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赤い雪  作者: harucaze
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1.目撃

田舎は嫌いだ。二十一世紀に似つかわしくないような風習、村社会。こんな田舎、早く出ていきたい。

この村には学校はあるものの生徒は全然いない。一クラスあたりの人数が少ないからなのか教室はとても大きく感じる。そんな無駄に広い教室の隅に一つだけ浮いている席がある。その席には小学生の時は仲良くしていた雪という女の子が座っている。この狭い村で育ってきた私にとって、都会からやってきた彼女は憧れの子であり、仲良くなるのは自然なことだった。私たちの関係が変わってしまったのは小学生4年生の頃。突然両親に雪と関わるなと言われたのだ。雪は俗に言う村八分というやつに遭っている。本当にくだらない。後から知った事だが、夏のある日、雪の家族はこの村の禁足地とやらに足を踏み入れた。そして、雪だけが帰ってきた。村の奴らはそれを神の祟りだと恐れ、彼女を差別するようになったらしい。禁足地なんてある訳ないのに。この村の奴らは本当に頭が悪い。





時刻は午後9時、都会ならば昼と変わらない程明るいのだろうが、ここはこんなにも田舎なのだから真っ暗だ。今ならバレずに禁足地とやらに入れる。私はここに入って、禁足地なんてことないという事を証明してやるんだ。


入ってみた結果は……何も無かった。本当に何も無かった。てっきり怪しい祠とか何かがあるものかと思ったのだけど何も無かった。やっぱり禁足地なんて嘘じゃないか。そんなものは村の奴らの乏しい想像力で精一杯考えた妄想に過ぎないのだ。帰ろう、もう眠いし、明日も早い。そうして、私は家に向かった。私はこの時の行動をこれから後悔する事になるとは想像もしていなかった。







代わり映えのない1日、今日もつまらない授業を受け終わり、家に帰る。毎日が決められたルーティンみたいだ。だけど、今日は違った。職員室に用があり、帰るのが遅くなってしまった。荷物を取りに教室に戻ると、彼女がいた。いつものように、無視して帰ろう、そう思った矢先に彼女から声をかけてきた。

「琴葉、昨日あそこに入ったよね?」

「え?」

突然話しかけられた?数年は話してなかったのに?

それになんでその事を?とりあえず、隠さないと。

「あそこって?なんの事言ってるの?」

動揺して、上手く発音ができない。体が震える。

「隠さなくていいよ。写真あるから」

雪のスマホの画面には禁足地に入る私が映っていた。まずい、それがこの村に広まったら私の家族が危うい。私はこんな村出て行ってやるから良いけど、私の家族まで村八分にされるのはダメだ。

「……何が目的なの?」

「単刀直入にいうと、私に従ってほしいの」

雪は従属を求めてきた。私は逆らえない。雪が何を考えてるのか分からないのに、私は首を縦に振るしかない。あの写真がある限り、どちらにせよ私は彼女に従うしかないのだから。

「じゃあ今夜家に来て。」

私に出来たことは不服そうに首を縦に振ることだけだった。






夜、私は雪の家に向かった。雪は村の外れにある家に村の変わり者の婆さんと一緒に住んでいたはずだ。こんな狭い村だけど、数年行ってなかった場所に行くのは苦労した。家の前に着くと、扉の前に雪が立っていた。

「あっ、本当に来たんだ」

「……来るしかないでしょ」

「よく分かってるじゃん。ま、取り敢えず上がりなよ。」

家の中は静かで薄暗い。明かりはついてるはずなのに。どうやら、婆さんはもうここには居なく、今は街で家族に介護されているそうだ。こんな雰囲気なのは、そのせいだろうか。

「それで、なんの用?」

「ねえ琴葉、この村の事嫌い?」

この質問の意図が分からない。そりゃ、こんな村のことは好きではない。だからといってその全てが嫌いという訳ではない。かれこれ十数年この村で過ごしてきたのだ。嫌いなところは沢山あれど、好きなところだって少しはある。だから、答えに少し詰まった。

「……嫌い、かな?」

「だよねだよね!やっぱ琴葉ならそういう言うと思ったよ!」

まあ、村八分にされてきた雪にとってこんな村は嫌いでしかないだろう。でも、この反応は何だ?雪は何を考えているの?

