【物語】竜の巫女 剣の皇子 10 夜
ここはアーサラードラ、イルサヤ宮城。
神無月の風は少し寒くはあるが、暖かな日差しがそれを和らげている。
その中をひた走るルチェイとソロフスがいる。ちび竜はその後ろを軽やかに飛んで付いてくる。
「ほらほら、アカホッペ!ペースが落ちてる!そんなんじゃ剣を持つどころじゃないぞ~!」
汗を流し、息をあげて走るルチェイの後ろから、ソロフスが涼しい顔で檄を飛ばす。
「うー!あなたの方が脚が長いんだから、私より速いのは当たり前なのよ!……私なりにがんばっているのよ~!」
必死で走るブルマー姿の姫巫女は声を荒げる。いつの間にかふたりの会話に敬語がなくなっている。
ルチェイは文句を言いつつも、脚を止めることはしない。
ソロフスは『アヒルの様だ』と彼女の後ろ姿に思いつつ、その根性には感心していた。ことばには出さないが。
「おい、あいつはいつもあんななのか?」ソロフスは駆けながら、横を飛ぶちび竜に声をかけた。
ちび竜は『うん♪』と無邪気に笑った。
彼はそんなちびの顔を見て、はるか遠くのリーベサラ山脈の景色に視線を移した。
僕はリーベサラの山道をたどり上へ上へと歩き続けた。
周りが薄暗いのは怖くなかった。いつもいた部屋が暗かったからだ。
やがて、立ち並ぶ樹々が大きくなってきた。それと共に道が急勾配になり、歩く速さが落ちて、苦しくなってきた。こんなに歩いたのは数年ぶりだった。
足が痛くなってきたから座って休むことにしたけれど…とんでもないことに気がついた。
周りがいよいよ暗くなってきたのだ。うっそうと茂る樹々の陰に加え、日が暮れてきたのだ。風がますます冷たくなり、寒さも強まった。
僕はやっと『灯りが欲しい』と思った。
周りを見渡して燃えそうな太い木の枝を拾って集めてみた。昔、侍女が暖炉の火をつける時の事を思い出してやった。リュックからマッチを取り出して火をつけようとしてみた。
しかし、なかなか火がつかない…数本擦って、やっとコツがわかって…それからさらに数本駄目にして…やっとマッチ棒に点火した。それを急いで枝にくっつけるのだが…火が枝につかない。
周りはどんどん暗くなる。闇が落ちてくるのだ。
僕は焦った…どうしてもマッチの火が枝にうつらない…どうしてなんだろう…僕はイライラした。うまくいかない。
焦りながらマッチ箱の中を見たら、マッチはあと5本になっていた。
そこまでは見えたが、あとはもう手元が見えないほどの闇に包まれた。
僕は怖くなった。
屋敷にいる時よりも、想像を絶するほどの闇に。それに凍えが加わる。頭の上では何か唸る声や音がして、不安が募っていく。
僕は寒さと恐ろしさで歯がカチカチ鳴った。
『どうしてこんな目に合うんだ!父が憎い!母様もひどい!ルチェイもひどい!どうして僕を助けてくれないんだ!』
いろんな怒りで涙が溢れた。
お腹が空いたから、手探りで食べ物をつかんで食べた。堅パンを、おぼつかない口で必死に噛み砕いた。
食べ終わる頃、ふと、何かの視線を感じた。
顔を上げると、目の前に金色の星が横にふたつ、並んで浮かんでいる。
それが何か、全くわからなかった。
それが僕の方にすすすっ、と近づいて来て、顔の直前で止まった。
生臭い風と音を感じ、僕は気がついたら叫び声をあげて走り出していた。
何か恐ろしいものが僕にやってきたのだ。でも暗闇の中で走り出したものだから、すぐに何かにぶつかって転び、そのまま気を失ったらしい。
次に目覚めた時、僕は見知らぬ草むらにいた。
(つづく)




