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デート前日

「それでは、何も無ければこれで文化祭実行委員会終わります」


 不機嫌そうに横に座る愛華をチラチラと見ながら生徒会長が宣言して、銀次は大きく伸びをして立ち上がった。

 

「肩凝ったぜ。あー、やっと週末だ」


 筆箱にペンを片付けて、配布された資料をファイルに仕舞う。

 ジロリと銀次を睨む愛華を無視して会議室の外へ出ると、追いかけて来た女生徒に話しかけられた。


「ね、桃井君。ちょっといいかな」


「……うっす、なんすか?」


 タイを確認して相手が二年生であることを理解した銀次は頭を下げる。


「何っていうか、一年なのに委員会でしっかり発言して凄いなって、意見も通っているし四季さんと真正面から議論してて……あの、この後ちょっとお話とかできないかな?」


「すんません。彼女を待たせてるんで失礼します」


 最初よりも深く礼をして踵を返す。後ろの方で「やっぱ、ダメだったー」「だから言ったじゃん」というような会話が聞こえるが、反応することもなく銀次は足を進めていく。


 イチャラブ大作戦は一日で終わったが、それでもかなりの反響があった。それにも関わらずこうしてソラと別行動すると声をかけられる。……なぜか俺が! 

 と、心の中で本気で困惑している銀次である。文化祭委員会は二回目であるが、やるからには責任を持つことを信条としている銀次は資料を読み込んで議論にも積極的に発言している。必然、副会長として主導している愛華と衝突することもあるがそこは海千山千の大人相手に立ちまわって来た経験を活かしてギリギリで建設的な議論を作り上げている。ただでさえ注目されていた銀次の活躍は静かに、それでいてしっかりと周囲に認知され本人の意識していない所で人気になっているのだが、本人としては当然のことをしているという自覚なのでいまいち理解できていない。


「終わったぞ……っと」


 メッセージを送ると、一瞬で返信がやってきた。どうやらソラは図書室にいるようだ。

 放課後のさらに委員会の後という遅めの時間だと言うのに、図書室にはいつもより人がいるようだ。銀次が中を見渡すと、カウンター席の前の机で一人ソラが座っていた。薄い雑誌を読む姿はカーテン越しの日を受けて透明に感じるほど澄み切っていて、日本人のようでどこか異国を感じるほど整った顔立ちと特徴的な大きな瞳が近寄りがたい雰囲気を纏っている。遅い時間の図書室に人がいる理由のいくらかを担っているであろう少女は注目を集めながらも本人は毛ほども意に介さずそれ故に他者を寄せ付けない。


「よぉ、待たせたか」


 そんな雰囲気を事もなげに破って銀次が声をかける。それまで人形のように人離れした美しさで周囲を拒絶していたソラは途端に血の通ったかのように嬉し気に顔を上げる。


「待ってた。でも、発見もあったよ。見てよこれ」


 小首を傾げながら雑誌を立てて銀次に示す。


「観光雑誌か……おぉ、デートスポットってやつか」


「地の利を制すものは戦を制すってね」


「デートは戦だったのか? いいとこあんなら教えてくれよ」


 椅子を引き寄せて横に座ると肩が触れ合う距離で雑誌を二人で覗き込む。


「ボクとしては工場見学も捨てがたいけど……ここは一度基本に立ち返って、映画館とか水族館とかもいいと思うんだ」


「王道だな。いつも家のサブスクで映画見ているからたまには映画館もいいな」


「だったら、街デートで色々見れたらいいね」


「人込みに注意しないとな。休憩できる場所も見ておこうぜ」 


 こうして二人でああでもない、こうでもないと話し合っていると……。


「図書室での私語は控えてください。……その他のもろもろも考えください」


「「ごめんなさい」」


 二人のイチャラブっぷりに気が付けば机や本にツップして倒れる者達が多数出ており、最終的には司書に注意されたのだった。その場で観光雑誌を本を借りて帰路に着く。


「注意されてから、一気にめくって記憶したから本はもういらないよ?」


「バッカ、二人で読むのが楽しいんだろ。……違ったか?」


「……ボクの彼氏可愛すぎかよっ!」


 自転車の荷台からギュと抱き着く。ソラの家について、手洗いするとソラ手製のフルーツスムージーにクッキーが出てきて、再び本を開いて翌日のデートについて話し始めた。晩御飯もソラの家で食べて、あっという間に別れの時間になる。


「じゃあ、明日な」


「うん、楽しみだね。じゃ、さよならのギューとチュー」


「……ったく」


「エヘヘ」


 未だどこかぎこちない銀次を抱きしめて、触れるだけのキス。

 照れる銀次を見送って、鍵を閉める。ソラは鼻歌を歌いながら、服をポイポイと投げ捨ててツナギに着替える。夏休み中からしていた基礎錬をしようとかなり書き込んでいるキャンパスの前に座る。


「よおっし、明日もあるから集中して一時間だけ練習しよっと」


 気分的に青色の絵の具を選んで油と混ぜる。後はひたすらに線を引くだけだ。

 筆の太さや擦れの表現、描くというより筆を使った素振り練習のようなものだ。頭の中にしっかりと像を作れるソラにとってそれを表現する為の練習は画塾でも勧められたものだった。いわゆる筆致練習という基礎中の基礎だが、これまで意識せずとも出来たためにおそろかになっていたと反省して基礎錬として取り組んでいる。


 ひたすらに線を描きながら、自分のイメージとの微差を調整していく。


 設定していたタイマーが成って、練習は終了。絵具と筆を片付けて、お風呂に入ってしかりとスキンケアをする。そして自室に入るとズラリと服を並べた。


「どうしよっかな。最近はズボンが多かったし、スカートかワンピ……この前通販で買ったのを試すか……銀次って意外と普通の女子っぽい服好きそうだし……」

 

 たっぷり悩んで、デートできる服を選ぶ。夜更かしは美容の天敵とベッドへ飛び込むソラ。


「なんかボク、結構女子っぽいかも。エヘヘ」


 と、ニヤニヤしながらすぐに眠りについたのだった。


 一方、桃井宅では。図書室で借りた雑誌をちゃぶ台に置いて、兄弟で並んで座っていた。


「休憩ポイントはどこにすっかな?」


「トイレも気にした方がいいよね。映画前にも軽食とかいいんじゃない? 話せる時間も大事だと思う」


「なるほど、流石テツだぜ。頼りになる」


「……お付き合いしたことない俺を頼りにしないでよ」


 兄からデートプランの相談をされ、二人なら大概何しても成功するとは理解しつつも律儀に相談を受ける哲也。できた弟なのだった。

次回は多分月曜日更新です!


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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
哲也が偉過ぎる…だと言うのに銀次達と来たら。 図書室みたいな非リアの空間(異論は認める)でそんなイチャラブしたらお相手の居ない妄想だけは逞しい文学少年少女が発狂してしまうではないか!(偏見)
筆致練習、なるほどそういう物もあるのですか。こうしてみると芸術もスポーツに似通ったところがあるのですね。才能や感性を大きく開花させるには、地道に基礎を固めてこそ。愛華に使われていた過去のソラではモチベ…
>図書室での私語は控えてください。……その他のもろもろも考えください どう考えても『その他諸々』の方が被害甚大だよなー。 司書担当の委員さんも大変だ、彼女に良き出会いがありますように。 (それが異性…
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