バカップルの成長
待ちに待った土曜日の朝、天気はもちろん快晴である。
せっかくデートだから待ち合わせがしたい。というわけで、駅に集合をすることになった。早起きしすぎたソラは待ちきれずに早めにタクシーを呼んで待ち合わせ三十分前に到着する。
「流石に早すぎた……構内で涼もう」
キャスケット帽を被り直して、駅に入ってすぐ右の自販機コーナーへ行こうへ涼みに行こうとすると、自販機コーナーの前には待ち人がすでに座っていて、こちらを見ると笑顔で立ち上がる。
「よっ、俺が先だったな。オレンジジュース買ってるぜ」
「早すぎでしょ! ……ありがと、なんでそんなに早いの? そっちは自転車だし調整できるでしょ」
先を越されて悔しいのと銀次に早く会えて嬉しいという感情が交じり合う。銀次と一緒にベンチに座ってペシペシと太ももを叩くソラ。
「絶妙にこそばゆいから止めてくれ。そりゃ、デートで浮かれてたんだよ。家で待つのも性に合わないしな」
「ボク等、駅で待ち合わせするといつも一本早い電車に乗っちゃうね」
「いいんじゃねぇのか。それとソラ」
「何?」
「今日も、似合ってるぞ。……つーか、それ大丈夫か?」
今日のソラはノースリーブの紺のブラウスに白の透ける生地のカーディガンを羽織っていた。ボトムはフレアスカートでゴツ目ながらカラフルな色合いのスニーカーを履いている。頭にかぶっているキャスケット帽も白を基調して黒のラインが入っており夏らしい。露出していないようで、よく見ると結構攻めている服装である。それでも上品な印象を与えているのは白を基調にしていることと、ソラ自身のスタイルが良いせいで様になっているからだろう。そのままモデルとして雑誌に載っていてもおかしくないほどの仕上がりだった。
「大丈夫、こう見えてしっかり日差しをカットする生地なんだよ」
「そう言う意味じゃなくて……今日は、俺から離れるなよ」
「いつも離れないけど?」
手を握りながら、下から見上げてくるソラ。キャスケット帽のツバから覗く長い睫毛に薄い色合いのリップが妙に色っぽくて銀次は思わず顔を背ける。これが一学期の男装して過ごしていたとか信じられない。しかし、ここで引いたらなんか負けた気がする。と、銀次はソラの手を握り返す。
「じゃ、今日はずっとこうだな」
銀次、精一杯の抵抗である。
「エヘヘ、望むところ。今日は予定とか銀次に任せちゃったけど大丈夫?」
「おう、テツとも相談してばっちりプランを決めた……と言いたいところだけど細かいところはやっぱ行ってみないとな。ソラも気分が悪くなったらすぐに言ってくれよ」
「うん、大丈夫。すぐに言うよ」
無理して失敗するよりも、さっさと休憩するなり帰るなりして銀次と過ごす方がいいと学んだソラである。ソラが飲み切れなかったオレンジジュースを銀次が一気に飲み干して、二人は一本早い電車に乗る。
問題無く二人で席に座り、映画について話し合う。
「映画館と言えば、やっぱりホラーだよね」
二人が今日みる映画は洋画のパニックホラーのようだ。ちなみに前評判は少し悪かったりするのだが、あえてその辺を見たいとソラがリクエストしたのだ。
「ソラの家でもホラーとか結構見るもんな。グロとかは大丈夫だよな?」
「バッチコイ、むしろどうやって作っているのか気になる感じ。造形や演出を観察するのも楽しいよ。銀次も平気だよね?」
「おう、問題無いぞ。強いて言うなら俺は血がたくさん出るのだけは少し苦手かもな。こっちも痛くなっちまう。見れないって程じゃないから、気にする必要はないがな」
「男子の方がそういうの苦手って言うよね」
「そうなのか?」
「……聞き返されると……ええと、二年前のテレビドラマでそんな台詞があるね。後は去年の……」
「ストップストップ、止まれソラ」
眉間に指を当てて、膨大な記憶を辿り始めたので急いで止める銀次。デート前に負担を掛けさせたくなかった。
「停止シマス」
片言ソラ。
「ロボかよ。そんなことより予定より早く着くから、人が少なそうな場所で適当になんか腹に入れようぜ。テツと良さげな店を選んだんだ」
そう言って銀次がスマホを差し出す。
「どれどれ、甘味処『あんず』。へぇ、氷あんみつが名物……美味しそう」
「だろ? 普通にどら焼きとかも旨いらしいぞ」
「おぉー……なんか銀次がデート慣れしてきてる」
ジト目で銀次を睨んだソラが腕を掴んで抱き寄せる。
「ちょ、人もいるんだぞ」
薄手ゆえにダイレクトに柔らかな感触が叩きつけ、ドキドキしてしまう。
「相手はボクだけだからね」
「ソラ以外にいないって……」
「わかってるけど、……モテ男子として成長してる」
「モテないっつーの。まぁ、ソラと付き合い始めてから少しは意識しているからな。やっぱ彼女には楽しんでもらいたいもんだ」
「ならよし」
「というか……それをいうなら、そっちも大概だろ。特に今日はなんか女子っぽいというか……」
格好だけでなく、会話の最中の自然な仕草も可愛らしく振舞えている。もちろん、まだどこか男子っぽい所も残っているのだが、そのアンバランス差が逆にソラを魅力的にしているようにすら思えた。
「まぁ、努力してるし……意識っていうならずっとしているもん。銀次にボクが女子だって言った瞬間から少しでもそう見て欲しくて服とか、お化粧とか勉強したし。そもそも、好きな男の子に女子として見てもらえないの悔しかったし、つまり、銀次が悪い」
「なら……よし。でいいのか?」
「だから責任とってね」
「そのつもりだ」
「グハッ、それは反則……うぅ、せっかく頑張って女子っぽくしたけど銀次に勝てない。分が悪い」
俺はずっとやられっぱなしだ。とまでは口に出せない銀次なのだった。
次回は多分月曜日更新です!
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