【4.想い出】
【4.想い出】
【1】
学校に来た陸は、彼に視線を向ける。
机の上に出している彼の手帳を見ると、理希の手帳にプリクラを見つけてしまい、僕は苦笑を浮かべた。
このプリクラは、学生の頃に僕らがクリスマスの時期に撮ったもので、その頃の瞬間が切り取ってある写真だ。
「今でも、とってあるの?」
「大切なモノだからな」
急に現れた僕に、理希は恥ずかしそうに言うと、鞄の中にプリクラを貼ってある手帳をしまった。
「それを撮った時の事、覚えている?」
「覚えている。よく、お前とは佐久間の事で争ったよな。結局、俺もお前も仲良く失恋する結末って、笑えるよ」
「・・・そうだね」
僕は、佐久間の事が好きだった。
理希も彼女の事が好きだった。
よく仲良くライバルとして張り合うという青春の一ページを飾っていたけれど、今にして思えば、よくその状況が成り立ったものだと感じる。
彼も、僕が彼女に対しての感情に対して嫌悪感もなく、否定もせず、それどころか、対等にライバルとして扱ってくるなんて状況は、彼でなければ成り立たない環境だった事だろう。
「…陸、今でも好きなのか?」
「佐久間の事? 質問しなくても分かるでしょ?」
質問には答えずに、含みのある笑みで返した。理希にはこれでも伝わっていると確信できる。
【2】
「…クリスマスかぁ…」
少しグレーかかった茶色の髪を、短くショートにしている黒いセーターを着た高校生くらいの少女は、学校の机に頬杖をし、ため息を吐き出す。
クリスマスといえば、少なくとも学生にとっては特別な日。 告白するとかけじめをつけるために行動に起こすのが多く、独り身にとってはどこもかしこもカップルだらけとなり、 羨ましさもあって …間にわっていってわざとその手をさいたろか? などと半ば冗談でなかば本気でそんなことを思ってしまうものだ。すっと視線を横に向け、視線の先にいる人を見るとだれた。 白いパーカーを着た黒髪のロングの彼女はシルバーの携帯をいじって、メールを打っている。
やっぱり、予定、はいっているんだろうな…杳君と。
その根拠は、一つある。 前にこんな話をされたからだ。 とあるファミレスにて、彼女はこうきりだした。
『いきなり、杳が指輪のサイズ聞いてきてさ…どういう意味かな?』
僕はなんとか笑みを浮かべる。
『…さあ、どういう意味だろうね』
本当は、どういう意味かなんてピンとくる。 もうすぐクリスマスが近いということもあったし、アイツがそんなことを言い出したのは告白するだのの、それなりの理由があったからだろう。 それでも言わなかったのは、嫉妬からだった。 僕の不利に働くような事なんて言いたくないし、嘘はついてないしね。 それに彼ならまだ納得できそうだし…。
「ねぇ、佐久間」
「なに?陸」
「クリスマス暇?」
「あ、ゴメン…その日は理希と映画を見に行く約束になっている。ね、理希?」
「…うん」
控えめに頷くのは、隣のクラスで佐久間が好きな少年、一条 理希。
将来は小説家希望で、ごくごく普通のどこにでもいるような容姿に、 茶髪に染めている長めのショート。敵意のこもった視線を彼に向ける。
「…ふ~ん…」
嫉妬のこもった視線がそんなに怖いものなのか、彼はザーッと青ざめる。 見かねた赤髪の肩ぐらいまで伸ばした少女がとめにはいった。
「いい加減にやめなさいよ。そのあからさまに表情に出すの」
「…だしてないよ~」
この赤い髪の人は、如月 奈津。 中学校からの知り合いで高校一年の今現在では、よくも悪くも僕のことをよく知っている人物。彼女は、呆れた表情を浮かべた。
「だしている、だしているって。口調にも態度にも」
「…先約は俺だからな?」
ぴくっ 少し強気にでたな、少年。 でも、ここで僕がひくとでも思っているのかな?
