【物語】竜の巫女 剣の皇子 18 山村合宿へ
ここはアーサラードラ。
霜月も2週間程過ぎた頃。
ルチェイとソロフスはイルサヤ宮城から離れた、リーベサラ山の麓にあるチョコロ村に向かっていた。
ルチェイは茶馬のモココに、ソロフスはミカゲに乗って後ろからゆっくり着いていく。
『おでかけ事件』のあと、ルチェイとソロフスの処遇については宮城内で様々な話し合いがもたれた。
聖上は『判断は皆に任せる』とし、結局ふたりは『山村で修行してこい』と放り出された。
ちび竜はふたりの周りを飛び回ったり、ふたりに抱きついたりして気ままに着いてくる。
北風がだんだん冷たさを増す日暮れ前に、一行は村に到着した。
「ルチェイ、大丈夫?」
後ろからソロフスが声をかけてきた。修行期間中は『肩書き抜き』で過ごすことも掟なのだ。
「うん。なんとか……モココやミカゲは大丈夫かしら」
コートとマフラーでモコモコになったルチェイがソロフスに返事をした。
「ああ、ミカゲは大丈夫。荷物はルチェイより軽いからってさ」彼は苦笑いしながら言う。ミカゲも鼻を鳴らす。
すかざずちび竜がミカゲに『みんながんばったもん!』と大きな声で言う。 黒馬のミカゲも耳を振って返事をした。
「アンドロペさんの地図だとこの家だよな」とソロフスが馬から降りて確認をする。
ルチェイも馬から降りようとしたが、身体が疲れきって固くなっていたのでソロフスに手伝ってもらった。
「お疲れ様。がんばったね」彼に言われてルチェイも弱い笑顔を見せた。
家の中から白髪頭の夫婦が「あれまあ、ようこそ」と出迎えに来たので、ソロフスとルチェイは挨拶をした。
白髪頭の老人は「遠いところようこそ。わしゃあオゼ・カナイ。こちらが連れのモヨじゃ。ハルにこんなお若い友達がおるとはの。まあしばらくは、ゆっくりでの」目を細めて話した。
ふたりは家の中に案内された。
その家はまず土間があって、そこに台所や竈があり、そこから板間に上がるようになっていた。
ルチェイには宮城以外で初めて見る住まいの眺めだ。
「すごい。囲炉裏がある」ソロフスは嬉しそうに板間に上がった。妻のモヨが「あら、お兄さんはロゴノダのもんかい?」と聞くので、ソロフスはそうだと答えた。
「わしらはロゴノダから移って来たんでの。家もこんなんじゃよ。家も畑も作ったんじゃ」オゼはカラカラと笑って話す。
「私のいた村もこんな雰囲気で……懐かしいです」そう話すソロフスの柔らかい表情を、ルチェイは初めて見た。
「さあ、もう夜だし、ごはんにしようかね。ふたりは座っててええんよ」 モヨはみんなに夕餉の準備を始めた。
ソロフスはオゼに「すみません。黒馬は放してもいいですか?畑は荒らさないように言っておくので」と尋ねた。
オゼはそれを聞き、大笑いしつつも許可した。
ミカゼは馬具を全て外してもらいスッキリすると、あっという間に遠くに駆け、夜に溶けていった。
夕餉の時からウトウトしていたお風呂上がりのルチェイに、モヨは寝室を案内した。
「ここはハルの部屋でね。服も好きに選んでいいから、何でも好きに使ってね」
その部屋の中はたくさんの本と、机とタンスとベッドがあった。ルチェイはお礼を言うと、ひとまず寝間着に着替えて布団に潜った。
着いてきたちび竜もルチェイと布団に入ってあくびをし、すぐに眠り込んでしまった。
次に彼女らが目が覚めると、窓から差し込む日差しはかなり明るくなっていた。
ルチェイが慌てて着替えて居間に来ると、モヨが竈で火を炊いていた。
「すみません。寝坊してしまいました」小さい声でモヨに挨拶をすると、モヨは「ええんよ。疲れたら寝た方がええよ。ソロくんはお父さんと畑に行って、もうすぐ戻るからね」朗らかに言った。
ルチェイが目を丸くしていると、オゼとソロフスが昼餉に帰ってきた。
彼はルチェイを見ると「おはよう。眠れた?」笑顔で聞いてきた。ルチェイはちょっと顔を赤くしながら「うん……ごめんなさい」と謝った。
「なんで謝るの?」ソロフスは首をかしげつつ彼女を見たが、返事はなかった。
昼餉の後は、ルチェイとちび竜もオゼとソロフスに着いていくことにした。
オゼはふたりに「まあ、近くの柴でも拾ってくれろ」と雑木林に案内した。雑木林は落ち葉がたくさん敷き詰められ、歩くとふかふかする。
「こういう細い枝を拾うんだよ」とソロフスが言うので、彼女とちび竜も真似してたくさん拾った。
みんなの両手いっぱいに枝が集まると、オゼとソロフスがそれを紐でいくつかにまとめた。
「ソロフスって、いろいろできるのね」とルチェイが彼に言うと、「そう?」と穏やかにソロフスは答えた。
オゼは近くの樹から柿の実をもいで来て、みんなに配っておやつにした。
ルチェイは皮付きの実にかぶりついて食べた事がないので、驚きながらも甘い味を楽しんだ。ちび竜もソロフスに抱かれて柿を『甘い~!』とモグモグ食べた。
そうしている内に日が暮れて来たので、オゼとソロフスが柴を担ぎ、ルチェイとちび竜は後ろから着いて家に戻った。
道すがらソロフスがふと、ルチェイの方を振り返ると、彼女は少し沈んだ顔をしていた。
(つづく)




