シマヅゥ=トヨヒサ ルス 硝石を造る
ある日魔王軍の参謀トヨヒサルスは配下のオークを呼んだ。
「家畜小屋に居る飼料用の人間を百匹ほど連れて来てくれ。それと人間に食わせる上等の餌もだ」
「飼料用人間でございますか?」
この異世界には。もしかすると別の世界にもいるかもしれないが、世の中には
「俺の胃袋は人間しか受け付けないんだ」
という『グルメ』なモンスター様も結構いらっしゃる。
上級高位魔族であるトヨヒサルスは下等な人間を直接餌とするようなことはない。
生物はもちろん、原型を留めた死骸から魔力を吸収することができる。この場合、魔力を吸収した死骸は地上から消滅する。また、『食事』をしなくても、大気中に存在する微細な魔力を常に徐々に吸収することができ、これによってかすり傷程度なら自然治癒するし、ちんけな魔法ならいくらでも使う事ができる。
大規模呪術の連続使用は流石に無理だが。
何らかの目的で人間のフリをして、人間の街に忍び込み、人間の食堂で、人間の食事をしても『胃袋』に該当するものが体内に存在しないので消化はできない。よって後で魔法で消滅させている。
そのような行為は無駄ではなく、こないだも相手の魔法を無条件で封印できる能力者がいる事を知った単なる享楽のつもりであったが、意外な発見がある者だ。今後も機会があれば続けようと思う。
「一部の肉食魔物に食わす為に飼っている人間共でありますか?」
オークは尋ねる。
「ああそうだ。連中に与える食事も忘れるなよ」
トヨヒサルスはオークに牢に居た人間百人ばかりを出させると、瞬間移動の魔法で遠く離れた場所にある森に移動しました。距離と運んだ荷物(人間)からして、かなりの魔力を消費するが、上級高位魔族であるトヨヒサルスはしばらくすれば自然回復の範疇でしかない。
「では貴様ら、この食事を喰え」
トヨヒサルスは人間共に食事を与えました。
「では次にウンコをしろ」
「いや食べた直後に出せと言われましても」
食事をした人間達は答える。
「おいオーク。お前人間達が食べた物をすぐに排泄するようにできる魔法なんて」
「はははは。トヨヒサルス様。我々オーク族が魔法の類が使えるとでも?」
そういえばそうだった。
「トヨヒサルス様こそ食べた物をすぐ排泄させる魔法とか使えないんですか?」
「いや。そういう常識外れの魔法を研究している連中が人間の中にはいるらしいが、残念ながら私は習得していない。そもそも今回はきちんと消化した糞尿を排泄してくれないと意味がない。仕方ない。この人間共が排泄するのを待つとしよう」
トヨヒサルスとオークは、たっぷり半日ほど待った。
「トヨヒサルス様。私なんかお腹が空いてきたんですが」
「なに?そうか。お前達は下等魔物は定期的に食料を摂取しないと自然死するんだったな」
「はい。餓死してしまいます」
「仕方ない。魔王城で弁当を用意して持って来てやろう」
トヨヒサルス瞬間移動の魔法で魔王城に戻るとオークの為に台所で弁当を作りました。そして、戻ってくると、オークが人間共に袋叩きにされていました。
「う、うああ!戻って来た!!!」
「なにやってるんだ貴様らは・・・」
まぁちょうどいいのでトヨヒサルスは指先からビーム連発して人間達を皆殺しにしました。
「生きているか?」
「は、はい。ありがとうございます」
オークはトヨヒサルスに礼を述べた。
「あいつらトヨヒサルス様がいなくなった途端襲ってきまして。すいません。数が多くて、何匹か逃げられちまいました・・・」
「まぁいい。目的は半分すんだ」
「目的と言いますのは?あ、わかりました!魔法でこいつらの死体を食べちゃうんですね!」
「違うぞ」
「えっ?それじゃあ・・・・あっ。魔法でこいつらをゾンビにするんですね!」
「違うぞ」
「えっ?それじゃあ・・・いったいどうするんですか?」
「硝石を作るのだ」
「硝石?なんですか?!」
「硝石とは火薬の材料だ。人間共の死体を糞尿と混ぜ合わせ、放置する。二、三年もすれば立派な硝石が取れるようになるぞ」
片足をボーラのような岩に乗せ、自分ではカッコイイつもりのポーズを取りながらそんな事を言う。