「だから…?」
それがどうしたの?というのは含ませるだけで言わない。
「普段、接点ないから、これくらいならいいじゃねーか!?」
「何言っているの!いろいろ忙しくて遊んでなかったんだから!!」
「休み時間に度に、くっついてんじゃねーか!!」
「あら、あれはただのスキンシップよ」
「…いや、セクハラだって。一回、佐久間を押し倒したじゃない…」
「な、なな、何やってんだ…お前は!」
「何って…攻め?」
「さらっていうことじゃないでしょうよ、陸」
「……攻めるのはあたり前じゃない。じゃなきゃ、はっきりいっておちないよ?」
「そ、それはそうだけど」
「ま、予定が入っているならいいや」
「…やけに、あっさりしているんだな、陸」
「この場はとりあえずひくよ」
ほっと安心したかのように少年は腕を撫でおろす。 しかし、陸の本当の意味での言葉を彼は身をもって知る事となった…。
数日後。 クリスマス当日…。
「…で、なんでお前らがココにいるんだ?」
サクマと二人で待ち合わせしたはずの映画館に、陸と奈津が来ていて彼は思いっきり 不機嫌な表情を浮かべた。
「偶然に決まっているじゃない?」
待ち合わせ場所と時間がどうやったら同じなるのか、ぜひとも教えていただきたい。それに、彼女の場合はわざとしている。二人っきりというのをぶち壊すためにきたんだ…絶対…。
アハハ…本当、ぐ、ぐぐ、偶然で」
奈津はそう言って笑っていつものの、声があきらかに棒読みだ。陸が彼女を脅してつれてきたのだろう。
結局は彼女の、
「まぁまぁ、せっかくだし、みんなで遊ぼう♪」
という言葉でおさめられてしまった。 陸も彼女のいうことなら聞くようだ。 彼がため息を吐くのと正反対に、
陸は満面の笑顔を浮かべた。
「「…そうだね…」」
「あ、映画限定のプリクラだって…撮ろ?」
見ればすぐ近くにプリクラが置いてある。 サクマはうきうきしながらカーテンの中にはいっていく。 四人なのでちょうど一人百円ずつ入れる。 入れ終わると陸はきっちり隣をキープしていた。
「ちょっと待て!」
「何?」
「お前なんで隣にいんだ!」
「理希にとやかく言われるすじあいなんてなーい」
「あぁ、抱きつくな!!」
「…いちいちうっさい」
「あ、あの…」
「うっさくなんかねー!!」
「男の嫉妬って見苦しい~」
「…てめ…」
「ね、佐久間?」
「…って言われても」
「ほら、困ってんじゃねーか!その手、離せ!」
パシャ
「「「「…え…?」」」」
四人とも気が付いてなかったが、時間が過ぎて撮られてしまっていた。
陸がサクマを抱き寄せるようになって、理希はサクマの方をチラッ見ていて、奈津が困っているという風な構図は、今の恋愛模様を描いているようなものだった。
そんなプリクラを見ていると、今でも笑みが浮かぶ。
【3】
そんなプリクラを見ていると、今でも笑みが浮かぶ。
僕にとっては、真由香が探していた何かはこのプリクラもそうだった。
「懐かしいよな」
「…そうだね」
「あの頃、お前の事は嫌いじゃなかったよ」
「本当? 何回もケンカしていたじゃん」
笑いながら言うと、理希は真剣な表情を浮かべている。
「それはライバルだったからな、でも、本気で向き合う事ができたからケンカできていたし、あの頃が一番楽しかった。お前が居たから」
「まさか、好きだったとか言わないでしょ」
冗談のつもりで言ったのに、いつもの軽口はかえってこなかった。かわりに正面から真剣な表情で見つめてくる彼がいる。
「好きだった」
「……ごめん、恋愛の意味でなら答える事はできない。それに理希は佐久間の事が好きだったでしょ?」
「陸がそう答える事くらい、分かっている」
理希は苦笑を浮かべていた。
「あの時は気づかなかったけど、陸の事が好きになっていた」
「…そっか」
否定する事は、僕にはできなかった。受け入れる事も僕にはできない。できるのは。肯定する事だけだった。たぶん、僕は彼の気持ちには途中で気づいていたのかもしれない。それでも、見えていないフリをしていたんだ。気づいていると自覚してしまったら、どう対応したらいいのか分からなかったからだと思う。
「もしかしたらって、気づいてはいた。ごめん、それでも気持ちにこたえる事ができない。僕は、今でも佐久間の事が好きだから」
「…そうか」
「今日は、その事だけ伝えておきたくて会いにきた」
「……もう、会えないのか?」
「気が向いたら、また、会いにくるよ。今度は、佐久間と一緒に」
ケンカ友達でも、心の中を素直にさらけ出してケンカできた理希だから、僕にとっては大切な存在だ。僕が彼女に抱いている気持ちに対して、否定せずに肯定してくれた。ケンカもできるくらい素直になれたけど、理希じゃなかったら、きっと、こんなに仲良くなっていなかっただろう。
そして、そんな環境は恵まれていた。
「楽しみにしているよ」
笑顔で彼はそう言った。
