軽々と受け止める
「銀次、しっかりとソラちゃんを送って来るんだよ」
胸の下で腕を組み、仁王立ちの姿勢で見送ってくる燈花に銀次はため息をつきながら引き戸を開ける。
「わかってるって。行くぞ、ソラ」
「お、お邪魔しましたっ!」
「また来るんだよ。金一もソラちゃんを気に入ったみたいだからね!」
「……」
燈花の横にいる金一が静かに頭を下げ、後ろで哲也も手を振っていた。
ソラは何度も頭を下げて、銀次と一緒に家の外に出る。
まだ少し生暖かい夜風の中を二人は歩いていく。銀次は自転車を押しており、二人乗りもできるがなんとなく歩きたいとソラが言ったのだ。銀次としても、なんとなくそんな気分だった。
「……ありがとよ」
桃井宅が見えなくなったほどの距離で銀次がポツリと呟いた。
「何が?」
「親父と話してくれたことだよ。母さんも言っていたけど、親父、嬉しそうだった」
「そうなんだ……全然わからないけど……」
記憶の中の金一を思い出すが、微かに眉が動く程度でほとんど表情の変化が無かったように思える。
まだまだ自分の観察眼が足りないのかもしれない。
「まぁ、俺も正直わからんけどな。でも、まぁ、楽しそうだったよ。何考えているかわからん親父だけどな。何を話してたんだ?」
「……銀次をもっと、甘やかすように言われた」
「ぜってぇ嘘だろ!」
「大体そんな感じだったと思う……うん、間違いない。つまりここからは親公認の尽くしたがりだってことだね」
ソラはそのままステップを踏んで銀次の前に出る。
「転ぶぞ?」
「銀次が支えてくれるから大丈夫」
「自転車押しているつーの」
「エヘヘ、銀次のお父さんとお母さん仲良しだったね」
銀次の前を歩きながら前を向くソラ。
「まぁな。昔からあんな感じだよ」
「ボク等もずっとイチャイチャしようね。おじいちゃんとおばあちゃんになっても、ずっと、ずっと」
星が降って来るような夜空の下でそう言うソラの表情は銀次からは見えない。
ただ、その声音がどこか寂しそうな気がしたから。銀次は歩を早めてソラの横に並んだ。
「あぁ、しようぜ。ずっとな」
力強くそう言った。ずっと一緒だと、ソラを一人にしないと自らに言い聞かせるように。
「そう言ってくれると思った」
「当り前だろ」
耳まで赤く染めてそう言う銀次を見て、星を見上げる。
先のことはわからない。それでも自分達は大丈夫だと信じることができる。
「銀次のお父さんとお母さんを目指すっ!」
「……それはなんか嫌だな。こうなりゃ、より上を目指すか」
思春期の男子としては仲が良すぎる親に思うこともあったが、自分達を振り返ると悪く言えないことに気づき、ちょっと複雑な気持ちになる銀次なのだった。
「あ、あれより上……流石銀次。志が高い」
「いや、適当に言っているだけだからな」
本心ではあるが、自分が自制しないとソラはどこまで暴走するかわからない。
そうこうしているうちにソラの家に着くと、ソラは銀次に自転車を止めさせて玄関に招き入れる。
「ソラ、今日はもう遅いし帰るぞ」
「ちょっと待ってて、えーと……あったあった」
ソラは椅子を持ってきてその上に乗ると銀次を抱き寄せる。
柔らかな感触とソラの香りに包まれる。ソラに抱きしめられることは何度もあったが、こうして立ったままで胸に抱かれることはあまりなく、銀次は硬直しながら柔らかな感触をかき分けて上を見上げる。
「銀次、大好きだよ。何度だって言うからね」
何か言い返したいが状況が状況の為に何も言えない。
されるがままになる銀次の耳元でソラは優しく囁く。
「銀次のお父さんにね、銀次は自分のことを後回しにするって言われたんだ。だからね、ボクの中の全部の一番を銀次にしたいんだ。ボクが辛い時は君に一番に言うし、君の辛い時はボクに一番に言って欲しい。楽しい時も嬉しい時も、一番はキミがいい。銀次がいいんだ」
強く、強く、抱きしめる。この人を幸せにしたい。
「ムゴ……」
「わひゃ、くすぐったい」
抱きしめられた銀次が喋ろうとすると、振動がこそばゆい。
埒が明かないと銀次は椅子の上に立つソラの脇の下に手を差し込んで、持ち上げる。
「わっ!」
解放された銀次がジト目でソラを睨みつける。
「ったく、好き勝手言ってくれたな。いいぜ、そこまでいうなら俺だってソラを一番にするからな」
「いいよ、ボクはもうそのつもりだもん。重いとか言っても遅いもんね」
「はっ、軽いっての。全部受け止めてやんよ」
そのままソラを優しく降ろした口づけをして、もう一度抱きしめる。
「むー、せっかく銀次を甘やかしてたのに逃げられた」
グリグリと頭を銀次の胸元に擦りつけるソラ。
「俺だってソラを甘やかしたからな」
「甘々だ……」
「明日も学校だってのに、何か疲れたぜ……」
「泊まってく? 明日休んじゃう?」
「委員会も美術部も忙しいだろ。終わったら、またデートでもしようぜ」
「おぉ、賛成。でも、もうちょいこうしていてよ」
「……暑くないか?」
「……冷房つける」
そうして二人はしばらく抱き合うのだった。
次回の更新は月曜日です。
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