逃げたらお尋ね者の賞金首になります。生死問わずで金貨百枚です」
どの道荷物の運命は積んでいます。
「娘さん。どこぞの御屋敷のメイドですか?」
年配の御者は荷物をガン無視でメルに尋ねました。
「はい。まぁそんなところです」
メルは答えます。
「それなりにいいとこにお仕えしてるんですかい?」
「しがない貧乏貴族でございます。ですが慈悲深い御方でして。山賊をしていた母をメイドとして雇いいれてくれたのが先代様でございますよ」
「へえ。お袋さん山賊だったんですか?」
老御者は、そして同乗する荷物も驚いた表情を見せます。
「はい。これがその当時母が使っていた長剣です」
メルは布に包んであった一振りの剣を見せました。
日本刀に似た曲刀ですが、持ち手の部分に手を護るハンドガードがついています。おそらくはカトラスと呼ばれる剣でしょう。
「あ、それとこれは母の形見ですね。とても大事な物だから誰にも渡すなと言われていたのですが」
そう言って小箱を開けると、中にはボロボロになった木くずと、錆びた鉄の棒が入っていました。
「なんじゃいそりゃ?」
「さぁ?」
「・・・それ。拳銃の残骸なんじゃね?」
「荷物さん喋らないでください」
メルが注意しました。
「そうだよ。あんたは荷物なんだ。人間みたくしゃべると料金を二人分取らなくちゃならなくなっちまう。だからしゃべらないでくれ」
御者も注意しました。
「・・・・いや。それはおいといて。古くて、風化してボロボロになってるけど。それ。持ち手が木製の拳銃の残骸じゃないのか?」
「ケンジュウ、ってなんですか?」
メルは荷物に尋ねます。
「えっと。多分この世界だとすごく珍しい武器だと思う」
「じゃあドワーフの武器職人の所に行ったら直してもらえますかねぇ?」
メルは尋ねましたが、荷物は難しい顔をして。
「・・・いや。保存状態が悪すぎるな。無理だと思う。それはお母さんのお墓に埋めてあげたらいいんじゃないのかな?」
「そうですか。ところで荷物さん」
「なんだい」
「人間を二人載せていると料金が嵩むので荷物らしく黙っていてください」