被害者の一言。
銀次達は何を食べるかを話しながら片付けをしていた。
「肉っぽい肉……ステーキかな? あっ、ありがと」
「「「どういたしまして!」」」
ソラが通行禁止のコーンとバーを片付けようとすると、見物人を推しとどめていた男子達が軍隊を思わせるような連携であっという間に片付けてしまった。工具を几帳面に並べて閉まっている銀次はそれを訝し気に見ているが特に何かを言うのは止めて哲也に話しかける。
「ステーキとか実はあんまり食べたことないな。なぁテツ」
「……そうかも」
手持無沙汰になったソラが桃井兄弟の横にしゃがみ込む。
「時間があれば、ヘルシオでアメリカ風の巨大肉みたいなのも作れるよ」
「魅力的だが、腹減ったからすぐ食べたいんだよな。今日は、昼飯まだ食べてないし」
「昼頃には帰る予定だったもんね……話してるとボクもお腹減ったかも」
工具箱へ工具を入れ終えたタイミングで、タイの色から二年生と思われる女子が視線を彷徨わせながら近寄って来る。
「ご、ごめんね。あの、桃井君だよね?」
「そうっすけど?」
ちなみにこの間ソラは、知らない人が家に訪れた時の猫のように警戒心丸出しで、銀次と二年生をキョロキョロと見ている。
「貴方の力が必要なのっ!!」
「……はい?」
風切り音が聞こえるほどの勢いで頭が下げられ、首を捻る銀次と無表情のテツ。そしてその横でプクーとほっぺを膨らませたソラが銀次の服をギュっと握りしめていたのだった。
「……んで、こういうことか」
「……だね」
工具箱とバケツリュックを背負った桃井兄弟と、銀次の作業着の裾を握って背中に隠れるソラが案内されたのは教室棟二階の視聴覚室だった。室内は文化祭での出し物であるお化け屋敷の準備をしている最中のようだ。暗幕やライト、それと通路を作る為の板張りのパーテンションが並べられている。
「私達は二クラス共同でお化け屋敷をしているの。音響が使えるから、視聴覚室を選んだんだけど、天井に暗幕を付ける為のパネルが設置できなくて……その上からフックをかけたいんだけど……頼りにしていた男子達が四季さんに誘われて生徒会の手伝いに行っちゃって、私達じゃ取り付けは怖くてできないの」
壁や天井を傷つけないように養生パネルを天井や壁に取り付けるのだが、脚立を使った作業に慣れていない二年生はかなり悪戦苦闘しているようだ。脚立の周りには苦戦の後を示すようにパネルや固定具が散乱していた。
銀次がちらりと時計を見ると、時刻は午後三時だった。自分のクラスは準備をほぼ終えているというか追い出された形だし、時間的には余裕がある。
「まっ、これくらいなら俺だけでもいいか。テツ、ソラ、俺は手伝ってから帰るから……」
「……手伝うし」
「えーと、どれを準備すればいいのかな?」
哲也がドサリとバケツリュックを降ろして腕を回す。ソラはさっそく机に置かれていた配置図の記憶を始めていた。
「おいおいお前等まで付き合わなくてもいいって」
「……兄貴が俺の立場だったら、手伝うでしょ?」
「そうだよ……というか、こんな場所に銀次を置いていけない……」
ブツブツと黒いオーラを出すソラである。銀次は照れくさそうに少しだけ笑ってパンと頬を叩いた。
「うっし、さっさと終わらせんぞ。先輩、自分と弟がキャタツ登るんで下からパネルとコマンドフックを渡してくださいっす」
「……」
「先輩?」
「あっ、うん、そうだね。えとコマンドフック? このフックだよね! えと、うん、私が渡すね」
「お願いします」
普段が強面の銀次の笑みは一部の女子に強烈に刺さったようで、銀次を案内した先輩とその後ろの何人かの女子が一瞬思考を止めていた。それを見て震えるソラにそっと哲也が囁く。
「兄貴は鈍いし、ぶっきらぼうで怖がられることもあるせいで、自分では気づいていないっすけど……」
「うん、前に中学校へお邪魔した時からそんな気していた。銀次って普通に女子にモテるよね……しかも、かなり熱烈に……こ、こうしちゃいられない」
女子からの熱視線に全く気付かずに銀次は脚立の方へ向かって行き、それをソラは涙眼で追っていくのだった。
「……俺はこっち」
哲也は他の脚立へ向かって銀次とは反対側へ持っていこうとすると、別の女子がやってくる。
「桃井君の弟君だよね。さっき中庭でその、助けてくれてありがとう!」
中庭でこけそうになっていたのを哲也が助けた女子がニコニコと笑顔で、その上周囲の女子を巧みに牽制しつつ哲也に微笑みかける。見れば、明らかにこのクラスでない女子達もいるようだ。
「……うす」
