【物語】竜の巫女 剣の皇子 16 井戸端会議
ソロフスがアーサラードラのイルサヤ宮城に滞在し、2週間程過ぎた頃。
ここはその城内庭園。
庭園では様々な季節の花や薬草が育てられている。庭師が管理をし、侍女や女官・官吏らがやってきて用途のものを取りに来る。
彼らは空いた時間に庭園に散歩に来たり……と言うわけで、ここはいくつかある井戸端会議のひとつとして重宝がられている。
「ああ……ソロフス様って、素敵よね~」
女官のミーアが小菊をを眺めながらため息をする。金のふわふわした髪や緑の瞳が美しく、加えて利発なため官吏に密かなファンが多い。
「え?そう?よく見たら髪の毛ぼさぼさの時があるじゃない。あえて申し上げはしませんが」女官のシマジはアッサリ指摘する。彼女は黒髪、黒い瞳の女官だ。 若い女官の中では一番優秀で将来を期待されている。本人はそれを鼻にかけていない努力家なので、これまた密かなファンが多い。
ミーアも「まあ、若い殿方が少ない環境なので自然と目が行ってしまうのよね……」と苦笑いする。
「ああいう御方はかなりの手練れでしょうから、お気をつけなさい」とからかうシマジに
「シマジ様もなかなかのご分析で。その情報はどこから収集されるのかしら?」ミーアはからかい返す。ふたりとも22歳で同級生。互いによいところを認め、言いたいことを言い合う。気の置けない親友だ。
「あの、シマジ様。お聞きしてもよろしいでしょうか?」
ふたりについてきた女官見習いのアナスエが口を開いた。この子はまだ10歳だが、優秀で気性の良さも見込まれて召し上げられた。
シマジのお世話をしながら、彼女から様々なことを学んでいる。シマジもアナスエをかわいがっている。
「ええ、何かしら?」
「ソロフス殿下の事なのですが……どうして城内で帯刀を許可されているのでしょうか?アーサラードラは不功不侵の国です。しかもその城内にて剣を持ち回るのはいかがなものかと。衛兵ですら武具を常に持っていないのに不思議なのです」
アナスエは言った。
それを聞きシマジは「そうね。あなたの言うとおり。今回は聖上の特別なご意向だとナガ統官長様よりお達しがあったのよね……。長い歴史の中で、ロゴノダはアーサラードラにとって様々な意味を持つ。アーサラードラ現統官長のナガ様はもとはロゴノダ皇国武家の出。それをこちらに住まわれてから聖上よりお声がかかり、女官に召し上げられたの。才知と人徳のある方で今に至る。その経緯もあるし、ソロフス殿下が以前より聖上とご交流があり信頼されていることがいちばんでもある。聖上は『人を見抜くお力』をお持ちで、みなもそれを信頼申し上げている」と、話す。ふたりも頷く。
「ソロフス殿下が自由にできることは何か意味があるのよ。かといって、殿下がこちらに身勝手を行うことはない今はない様子。我々官吏にも柔軟にご対応くださっている。もともとのお人柄がいいのかも」
シマジは続ける。
「殿下のお母上……もうご逝去されておられるが、国皇妃ナーシャ様はとても聡明で、最後まで国民のために活動をされていたと聞く。そのご性質を引き継がれているのでしょう。ホロソフ国皇陛下お噂と正反対の様でもあり、信念……頑固さにおいては似ておられるとも感じる。この国のためにも、両方のよい部分を引き継がれていることを願うばかりね。
それを置いてもこの国に長期『休暇』でご滞在していることは、この件がただならぬことも予測される。あるとしら竜の儀……来春に執り行われる竜の儀は60年ぶり、10年遅れで執り行われる。これがどうなるかは聖上にしかわからないのだろう。
宮城も皆も不安なのかもしれない。
聖上が何かの役割を皇子に期待していることは確かなのよね」
ミーアは「殿下と姫様の急接近の理由も頷けますわ。でも……これって恋にご発展しないのかしら。姫様は最近、殿下への笑顔が多いように感じますもの。本当に明るくなられて」なんだか変に妄想に走る。
井戸端会議ならではの話しの流れにシマジも苦笑いし
「そういうハート脳って、大事なこともあるわよね。でも、殿下の方がわきまえてらっしゃる。他の女官や侍女たちの誘惑もサラサラかわされておられるし……姫様のことも……ご苦労の多いことで……」
軽くため息をつく。
「シマジ様。もし、皇子殿下と姫様が恋をされたらどうなるのですか?」
アナスエが素直な質問を口にする。ミーアもキャアキャア声を上げる。
「そうね……巫女は竜と添い遂げなければならないはず……結ばれることはないはず……」神妙な顔のシマジ。
「禁断の恋なのね……!あのご様子では、とてもご親密になりそうな予感がしますのに……」ますますキャアキャア盛り上がるミーア。目がハートである。
10年前の事がもう一度起きてはならないが、殿下に力をお借りしないといけない現状。それを思うと内情を知るシマジも複雑になる。
その当時のことを知らないものも官吏の中に多い。聖上や姫様の側近自体、口が固い。側近らも、姫がどうすれば光皇女となることができるのか心を砕いている。
「殿下のことは私もご信頼しておりますよ」
夢中で話す三人の後ろから、凜とした声がかかった。
皆が振り向くと、ナガ統官長が微笑みながら菊の花ををハサミで摘み取っていた。
「と!統官長さまっ!」
大慌てで礼を行う三人。その様子を見て、ふくよかな顔のナガは長衣の袖で口を隠しながらコロコロ笑った。ナガはおおらかである。白髪を美しく結い上げ、還暦過ぎとは思えない背筋の良さで官衣も優雅に着こなす女丈夫でもある。
「シマジもよく状況を気にかけているようで。時期がくれば補足説明を行いましょうね。司祭官として理解しておいてもらいたいこもある。すべてはこの国の安泰のためです」
「はい。畏れ多くも、ありがとうございます」と三人はナガに礼を述べる。
ナガは「新しい時代が来ますね……とても大切な……この国にもよい人材がある事を感謝します」三人に話した。
ナガは微笑みながら「私は、殿下が泣きべそだったころから見知っているので大丈夫でしょう」と、話し「ただし。もし姫巫女に何かしちゃったりなんかあそばした折りには、おしりペンペンしてちょん切ることにしましょうかしらね。おほほほほほ……」
高らかに笑いながらハサミを動かし花を摘み取っていく。
色とりどりの花が、ナガの腕にあふれる。
それを眺めつつ……シマジとミーアは思った。
『数々の武勇伝をお持ちのこの御方なら、本当にやりかねない』と。
ゴクリ……生唾を飲みこむふたり。
アナスエは、いまいちわからずきょとんとしていた。
そのころソロフスは厩にいて
『ごめん!』『だから~そうじゃなくて!』『頼むから聞いてよ』
ひたすら小声で愛馬ミカゲと会話しているため……厩の従者から『変な人』と思われているのであった。
(つづく)