「私ね、この村を壊してやろうと思うの。」

「……は?」

「こんな村、滅んじゃえばいいじゃん。排他的で差別的。人を人とも思わない村人ばっか。要らないでしょ。」

「だからっておかしいよ……そんなのどうかしてる」

「うん。どうかしてるんだよ、私は。でもさ、私は化け物だからこの村を滅ぼすのは何らおかしな事じゃないでしょ?化け物に滅ぼされるお話なんて山ほどあるじゃん。」

化け物、それはこの村の連中が彼女に浴びせて来た言葉だ。それに気づいた時、私は思った。これは、報いなのだと。妄想で人を差別してきた報い。この村は、それをこれから受けるのだ。

「まあ別に断ってもいいよ。そしたらこの写真をばら撒くからね。」

「……やめて」

「じゃあ協力してくれる?」

「分かった。するから、するからやめて…」

「やったぁ!琴葉ならそう言ってくれると思ったよ!」

そう言う雪の瞳には喜びなどは少しも写っていなかった。あったのは、ただ狂気だけ。

「そうだ、もし誰かに告げ口したら絶対に許さないから。」

「しない。絶対しないから。」

「ふ〜ん、じゃあいいや。それじゃ、作戦会議を始めよっか。」

こうして、私は彼女の共犯者になった。






「祭りの日にさ、この村に火をつけようと思うんだよね。」

彼女が明かした計画は1ヶ月後の村の全員が参加する祭りの日に、村中に火をつける事だった。この祭りでは、村の連中は1箇所に集まるので、シンプルだけど、だからこそ大打撃を与えられる作戦だと思った。

「それまでに数人殺しとこうかなって。そうすれば皆ビビるでしょ?」

言葉が出てこない。どうすれば彼女を止められるのか。今ならまだ引き返せる。止めろ。止めろ。ここで彼女を止めないと。待っているのは誰にとっても最悪な未来だけ。

「……なに、その目。本当は協力したくないんでしょ?」

バレた。バレてしまった。彼女の計画を知ってしまった私は、生きて帰れるのだろうか。

「都会に憧れてるんだよね?」

「……うん」

「だったら私に協力するべきって何で分からないかな。この村はね、1度外に出た奴を許さない。おばあちゃんがこんな村の外れに住んでたのは息子が外に出て行ったせいだし、結婚してこの村に戻って来た私の家族はこの村に殺された。分かる?この村から琴葉が出て行ったら、琴葉のせいで家族が差別されるかもよ?」

それは……嫌だ。でも、雪の言ってることが嘘では無いことはすぐに分かった。それを語る彼女の顔が、とても真剣なものだったからだ。

「外に出たいんでしょ?だったらやるしかないよ。」

この時の私には、雪の言っていることがもっともらしく感じられた。私はどうかしていた。雪に従うのは悪い事だと分かっていたのに、雪に従わずには居られなかった。いや、違う。自分の目的のために、雪の提案を言い訳にしようとしていたのだ。

「……わかった。協力する」

「さすが雪!」

「それで、何をすればいいの?」

「村長の息子、殺そうよ」

そう言った雪の顔は嬉しそうだった。

私はその後、計画を二人で立てて、家に帰った。不謹慎だが、久しぶりに雪と話したからか、少しの懐かしさを覚えたのだった。






琴葉が帰ってから雪は何も無い天井を見つめ、これかの事を思い描いていた。そんな雪の口から、ある言葉が漏れる。

「琴葉って本当に馬鹿だよね」

それは紛れもない、雪の本音であった。





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