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異世界殺菌をする町医者  作者: 虹色水晶
異世界から日本に戻れば斬新な小説。なぜ誰も書かないのだろう?
15/31

裸の大将

「すげぇ・・・本当に人間の姿になっている・・・」


 トヨヒサルスは洞窟の水溜りに映った自分の姿を見ながら驚きとどまっていた。確かに美形の部類に属する端整な顔立ちだ。

 ただ、変化の魔法を習得したばかりのカエルの魔族とはいえ、尻丸出しの全裸男というのはどうだろう。


「ちょっとみんなにも教えてくる!」


「え?おーい」


 骸骨が止めるのにも無視して洞窟を飛び出すトヨヒサルス。もちろんフルチン。


「まっ、いっか」


 ツキシマはそばにあった手ごろな岩に腰かけると携帯を弄り始めた。

 異世界転移及び転生のテンプレ通りちゃんと電波は届く。

 地図はどうだろう。

 日本ではない。この辺りを中心とした山間部。森林が多く、川沿いにわずかに集落らしきもの。

 西方向にスライドさせると、かなり離れた場所に砦か城らしき建造物があり、その後方に立派な町があった。どうやら人間の街らしい。

 その先を見る事は出来ない。どうやら地図で見れるのはカエル達。もとい上級高位魔族であるトヨヒサルス達が行った事のあるエリアだけのようだ。

 ネットはどうか。普通にヤフージャパンに繋がった。


「アメリカ大統領ロナルド・ドランプ氏また暴言『北朝鮮に先制核攻撃を』

 スタジオギブリ新作映画BKA84から主役声優を起用。監督『これは素晴らしい作品になる』

 沖縄県米軍基地に食料を運ぶトラックを襲撃した地元住民を威力業務妨害で逮捕。

 『不当逮捕だ。今までこんな事はされなかった。最高裁まで争そう』

 中国政府高官『太平洋すべてが我が国の領海である』・・・」


 ツキシマはスマフォの接続を切った。


「ここ異世界だから日本の、てか地球のニュースがどんだけ見れても意味ないよなぁ・・・」


「おおーい骸骨いるかー?」


 トヨヒサルスの声が聞こえた。


「骸骨ではなく俺はそうだな。折角だから魔王マイルズとでも・・・っておい!」


 戻って来たトヨヒサルスの背後にはおそらく彼の同族であろう上級高位魔族とやらが百匹。いや百人ばかりいた。

 当然皆先ほどツキシマが教えた変化の魔法を即座に会得し、カエルから人間に変化している。

 男。女。老人もいれば当然子供いる。

 だがその全員が全裸であった。

 赤ん坊を抱いた女には乳房があった。

 お前らカエルだろ。胎生なのか。卵生じゃないんかい。


「てゆうかお前ら服を着るって文化がないのか・・・」


「服?服ってなんだ?」


「なんだトヨヒサルス?お前服も知らないのか?」


「何!知っているのかライテソ!?」


「オークが着ている革の腰布。あれが服だ」


 いや違うから。


「違うわよ」


 そうだ。違うぞ。人間と戦い、人間の姿を見た事有るお前達ならわかるはずだ。服というのは・・・


「ゴブリンがつけているフンドシ。あれが服よ」


 そう言った女はちゃんとフンドシをつけていた。

 前に垂れた前髪のお蔭でちゃんと胸の先端も隠れている。

 このせいで迂闊に彼女の発言を否定できないのが嫌だ。


「えっと、みんな服というのはね。様々な素材・・・植物の繊維。動物の革。それらを加工して作られる衣類の事なんだ」


「それって人間達が使う鎧とは違うのか?」


「それは知っているか?」


 ツキシマは尋ねる。


「兵士はみんな身に着けているからな」


 なるほど。人間と戦争しているなら服より鎧を着た人間を目にする機会の方が多いだろう。


「鎧と服は違うんだ。服は非戦闘員が日常生活において身につけるもので、重くはないが

ちょっとした尖った草とか、朝夕の寒さから肌を覆い、護ってくれるんだ」


「それは凄いな!」


「造るには当然材料が必要で、例えばカイコというむしからも服が造れるんだ」


「蚕?それならアタシら知ってるよ」


「何?本当か?」


 意外な答えだった。蚕があるなら絹糸が採れる。割と簡単に服の大量生産が可能になるかもしれない。


「生で食うと旨いよね」


「生で?」


「そっ。まぁ骸骨のアンタは喰えないけど」


 言って女は袋から白い芋虫を出して口に放り込んだ。

 確かに蚕は食用可能だが。

 せめて加熱してから食ってくれ。

 上級高位魔族を人間レベルの最低限度の生活水準に引き上げるのが大変そうだな。

 異世界に来て一時間も経たないうちにツキシマはその事実を痛感させられた。

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