どんなメイド服が好き?
午前の授業が終わると学友達の怨嗟の視線を浴びながら、昼食を食べに銀次はソラと一緒に旧漫研部室へと向かっていく。
「出し物が決まると。文化祭が始まるって気がするな。しかし、予想外だったぜ……」
午前中のホームルームに合わせて、委員会より昨日話し合ったクラスの出し物の候補の結果が伝えられたのだが、その結果にクラスは大いに沸いていた。ソラは苦笑しながら銀次を見上げる。
「メイド喫茶案、まさか通っちゃうなんてね」
「先輩も含めて他クラス全部がうちに譲るとはな……というか結果がでるのが早すぎる。明らかに狙ってたろ」
優先権がある三年にメイド喫茶のような人気の出し物は流れるのが通例だったのだが、愛華とソラという学園を二分する美少女を有するクラスにこそメイド喫茶をしてもらいたい。という下心という名の好意によって、激戦区であったメイド喫茶の権利を手に入れてしまったのである。飲食系は準備物や事前の申請も多い為、これからやることを考えるとため息をつきたい気持ちだ。
「フフフ、大変そうだね銀次。これはボクの『尽くしたがり』の出番かな?」
「いやいや、いつも飯とかマッサージとかしてもらっているっての。そっちも美術部の準備があるから大変になるだろ」
「一番面倒な部分は業者がしてくれるし、他の部分も銀次が手伝ってくれるからむしろ手が空いてるよ。愛華ちゃんのお願いを聞いてた頃に比べれば楽すぎて申し訳ないくらい」
『マジかよ』と心の中で銀次は呟く。この小さな体のどこにそんなバイタリティがあるのか不思議なくらいだ。
……むしろ、そんなソラが追い詰められるほどの愛華からの要求が激しかったことに改めて驚かされる。できれば今後は無茶させずに、ソラには自由に絵を描いて欲しい。銀次が改めて愛華の無茶振りについて考えていると、ソラが掲示板の前で足を止めていた。
「どうした?」
「……文化祭のポスター、貼りだされたんだね」
ソラの視線の先にはデフォルメされた動物が描かれたポスターが貼られていた。文字とのバランスも良く、プロが作った物だと言われても納得できるほどのクオリティである。
「これ、ソラが描いたんだろ?」
「うん、一学期に愛華ちゃんに指示に沿って描いたんだ。何度も描き直して……うーん」
「嫌なこと思い出したか?」
強要されて描かされた時のことを思い出したのかと心配するがソラはブンブンと首を横に振った。
「え? 違う違う、今のボクならどう描くのかなぁって。デフォルメキャラだけどもっと人の目を惹くように描けたのかなって……んー、なんかアイデア出て来そう」
「ハハッ、いいじゃねぇか。なんならもう一回描いてもいいかもな。美術部の出し物のポスターあって困るもんじゃ……しまった」
前向きなソラを見て笑ってしまったが、無茶しないように注意しようとさっき考えたばかりだと口をつむぐがソラは目を輝かせる。
「銀次、天才だよっ。流石ボクの彼氏っ!」
「あんま無理すんなよ。今日の尽くしたがりは甘えたがりに変更な」
「えー、横暴だ」
「聞く耳持たん。さっさと飯食いに行こうぜ」
「了解っ!」
漫研跡地に到着すると、お重が広げら部室が良い匂いで満たされる。
「そろそろ夏野菜も食べ納めだから。今日はシンプルに天ぷらだよ」
「おぉ、これは……旨そうだな」
ししとう、ピーマン、オクラと言った夏野菜を中心に白身魚やエビが所狭しとお重の中に並んでいた。
「二度揚げしたけど、やっぱりちょっと衣が湿っちゃうね」
「それが旨いんだって、食べ方は塩がいいんだが……」
「もちろん、準備してるよ。はい、あーん」
お弁当の最初の一口は『あーん』で始まるのが二人きりの昼食の暗黙のルールである。
「ん、カリカリとフニャフニャの間でしか楽しめないものもある。旨い」
「お粗末様。でもやっぱり、揚げたてが美味しいと思うよ。お弁当用は衣を薄くしているし」
「それを差し引いても、学校で天ぷらを食べる特別感があると思うぜ」
海苔が巻かれたおむすびもすぐに無くなり、お弁当を食べ終える。
「「ごちそうさまでした」」
後は授業が始まるまで二人でのんびりと過ごす。ソラはスケッチブックを取りだして美術部の出し物のポスター用にデフォルメされた動物を書いていき、銀次はそれをボーっと眺めていた。出窓から入って来る風は心地よく、まだ遠いながらも微かに秋の訪れを感じさせる。ふとソラが顔を上げた。
「そういえば、教室で話題になっていたけどメイド服のレンタル先ってもう決まっているの?」
「例年使っている所に頼めばいいだろ。すでに去年のメイド喫茶に使われた申請の書類は貰ったしな。確か……このサイトだ」
スマホからレンタルショップのサイトを開いて、メイド服のページを開く。そこには、学生の文化祭で使えるような露出を抑えながらも、可愛らしいデザインのメイド服が並んでいた。
「銀次はどんなのがいいの? そ、その、一応ボクも着ることになるかもだし」
スケッチブックを閉じてソラもスマホを覗き込む。伸びた髪からは柑橘系の香りがした。
「動きやすいのがいいだろ。あんまりパーツが多いのも着替えが面倒だ。シフトのこともあるし簡潔な着脱はマストだな」
「そうじゃなくて、銀次の好きなデザインはどれなのさ? 一般論じゃないよ、ボクが着るとしてどれがいい?」
ジト目で朴念仁を睨むソラ。
「そう言われてもな。まぁ、ソラが着るとしたら」
想像してみるが今風のフリルがついているものも、クラシカルな給仕服も着こなしそうではある。
しかし、ソラの彼氏としては他の男子にそれらを見られると思うとちょっと複雑な気持ちだ。
「選ぶなら、これか?」
自身無さげに最もシンプルな前掛け風のエプロンをつけた給仕服を指さす。これなら制服とそんなに違わないだろう。
「ふーん、ふーーーん。なるほどぉ」
「なんだよ」
「別にー。可愛いと思うよ。ところで銀次、ちょっと画面見てみて」
「あん?」
ソラが銀人のスマホを操作してメイド服のページを上から下にスクロールしていく。
「ふむふむ」
「なんだってんだ?」
「目線の動きから見て……銀次の好きな奴はこれ!」
「ば、バカやろっ」
ズビシとソラが画面を指さす。そこにはクラシカルなタイプのワンピースにフリルのついたエプロン、さらにキャップがセットになったメイド服が映されていた。よく見られる王道のメイド服である。
「大丈夫、これはボクが個人的に重要なデータとして活用するだけだから」
「何するつもりだよ?」
「期待しててね」
横に座って体重を預けてくるソラの表情は教室では決して見せない、艶っぽいもので……。
「……」
「エヘヘ、銀次顔赤いよ?」
「まぁ……楽しみにしてるよ」
「任せといてっ!」
ソラの返答に、真っ赤になった顔を隠すことしかできない銀次であった。
次回は多分月曜日更新です!
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