【物語】竜の巫女 剣の皇子 41 是
『己の傲慢により汚れた無能なお前はもう必要ない。去れ。去るがよい』
竜のエーテルのことばに、ルチェイは崩れ落ちそうになった。
「ルー」ソロフスがルチェイを抱き留めた。
「エーテルの言うことをまともに聞かなくていいのだ」
彼は彼女を強く抱きしめ優しく諭した。ルチェイが弱々しく彼の目を見る。ソロフスは竜に向くと「エーテルよ。お前もこのようなか弱い娘に非道いことを言う。本当に斬り捨てるぞ」と睨み付け「儀式が聞いて呆れる。精神を砕くつもりか!」と一喝した。
ソロフスはルチェイを抱きしめたまま頭を撫でた。
「エーテルは意地悪を言っているだけ。わざとルーがくじけそうな詞を使い、事を放棄しないかだけを試しているのだ。正解なんか気にするな。自分の考えを言えばいいだけ。ロゴノダでは日常茶飯事だが、ルーにはちょっと難しいか」
続けて「どう答えていいかわからない時は、信ずる者に相談しろ。最後に決めるのはルーでいい。執政と同じ。罵倒もされ責任も問われる。その中で自分らしくただ立ち続ける、それだけのことだ」彼はルチェイの目を見て言った。
「穢れた詞をなぜ慈悲の巫女に向ける?智だけの獣に徳を求める方が間違っているか?」
ソロフスはエーテルに語気を強める。
ちびが『ソロ。竜とはこういうものだ』静かに言った。
「わかってはいるが、全く……聖上の強さを本当に思い知るよ」ソロフスは苦笑した。
彼は「エーテル。この者には感知の力がない。お前の意図を理解できぬ若い娘が、ここに立ち続けただけでも認めてはもらえぬか」白竜を見つめる。
エーテルは黙したままソロフスとルチェイを見返す。
「この者は竜の真の名を見い出した。その慈悲こそが巫女の証だと私は認める」ソロフスが言う。ちびも『そうだ!ボクも同意だ!』空色の瞳を輝かせる。
ソロフスは「ルー。支えるから、立つんだ」と彼女に声をかけた。
ルチェイは頷くと、足に力を込めた。
「勝ち負けを思わず己を保て。あなたらしくあれ」ソロフスのことばにルチェイは「私らしさ……」とつぶやき、モヨの話を思い出した。そして「度胸と笑顔」とつぶやくと、自分の両手で両頬を一度叩いた。
「ありがとう、がんばる」ルチェイからやっと、涙目の笑顔が出た。ソロフスもちびも笑顔になった。
「ごめんなさい。いつも失敗と迷惑ばかり。みんなに助けてもらってばかり。でも、この私でいいのね」ルチェイはソロフスに尋ねた。彼は頷いた。
彼女は「エーテル。私は未熟で不徳な者。過ちばかりで汚れているのだろう。これからも。でも、私は生きる。この愚かで弱い私に、愛を分けてくれる人々がたくさんいるの。私はその愛を返したい。綺麗事かもしれない。でも、だから周りに相談しながら、失敗してもがんばる。お願い」竜眼から目をそらさずに言った。
「この巫女は愚かな私を救う為に傷ついた。私は報いるために生き、今もそれを是とする。お前が敢えてこの者に、アーサラードラや人の視点で事を問うてきたと理解している。この者に迷いがある事も確かだが、まだ多くの選択肢を知らないだけ。私はこの者を支え、そのためにこの命を使うと誓う。一国に拘らす、竜の視点、アルテ・ハルモニアの俯瞰に位置し、務めることを誓う。それはこれからの人生をもって証とする。これを十年前にお前が私に問うた答え、そしてお前がこの者に問うた答えとする」
ソロフスも彼女に並び、エーテルをまっすぐに見た。
エーテルは『是』と、答えた。
『ロゴノダの男よ、十年をかけての誓いは聞き入れた。姫巫女よ、次の光皇女であると認める。これからの人生でその証を立てよ』
ルチェイはソロフスに抱きしめられながら涙を流した。
「ソロフス。ありがとう。ごめんなさい」
「あなたと生きる事ができればいい。ありがとう」ソロフスは笑った。ちびは大泣きしてふたりに抱きついて喜んだ。
『では、次に伝える』エーテルが口を開いた。
『我の下にはアルテ・ハルモニアに降りた【始竜】が封じられている』
暗い竜殿の中に白竜の声が響き渡る。
(第二部につづく)
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じんわりと第二部に続きます。