【4】
学校から帰ってくると、僕は自分の部屋に向かった。マンションの一室に、僕の部屋がある。愁の家の一部が、僕の部屋だ。
箪笥と洋服と眠るためのベッド以外は何もない。私物のほとんどは、後から購入したもので思い出の品物はほとんどない。そんな中、ブレスレットだけは別だった。
箪笥の引き出しを開けると、ブレスレットと手帳が片隅にしまってあるのを取り出す。
ブレスレットは、いつもつけていた。シルバーの輝きがするブレスレットは、佐久間から誕生日プレゼントとして渡された物だ。
「…分かっていたんだよね」
好きな相手の事は、興味があるからよく見ているという事もあって分かってしまう事がある。話している口調、表情、雰囲気、何が好きで好みのタイプがどんなもので、どんなペットがすきだとか、他愛のない事も、自分にとって知りたくないような別の人が好きだと向いてる事も、分かってしまうし、感じとってしまうものだ。
あの時の僕は、佐久間にとって好きな相手が自分に向いていない事を知っていたように、彼は、僕が佐久間以外に振り向かない事を知っていただろう。あれだけ、態度に出していれば分かるだろう。
そっとブレスレットに触れると金属の冷たい感触がした。
愁は覚えていなかったかもしれないが、僕が彼と出会ったのはその頃ではない。もっと、以前の事で、その当時に彼は真由香と出会っている。
もっとも、出会った時には男性で、今回は女性なっているし、雰囲気もしっかりしている雰囲気から、愛嬌のある可愛らしい雰囲気に変わっているのもあって思い出せないかもしれない。
僕が自分の気持ちに素直になって、佐久間の事を思い続けたのは、過去世の不器用な愁たちの影響だと思う。
「…本当に、嘘つきだね」
小声でそうつぶやく。
「僕も理希の事は友達として「好き」だよ、今でも」
本人に聞こえないように、自分の部屋で本音をささやいた。誰もいない室内では、聞く者は誰もいなかった。
【5】
あれから愁に真由香から連絡があり、探していた「何か」は見つかったとメールで連絡があったようだ。
それでも、嘘つきと呼ばれた理由には、本当に心当たりがなかったようだ。
今日もいつものように愁がマスターの淹れる珈琲を飲むために、執事喫茶店に来店している。そして・・・。
「うん、美味しい」
「気に入ってもらえてよかった」
ルカは陸に笑みを浮かべてそう答える。なぜか、陸も常連客として来るようになっている。理由を尋ねると、俺の淹れた紅茶が飲みたくなったからだそうだ。
「ここは、非日常のように感じる」
「だからこそ、人気があるんだよ」
陸の隣には、理希という青年が向かい合わせで座っている。学校の教師のようで、どこか真面目そうな雰囲気をもっていて、戸惑っているようだった。
「ね、ルカ」
「そうですね・・・日常を適度に忘れるといいのは、いいリフレッシュになるではないでしょうか? いつも日常の中にいると、知らず知らずのうちにストレスをため込みやすくなってしまいますし」
「そうですね」
ここには、癒されたいと思っているお嬢様方が多く来店されている。ほっと一息つきたくなった時や、飲み物を味わうため、または、店員との会話を楽しむ人もいる。
「あ、追加注文で焼き菓子が食べたい♪種類は、まかせるから」
「かしこまりました。少々お待ちください」
礼をすると、厨房に向かった。
一から料理をすると時間がかかってしまうため、焼き菓子は作り置きしてある中から選ぶ事になる。その中で俺はビスコッティーを選び、お皿にのせた。
たぶん、俺はこれからも香月事務所と執事喫茶のバイトを続けていく事になりそうだ。
執事喫茶では、疲れたお嬢様方を癒すための非日常を作る事にやりがいを感じているからだ。香月事務所は今も謎の部分が多いが、困っている人を助けたい方針や、事務所の雰囲気もいいのでそこで手助けができるのならば、やりがいを感じている。
ビクコッティーを乗せたお皿を持って、テーブルに戻った。
「お待たせいたしました、ビスコッティーでございます」
お皿を、テーブルにのせた。
美味しいと言って食べている陸を見て、ルカは笑みを浮かべる。
人が大切にしているのはモノは、「物」でもあるし「者」でもある。それは、「物」にこめられた「者」の想いを感じる事ができる感情を、思い出す事ができるからだ。
いろいろ記録する媒体が増えてきていても、その場でしか味わう事のできない5感をとうさないと感じる事のできない「何か」は、表現する事が難しい。それを百パーセント表現する事などできない。だからこそ、直接人と人が触れあう瞬間が大切で、なくしたくないものだと感じる。
ドアが開く音がして、帰宅したお嬢様の姿が見えた。
それに気づいた黒崎雫は、笑みを浮かべて出迎える。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
END




