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【第一章完結】異世界就職したら、神様の学園に出向することになりました ~普通に働きたい新人社員、『歩く人間凶器』のちょっと騒がしい異世界生活~  作者: 牛
第一章 三週目

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第六十話 「月が綺麗ですね」

 翌日。


 木曜日。


 私は会社を休んで、タカマガハラ学園に来ていた。


 昨日、ナビキに言われたことを何度も考えた。


 月依の気持ちじゃない。


 私自身の気持ち。


 それを考えた。


 そして。


 私は、月依に会って話すことにした。


 授業中の教室。


 私は廊下から、月依の姿を見つめていた。


 先生の話を聞きながら、真面目にノートを取っている。


 一昨日、私に告白したことなんて。


 まるでなかったかのように。


「…………」


 私は教室の扉を開けた。


「失礼します」


 先生がこちらを見る。


「あら、陽花さん?」


「すみません。月依を少し借りてもいいですか?」


「授業中ですが……何かありました?」


「ちょっと話したいことがあって」


 先生が月依を見る。


 月依もこちらを見た。


「お姉ちゃん?」


「うん」


 私は頷いた。


「一緒に来て」


「……分かった」


 月依が席を立つ。


 教室中の視線が私たちに集まる。


 その中には。


 明らかに面白がっている顔もあった。


 ……あとでアカリに何か言われそうだ。


 でも。


 今はどうでもいい。


 私は月依と並んで廊下を歩く。


「どこに行くの?」


「屋上」


「屋上?」


「うん」


「…………」


 月依が少しだけ不安そうな顔をする。


 私はそれを見て、笑った。


「大丈夫だよ」


「……うん」


 階段を上る。


 一段ずつ。


 屋上へ続く階段を上りきり、扉を開けた。


 風が吹く。


 晴れた空が広がっていた。


 雲一つない青空。


 その中に。


 昼間なのに、薄く輝く丸い月が浮かんでいる。


「……綺麗」


 月依が呟いた。


「うん」


 私たちは屋上の手すりまで歩いた。


 並んで空を見る。


「…………」


「…………」


 しばらく、何も言わなかった。


 私から話さなければいけない。


 分かっている。


 昨日からずっと考えてきた。


 何度も頭の中で言葉を並べた。


 でも。


 いざ月依を目の前にすると。


 やっぱり緊張する。


「お姉ちゃん」


「なに?」


「一昨日のこと?」


「……うん」


 月依が俯いた。


「ごめんね」


「なんで謝るの?」


「困らせたから」


「…………」


「急にあんなこと言われたら、困るよね」


「ううん」


 私は首を横に振る。


「困ったのは、月依のせいじゃないよ」


「じゃあ……?」


「私が、自分の気持ちを分かってなかったから」


 月依が顔を上げる。


「自分の……気持ち?」


「うん」


 私は月依を見る。


「昨日からずっと考えてた」


「…………」


「月依のこと」


 月依が黙る。


「月依が笑ってると嬉しい」


「…………」


「困ってたら助けたい」


「…………」


「離れてると、会いたくなる」


 どれも。


 昔から当たり前だった。


 妹だから。


 家族だから。


 そう思っていた。


 だけど。


「月依が私のことを好きだって知ってから」


 私は少しだけ息を吸った。


「今まで気にしてなかったことまで、気になるようになった」


「…………」


「一緒にいるだけで嬉しいし」


「…………」


「離れてると寂しい」


 月依の目が揺れる。


「だから」


 私は月依をまっすぐ見る。


「私も、月依が好き」


「…………」


 月依の目が大きく開く。


「……本当に?」


「うん」


「お姉ちゃんが?」


「うん」


「私のこと?」


「そう」


 月依の目から、涙がこぼれた。


「……そっか」


 月依が笑う。


「……よかった」


「うん」


 それ以上、何を言えばいいのか分からなかった。


 だから。


 私たちはしばらく、そのまま空を眺めていた。


 やがて。


 月依が手すりに手を置く。


 私も、その隣に立つ。


 晴れた日の空。


 その青の中に。


 薄く輝く丸い月が浮かんでいる。


 月依が、ぽつりと呟いた。


「お姉ちゃん。月が綺麗だね」


「……」


 『月が綺麗ですね』


 その意味は、成績があまりよくない私でも知っている。


 本来は異性に向けて使う言い回し。


 最近はアニメやラノベでもよく使われている言い回しだ。


 月依も知っていて、その言葉を口にしたのだと思う。


 それが。


 月依が私に抱いている想いの形。


 空に浮かぶ月を眺めながら。


 月依は今、どんな顔をしているのだろう。


 どんな表情をしているのだろう。


 わからない。


 わからない、けれど。


「月は手が届かないから、綺麗なんじゃないかな……」


 私はぽつりとそう漏らす。


「そっか」


 月依が小さく答える。


「でもね」


 私は月を見上げたまま続けた。


 なんで月依がそこまで私のことを想ってくれているのか。


 それは、まだ分からない。


 でも。


 月依が幸せなら。


 私だって幸せだ。


 私は。


 月依のお姉ちゃんなんだから。


 だから、私は。


「少しずつだけど。月にはきっと手が届くようになるよ。だって月依は私の自慢の妹なんだから」


 私は、そう言って微笑んだ。


「……うん」


 月依も微笑んだ。


「……そうだね。ありがとう、お姉ちゃん」



 そう言って私の方に振り向いた月依は、涙交じりの顔で微笑んでいた。


 その日。

 月がとても綺麗に見えた日のこと。


 今は無理でも。

 少しずつでも良いから。


 こんなにも、私は月依に想われているのだから。


 ほんの少しずつでも。


 私は、月依のその想いを受け入れていけるようにしよう。


 夕焼け空に浮かぶ綺麗な月を眺めながら。


 その前で、涙交じりに微笑む妹を見つめながら。


 私は、そう誓うのだった。

第一章完 となります。

第二章は……書きたいですがとりあえず色々見直ししたいなと思い完結ということで。

付き合い始めて皆からニヨニヨされる陽花と月依の姿はめっちゃ書きたいんですが……w

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

評価、感想などありましたらいただけますと嬉しいです。

それでは!

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