24:ア・族の村
何かまだ話したそうな感じだったけど、これ以上話す事はないし通信をきる。
「リン、様子見するの?」
クロが小首を傾げて聞いてくる。
「え、しないよ」
エルフの言う早急には当てにならない。一月も音信不通なのにおやおやで済ませてしまう時間感覚だ。
「いいのか?」
「なにが?」
「エルフ族の不興を買うと色々と面倒になるのではないか?」
「魔道具屋の一斉撤去とか?」
「うむ」
私の名前付きでそんな事されたら、ローランには居られなくなるだろうね。下手したら魔道具の供給を絶った大罪人として人間世界に居場所が無くなるかも。
「じゃあ、様子見にする?」
「だが断る!」
「ふふ、最初から決まってるじゃん」
「うむ。聞いてみただけなのだ!」
後悔しない選択をする。最初で最後かもしれないのだ、迷っている時間なんか無い。
たとえそれが最悪の結果になったとしても、クロと一緒なら大丈夫。居場所が無くなったとしてもどうとでもなる。人間として暮らしたければ、カーサから貰った偽りの宝石で別人に化ければいい。クロと二人で人のいないところに住むのも良い。食糧に関してはもう一生分を超える量を確保してある。
あれ、なんか、すべてのしがらみを捨てて世捨て人になるのも良い気がしてきた。
けどそれは、最悪の結果の後だから、あまり気分の良い話しでは無いか。
まあ、そうなるつもりも無いけどね。
転移の扉。
まずはこれを起動する必要がある。
「じーーーーっ!」
クロが魔眼で転移の扉の構造解析に勤しんでいる。
確か、こう、
ヴゥゥゥン、、、転移の扉が鳴動しはじめる。
「む、リン、ズルイのだ!」
クロが抗議の声をあげる。
「じゃあ、こっから先はクロやってみてよ」
「うむ! じじじーーーーっ!」
クロが魔眼で転移の扉の操作解析に勤しんでいる。
「ぬう、転移先が設定されてないのだ!」
確かに、ご丁寧に転移先設定が消されている。これはおそらく、カ・族が異変を察し調査に来た時、ア・族への手掛かりを残さないための措置。
転移先設定とは簡単に言えば、転移先の扉の座標とその扉に設定されているパスワードであり。それが完全に一致しなければ扉が開かない仕組みとなっている。
カーサがカ・族の村に帰ってない以上、どのようにしたかは不明だけど、強制的にア・族の村の扉へと転移させられ、今に至ったのだろう。
「できたらカーサが飛ばされたところと同じ転移先に行きたかったけど、無理っぽいね」
「むう、履歴まで消されているな。あのハーフエルフにやらせたのか、抜け目の無い相手だな」
「そうだね、困ったな」
「カーレラにア・族の転移の扉の位置を聞くか?」
なんかクロってカーレラさんと知り合いなの? まあいいか。
「んー、多分パスワード変えてあると思うな、というか私なら変えるかな。転移先設定で起動失敗すると一日使えなくなるんだよね」
「そうなのか?」
「うん。そうなの」
ペナルティ設定が結構重たいんだよね。なので、
転移の扉を操作する。
「リン、何してるのだ?」
「んー、ア・族の扉の管理者パスワードをね、とこれでいいかな」
ヴゥン!
転移の扉が正常に起動し、扉が開く。
「行こうか」
「ぬぬぬぬ? うむ、逝くのだ!」
こうして私とクロは、ア・族の村へと繋がる転移の扉をくぐる。
ついでに言えば、逝く気は無い。
エルフの村襲撃計画。
ニーガンは己の持つツテを最大限利用し、裏社会のさらに闇の部分に招集をかけた。
その成果がコレだ!!!
処刑人。
処刑人として人を殺す事に喜びを覚えてしまった者達、いかに長く生かしたまま殺すか、いかに首を綺麗に斬り落とす事ができるか、そのような事に精進する事で表の世界の処刑人を首になってしまい、裏の世界でその腕を振るうことを余儀なくされた罪人達。
デスサイズのデオ。
斬馬刀のシノスケ。
二刀流のイキリト。
処刑人の中でも彼等は飛び抜けた攻撃力を持った者達だ、闇の世界で彼等は死の三兄弟、スリーエクスキューショナーズと呼ばれている!!!
闇の顎。
巨大な黒犬を九頭従えるのは、獣使いのネロ。
その獣使いであるネロの命令を無視して暴れ回る九つの凶悪な顎、それは全てのものを噛み砕く凶悪な牙!!!
獣を強化する力しか持たないネロは、自分の命令を聞かず暴れ回った獣に蹂躙され息も絶え絶えな者達を、黒犬がゴメンネゴメンネと言いながら男は嬲り殺し、女は犯しながら殺す事を至上の喜びとする異常性愛者だ!!!!
暁の死。
全身黒ずくめの殺戮集団。
彼等に狙われて次の日の光を、暁を見れたものは存在しないという。
死という終わりを無理やりに届ける彼等、彼等の目を見たものは死という安らぎを得るまで石化したかのように凍りつくという、その名もバジリスクタイム!!!
錚々(そうそう)たる面子だ。
彼等の眼光を一身に浴びるだけで心臓が止まってしまいそうだ。
実際、案内のために来たハーフエルフは、恐怖で足は震え顔面蒼白になり油汗をダラダラと流し今にも倒れそうだ。
互いに威嚇し合う最強の殺戮軍団。
それだけでこの場の空気に亀裂が入りそうなとてつもない殺気が放たれいる。
これほどの戦力、エルフの村を三回滅ぼしても釣りがきそうだ。
フフフ、昔、初代が滅ぼしたというこの地。元エルフの村があったというここ、名残として残っているのは奇妙な扉のみ。
一方的な暴力の、絶対的な蹂躙の予感に血が昂ってしまう。
女を何人か連れてくるべきであったか、これから滅ぼしに行くエルフの村の女は大切な商品だ。傷つける事はできない。
今でさえこれほど昂ってしまっているのに、蹂躙後はどれほどの興奮状態になってしまうのか、殺戮集団もハーフエルフの男達を殺すだけでは満足しないかもしれん。
大切な商品にまで手を出されては困る。何か欲望のはけ口が必要だ。あのハーフエルフを女装させて相手でもさせるか? ウウム、しかし男の怯え顔など見ても興奮せぬ。
どうしたものか、、、と思っていれば、神の啓示か、奇妙な扉が輝きだす。
そして、現れたのは、、、




