【物語】竜の巫女 剣の皇子 9 地図
私がアーサラードラに向かって歩き出した時、歳は15だった。
身体もひ弱だったが、何よりも無知であった。
地図も読めない大バカ。知らないことを知らない大バカ。
本当に何もかも知らない愚か者だった。
何かを知っていたら…しばらくあの屋敷を拠点にして冬を越し、山越えの準備を丹念に行った事だろう。
あの頃の事は、10年を経た今でも思い出したり、夢にも見る。
今はもう冷や汗をかいて飛び起きる事はないが……今生きているからこその恥と思えるのだと、胸に刻んである。
僕は寒くなる季節に向け、服をたくさん着て、リュックに食べ物と水をありったけ入れた。毛布も持って行こうとしたけれど、重くてやめた。他には地図とタオルとマッチ、コップ。ブーツはいなくなった監視役のじいさんのものが残っていた。古いブーツでちょっとブカブカだったけど、ないよりはましだ。
あとはブカブカの帽子を被り、屋敷を出た。
秋の日差しは柔らかく、少し冷たい風が周りの景色を揺らしていた。
僕は歩き出した。
しばらく道なりに進むとふたつの分かれ道があり『ロンテン村』『リーベサラ山』の立て札がそれぞれの道を指し示していた。
僕は地図を見た。リーベサラ山を越えるとアーサラードラに近いように思えたから、山への道を歩き出した。
しばらく歩いてみたけれど…どこからが山になるのかもわからず、お腹も空いたので道端に座り、リュックからパンを取り出して食べた。
そうしていると、僕の行きたい方向から馬が一頭やって来た。僕の知っている馬とは違い耳が長く汚い姿で、その馬にはひとりのじいさんが乗っていた。
「坊主、そんな所で何をしている?」
じいさんは僕を奇妙な目で眺め、声をかけてきた。
僕は「リーベサラ山を越えてアーサラードラに行くんです」と答えた。
それを聞いてじいさんが、ますます変なものを見るように僕を見つめた。
僕は居心地が悪くなった。
「坊主、冗談を言っているのか知らんが、あれを越えるには儂とロバで2日はかかる。日が暮れる前に、家の手伝いしたほうがましだぞ」
じいさんは言うと、去って行った。
僕はなんだか嬉しくなった。2日でアーサラードラに着くことがわかったんだ。食料を2日間持つように計算して、じいさんが来た方向に歩き出した。
もうすぐ茜色に変わる空が、僕にはとてもきれいに見えた。
(つづく)