あたしが一番言いたかったこと
あたしがそう言ったら、雅人おにーさんはちょっと悲しそうな顔をした。
「うーん……確かに動物病院には連れていったけど、結果的に助けてあげられてないからなぁ。ごめんな、さくら」
「でもあたしあの時、血がいっぱい出て、寒くて怖くて……雅人おにーさんが抱っこしてくれた時、本当に嬉しかったの」
「そっか、あの時さくら、意識がまだあったんだな。じゃあ、痛かったよな」
雅人おにーさんが可哀想に、って頭を撫でてくれるけど、違うの。あたしが一番言いたかったのは。
「あのね、痛かったし怖かったけど、あたし雅人おにーさんが助けようとしてくれて嬉しかったよって。ずっとずっと……ずっとあたし、そう言いたかったの! お話できるようになったら、絶対に言いたかったの……!」
一生懸命に言ったら、雅人おにーさんは嬉しそうに、照れ臭そうに笑ってくれた。
「そっか、ありがとな。さくら」
「あとね! あとね! 最初のころ、怖がらせてごめんなさいって」
「ははは! あれは怖かったなぁ」
「うう……ごめんなさい」
耳も尻尾もシュンとしちゃう。ちらっと見上げたら、雅人おにーさんはなぜだかとっても優しい顔であたしを見ていた。
「だから話したかったのか?」
「うん……! だって伝わらなくって、とっても悲しかったんだ」
やっと言えた!って達成感で、あたしはとっても満足してしまった。雅人おにーさんはにこにこ笑いながらあたしをまたいっぱい撫でてくれた。ああ、伝わるって幸せだなぁ。
「俺もあの時は無闇に怖がってごめんな。でも、今はさくらに会えて、こうやって一緒にいられることがすごく嬉しいよ」
「ほんと!?」
「もちろん。はは、やっぱり話せるっていいな。これからもこうやって、色々話しながら頑張ろうな」
「うん……!」
「二人の世界過ぎて割り込めない……!」
聡が悔しそうな顔でうめいてるけど、そこは割り込まなくていいと思うの。
「あとね、どうでもいいこともいっぱい! おしゃべりしたかったの……!」
「うんうん! いっぱいおしゃべりしようなー!」
急に聡が割り込んできて、あたしの顔を両手でグリグリって揉んできた。お、乙女の顔に、なんて事を……!
「話せるようになって感動! なのは分かるけど、そろそろ雅人の潜在霊力の引き出し方のほう聞かねえと、真面目に日が暮れちゃうから!」
「あ、ほんとだ。確かに日が暮れかけてる」
「聡もたまには役にたつのね!」
「さくらちゃん、意外に毒舌」
えへへ、お話に混ざれるのって楽しいなぁ。嬉しくって思わず二つの尻尾がうきうきと揺れる。でも、カメドノは難しい顔でふーむ、とため息をついた。
「その若者の霊力は近しい者に封じられておるでなぁ。ワシの範疇ではないのぅ」
「封じられてるって……」
「そこの、騒がしい方の若者と似た霊力で特殊な封がなされておる。解き方は、その者にしかわからんじゃろ」
「ばあちゃんか!」
「はは、灯台元暗しってやつだな」
なんだかいきなり気が抜けちゃった。百合香おばあちゃんがやったんだったら、きっとその時雅人おにーさんに必要なことだったんだろうって思うから。
カメドノにお礼を言ってお社へと帰る道すがら、今度は雅人おにーさんとも聡とも、たくさん、たくさん、おしゃべりした。
これからはこんな風におしゃべりしながらみんなと一緒に居られるんだって思うと、それだけでうきうきする。
「ねえ雅人おにーさん、あたしいっぱい頑張るから、これからも一緒にいてくれる?」
「もちろん! 一緒にいられるように、俺も強くなるから」
「さくらちゃん、俺もー!」
二人が答えてくれて、あたしはとっても幸せな気持ちになった。
ねえ雅人おにーさん。聡。あたし絶対これからも、二人の役に立つからね!
終
ご愛読ありがとうございました。
さくらが二尾になってお話できるようになるまで、と決めていたので、ここで第1部は完結とさせていただきます。
少しお話が纏まったら、雅人の潜在能力の引き出しから、二部を始めようと思っているので、もし良かったら、またお付き合いいただけると嬉しいです。
ありがとうございました(*´꒳`*)