一応、視線で兄とその彼女へ助けを求めようとするが、向こうは向こうでソラが銀次にベッタリと張り付いて彼女アピールをしていてこちらへは気づいていない。哲也は心の中でため息をついて、ジリジリと近寄って来る高校生から距離を置こうと急いで脚立に昇ったのだった。
こうして、二年の手伝いをしていたと思ったら今度は別の手伝いや、ソラへパネルを描いて欲しいといった依頼もあり、お化け屋敷を一つ手伝ったことで断りづらく三人は下校時刻の18時までみっちりと学校の至る所の手伝いをすることになったのだった。
「……腹が減った」
「……」
「つ、疲れたよ。うぅ、何か凄い見られてたし……」
「お、おう。お疲れさん。頑張ったんだなぁ皆」
自転車も乗せることのできるバンで迎えに来てくれた、工場の岩崎社長が三人へ労いの言葉をかける。
途中の商店街で降ろしてもらい、肉屋へ寄った三人はステーキ用のアンガス牛のリブステーキを購入。ソラが一番高い肉を注文しようとしたのを桃井兄弟が止めたかたちである。
桃井家へ到着すると、銀次と哲也は交互にシャワーを浴びに行き。ソラは壁にかけてある自分のエプロンを付けて、フライパンで肉を焼き始めた。
少し分厚めのステーキ肉を十分に熱して牛脂を塗った鉄のフライパンで強火で一分ほどさっと焼いて、裏面はさらに短く、後は余熱でじっくりと熱を入れていく。フライパンの大きさのせいで二枚しか焼けないので、余熱で火を入れるうちに追加でもう一枚焼き始める。
「付け合わせは……っと簡単にしちゃおっか。アスパラ無いからブロッコリーを焼こうかな」
「手伝うぞー」
シャワーを浴びた銀次が頭を吹きながら台所に入って来る。
「うん、こっちお願い」
「おうっ!」
もう一つのコンロで銀次がブロッコリーを焼いていく。肩の当たる距離での調理だが、二人は慣れたものでお互いを邪魔することなく調理を進める。
余熱が入った肉を今度はバターと一緒にフライパンへ入れて、中火の火加減でまた一分ほど焼いて取り出してアルミで包んで火を入れていく。時間の都合で焼き加減が数十秒程ずれているが、ほぼ誤差だ。なによりあまりに空腹過ぎた。
「完成っ!」
「米は朝炊いて来たからな。バッチリだ、付け合わせもできたぞ」
首にタオルをかけた銀次がグリルしたブロッコリーを皿に盛り、ソラもステーキを皿に乗せる
「ソースソース、ちょっと待って」
「塩でもいいぞ、マジで腹が減ってるからな」
「二分で作るからっ! えーと、醤油、味醂……」
先程まで肉を焼いていたフライパンをキッチンペーパーで余分な脂を拭きとって、醤油、味醂を加えて薄く切ったニンニクを入れる。焦げないようにスプーンで回しながら煮詰めていき、とろみがついたらソースの完成だ。大急ぎでソラが皿に盛られたステーキにソースをかける。居間で正座待機をしていた哲也の前にデンとステーキとブロッコリーが運ばれお茶と大盛の白米も置かれた。
「「「いただきます!」」」
こうなればもう止める者はいないと、三人とも一気にステーキと白米を頬張る。数分は一言もしゃべらずに食事を続け、グビグビとお茶を飲むとため息をついた。
「はぁー、生き返った!」
「お昼も食べる時間なかったもんね……」
「……美味しい」
妥協せずに作った最後のソースが決めてであり、肉に絡めたバターと相まって白米との相性を高めていた。あっとう間に三枚あった肉とブロッコリーを食べ終えてしまう。一息ついて、お茶飲みながら銀次は哲也に頭を下げた。
「テツ、今日はありがとな。そういや、どうして肉が食べたいって話しになったんだっけ?」
午後の忙しさもあり、銀次は愛華とのやり取りを本気でド忘れしたらしい。
「それは……」
横から答えようとして、ソラは口をつむぐ。思い出す必要もないほどにどうでもいいことだ。
「何でだろうね。それよりも疲れたよ銀次~、マッサージしてもいい?」
「話の流れ的に俺がされるのは逆じゃないか?」
「銀次をマッサージすることでボクの疲れが取れるんだよ」
ソラが銀次にしなだれかかり、銀次がソラの頭を撫でようとすると目の前の食器が持ち上げられ、立ち上がった哲也の絶対零度の視線が二人に突き刺さる。
「……そういうのはソラ先輩の家でやって」
「「……はい」」
それは今日一日、散々目の前でイチャイチャを見せられた哲也の重い一言だった。
その後、ソラ宅にて二人がしっかりとイチャイチャしたことは言うまでもなく、帰りに銀次はコンビニで哲也の好きなアイスを買って帰ったのだった。
次回は多分月曜日更新です!
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