「凄いや!流石はトヨヒサルス様だ!ところで火薬ってなんですか??」
「・・・・そうだな。三年後に説明してやる」
説明するのが面倒くさくなったのでトヨヒサルスはそうあしらいました。
「ところでオーク。硝石を作る為にこの人間共の死体オーラと糞尿を混ぜなければならん。スコップの類を持ってないか?」
「もっているわけないでしょう」
仕方ないので、トヨヒサルスは瞬間移動の魔法でスコップを二つ取ってきました。
「よし、人間共の死体と糞尿を混ぜるぞ。手伝え」
「え?私もですか?」
「他に誰がいる」
トヨヒサルスとオークは深い森の中、糞尿と人間の死体を混ぜ合わせる作業を始めた。
半月くらい後。
「トヨヒサルス様!大変です!!」
「どうした。オークその1」
「我々の支配領内で疫病が発生している模様です!!」
「何?!!疫病が?それもよりにもよって我ら魔王軍の支配する土地でか??!!」
これは面倒な事になった。人間の土地であればいくら干ばつになろうが飢饉になろうと関係ないがそれが自分達の支配下の土地ならば話は別である。
「それで、どのあたりだ?」
「ついこの間。硝石づくりの為に人間の死体と糞尿を混ぜ合わせた森の近くにある、トロルの集落です」
「トロルの集落?」
とりあえずトヨヒサルスはオークを伴い瞬間移動の魔法でその場所に移動した。
トロル達は皆全身の皮膚に黒い斑点模様が浮かび上がり地面をのたうち回っている。
「オーク。お前はここで待て。純粋な魔族である私はともかく、生物に近い。というか生物だよな。生きてるお前がこれ以上村に近づけば疫病に感染する恐れがある」
トヨヒサルスはオークを村を見下ろす高台に残し、調査に向かいました。どうやらまだ息のある村人、もとい村トロルがいるようだ。
トヨヒサルスは村トロルに聞くことにした。
「なにがあった?」
「お、おでたちなにもわるいことしてないんだな・・」
「もりのなかでにんげみつけたからもてかえれむらのみなでたでただけだぞ」
「森の中だと?」
「うだ。ちょとへんなにおいしただとにんげんだ。おくでもごぶりでもねぇど」
「あ、まだいっぱい。ひゃっぴくくらいあるだ。あんたにもくわしてやるか?」
トヨヒサルスは暗黒魔法が得意です。
他にも炎の魔法が得意でです。
生き残りのトロルを全員焼き殺すと村に火を放ちました。
「ちょっとお尋ねしますがトヨヒサルス様」
「なんだオークその1」
「今生き残りのトロルに止めを刺して村に火を放ったように見えましたが?」
「いや。疫病対策としてはこれが常識なんだ。なにせ『中世ヨーロッパ風異世界』だからな。ほんと大魔王様から様々な知識を頂いて助かったぞ」
「まぁ、薬がないからそうするのが一番なんでしょうが」
「それに原因もはっきりした。あのトロル達は私が硝石を作る為に森に置いておいた人間の死体を食べてしまったらしい」
「本当ですか?」
「仕方ないかもしれん。トロルは筋力体力はお前達オークを上回るが、反面脳味噌はお前達以下だからな。それにしても糞尿をついた人間の死体なんぞよく食べようとしたな」
「いえ。そう決めつけるのはよくありませんよ。大魔王様がいた世界には、『フォンフェ』という料理があり、それは糞尿を詰めた壺にエイを漬け、それを冠婚葬祭の料理として出すのだそうです」
「糞尿を漬けた海産物を結婚式に出すなんて大魔王様が元々居た世界はどんなところだったんだ・・・・。ともかく今後はたやすく硝石用の人間の死体が食べられたりしないような場所で製造を続けるぞ」
「わかりました」
それから半月後。
「大変です!トヨヒサルス様!!」
「今度は何事だっ!!」
「人間の死体を拾い食いされないよう、洞窟の中で糞尿と混ぜ、硝石を造る作業をしていたのですが・・・その洞窟と連絡が途絶えました!!」
「なん・・・だと・・・?!」
オークの報告に、トヨヒサルスは精神力の減衰を知覚した。
「作業効率を高める為に、朝は奴隷、昼間は貴族、夜は農民の人間に作業させた三勤労務製のあの洞窟でか?」
「はい」
「人間共が逃亡したという事はないのか?」
「見張り番にゴブリンを大量に投入したのでそれはあり得ません。力も魔力も体力もありませんが、数さえいれば彼らの勇敢さは如何なる人間の勇者よりも勝ります」
