運ばれし福音
「君がダークエルフの長か」
帝都の宮殿。
その最深部にダークエルフ族の族長は招かれていた。
銀色の髪の長い女。浅黒い肌。
二十代前半に思えるが、暗幕の向こうにいる現皇帝より十倍は年を食っているのだろう。
「我々人間に協力したいというのは本当か?」
「はい」
ダークエルフは答える。
「魔王領に深入りし、魔王マイルズの遠距離魔法攻撃にさらされた陛下の軍勢をお助けし、無事領下までお連れしたのは我らでございます」
「そのような事をした理由を聞こうか」
「陛下はブレインイーターという魔物を御存知でしょうか」
「人の脳味噌を好んで喰らうと聞いている」
「ブレインイーターが食すのは人間の脳だけではございません。我々エルフ族もです」
「あいわかった」
皇帝は物わかりのよい人物だった。暗幕の向こうにいるので表情はわからないが、二十代前半くらいの男性。妙な事と言えば甲冑姿なのに意外なほど高い魔力が感じられることだろう。
それなりに才覚のある人物だと感じられた。護衛の一人もつけずに異種族も、しかもついこの間まで魔王軍の尖兵だった者と単独で謁見するとは余程自分の力に自信があるのだろう。それは街中で無為無策に暴れまわるだけの魔法学科の学生の慢心とは一線を駕すものである。
これならば。と、ダークエルフは駄目押しの一手をかける。
「陛下に手土産がございます」
「当方の兵に助力しただけで満足だが他にも何かあるのかな?」
ダークエルフは一枚の紙きれを見せた。
「魔王マイルズは上級高位魔族トヨヒサルスによって召喚された異世界の魔王でございます。ここ十年の魔王軍の勢力拡大はすべてこの異世界からの技術によるもの。これがその為の秘策」
「魔法陣が書いてあるように余には見えるが?」
「トヨヒサルスが魔王を召喚するのに使った魔法陣を私めが書き写したものです。これを解析し、然るべき儀式を行えば必ずや魔王を倒せる勇者が異世界より呼べるはずです」
「やってみる価値はありそうだが・・・」
皇帝は少し考える。
暗幕の向こうで、本棚を探す音がした。
「うむ。彼奴にやらせれば間違いなかろう。帝都魔法大学名誉教授『バルス・キツナ』」