「凄い褒め方だな」
ともかく調査に向かわねばならない。
トヨヒラスルは瞬間移動の魔法でオークと共に洞窟へ向かった。
「真っ暗ですね」
オークは言った。
「そうだな」
トヨヒサルスは答える。
「まるで生きている者の気配がしない」
「そりゃここで人間共の死体と糞尿を混ぜて硝石を造る計画だからな。ちなみに魔王軍でも極秘理の計画だ。万一にも人工的に火薬が大量生産できることが人間共の国に知られては困るのでな」
「それに妙な臭いがしますよ?」
「そうか?私は平気だし、特に危険な気配も感じないが」
トヨヒサルスは純魔族である。彼の嗅覚は人間のそれとは異なる。
匂いを感じる事はあっても、それは自分にとって直接危険なもの。例えば生物か否かであるかとか、人間かそれ以外の種族であるかとか、そういったものを感じるもので花や雨で濡れた土の香りなどを感じる事はない。
「ともかく明りがないと話にならんな。オークその1。お前松明持ってるか?」
「いいえ」
「まぁいい。魔法でなんとかするか」
トヨヒサルスは右手の指を突き出して得意の炎の魔法を使った。
駆け出しの冒険者も使う、焚火に火をつけるような小さな火種の魔法である。
CH4+3H2O
メタンガスとは、有機物の腐敗や醗酵に伴い発生する、無色のガスである。
メタン自体には臭いはないが、その発生源は臭う。
例えば人間の死体。例えば人間の糞尿。
地球温暖化の原因とされており、その効果は二酸化炭素の十倍と言われている。
また、その発生量は産業革命以後2.5倍に増加したという。
そして、このメタンは。
可燃性である。
洞窟内で作業していた人間とゴブリンは凄まじい悪臭の中で窒息死していたのだ。
そして、トヨヒサルスが灯した魔力の炎により、可燃性のメタンガスはよって引火した。
火薬の材料となる硝石を人工的に造るというトヨヒサルスの計画と共に光と熱になり、彼らは消えた。
巨大なクレーター。火薬の原材料を製造しようとしたトヨヒサルスの夢後を中心に直径三キロほどの窪みの外苑付近に右腕と下半身の千切れた緑イボガエルがいた。
人間に化ける魔術を維持するすることすらできなくなったトヨヒサルスである。
その損傷はもはや自然治癒の限界を越え、人間でいう出血や火傷による継続的なダメージが、周辺微細魔力による吸収回復を遥かに凌駕していた。
もはやここまでか。
覚悟を決めたその時である。
「トヨヒサルス様。御無事ですか?」
眼の前に一体の骸骨がいた。
「スケルトンジェネラル二号か・・・」
こいつとのレベル差は20ほどあったはず。だが今の自分のHPは一割を切っている。
いとも簡単に倒されるはずだ。
「すぐに魔王城にある治癒の魔法陣までお連れ致します。しばしの御信望を」
そういえばこいつの忠誠度は高かったはずだ。裏切る事など万に一つもない。
安堵をしたトヨヒサルスの意識は闇に呑まれた。
「スケルトンジェネラル二号」
「なんだ。今トヨヒサルス様の治療中だ」
「実は肉食魔物用に飼育していた人間達が大量にいなくなっているのがわかったのだ」
「それに人間達の国との国境に近いトロルの里が壊滅しているのがわかった。生命力に優れる奴らが滅んでいるのは我々の安全保障において重要な問題だ」
「そのことなのだが・・・トヨヒサルス様を見つけた爆心地の近くで多数の人骨を見つけた。間違いなく人間の物だ」
「人間のもの?」
「おそらくはトヨヒサルス様は飼育牢から逃亡した人間達が我々の領土内で組織的な破壊工作を行っているのに気付いたのだろう。そして自らオークやゴブリンを率いて征伐に赴いたのだ」
「なんと!それはまことかっ!!」
「そしてこれは人間達との壮絶な死闘の結果、名誉の負傷なのだ」
「そうであったのか・・・」
「さすれば今回の一件はトヨヒサルス様の独断と片づけるのではなく、我らの窮地を未然に防いでくれた勇気ある行為と褒め称えるべきだ」
「そうだその通り!!」
「然り!然り!」
二日後。目覚めたトヨヒサルスは彼岸花の花束を渡され、全快祝いを祝福されたが、その理由を理解するにしばし時間を要した。




