06.お茶会とお願い
シンが紅茶セットを持って戻ってきた。
帰って来るなり話し出す。
「俺からも質問したいんだが、ずっと手に持ってるその袋はなんだ?」
ルーは屋敷に来た時からそこそこ大きな袋を持っていた。
「あぁ、これお菓子ですよ。郵便所を出る時になんでかうちの所長がくれました。高級って言うだけあって美味しかったですよ。」
どうせなら一緒に食べれば良かったと笑いながら、ルーは袋の中の箱を見せる。
これは所長が「渡してね」と持たせた焼き菓子だが、ルーは考えごとに夢中で聞いておらず、道中おやつとして食べてしまっていた。
シンはその焼き菓子が、ルーの上司が持たせた荷車のお詫びと気づいたが、察して言わないことにした。
「そうか菓子が好きか。俺が持ってきたのも食べてくれ」
「いいんですか?ありがとうございます」
そう言って焼き菓子に手を伸ばしたルーは、テーブルの上のティーセットに目を輝かせる。
「これもしかして魔道具ですか?」
ルーがテーブルに置かれた、凝った装飾のやかんを指さして叫ぶ。
「よくわかったな。これは湯沸かしケトルだ。魔石を嵌め込んだフタを、閉じることで湯が沸く」
「嵌め込まれた石を見てピンときました」
「魔道具の事だと勘がいいな…」
「?」
ルーは鈍感だが、魔道具には敏感だった。
「あの、多分このやかんめちゃくちゃ高いですよね。おいくらですか?」
魔道具は物によるが一般的にどれも高価だ。
例えば魔石を嵌め込んで使う魔力コンロ。
火の調整がきくタイプだと、金貨で三枚する。
銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚と同等
街の大衆食堂で、豚の串肉二本と揚げた細切り芋一皿、そこにエールを一杯付け足せば、代金は銀貨一枚ほどになる。
魔力コンロがいかに高いか、さらに消耗品の魔石も必要だ。一般家庭が置けるようなものではないし、食堂でも儲かっている店にしかない。儲かっているということは、美味いということ。
今や魔力コンロは、食堂に味の保証をもたらしていた。
比較的量産されている魔力コンロでも金貨三枚。目の前にあるやかんは、コンパクトで使用用途が限られる嗜好品。ルーは値段が気になった。
「それは店で売っているようなものではない」
「どう言う意味ですか?」
「やかんに触ってみろ」
ルーは言われるままやかんに触れる。
「冷たいですよ」
「そうだろう。だが中身はこうなっている」
シンがやかんのフタを開けると湯気がたちのぼった、中は沸騰寸前らしい。
「このやかんは火も要らなければ、外に全く熱も漏らさずに湯を沸かせる」
「それってもしかして…」
「これは遺跡の中で俺が発見したものだ」
「【神器】ってことですか」
魔道具には人類が開発したものだけでなく、遺跡で発見されたものが存在する。
遺跡は小さなものから大規模なものまで、数多くが確認されているが、その中に数カ所だけ、造られた時期が圧倒的に古い遺跡があり、それを【古代遺跡】と呼ぶ。
古代遺跡で発見された魔道具は、現代の人類が再現出来ないものばかりで、それらは神器と名付けられ、目玉が飛び出るような額で取引される。
神器はその金銭的価値から存在が大衆に広く知れ渡っており、一攫千金を夢見た数多の冒険者が古代遺跡に挑戦した。
「そうだ。神器だ」
シンが得意気にそう言うと、ルーがはしゃぎ出す。
「さっき魔道具一個くれるって言ってましたよね、このやかんにします!」
「絶対にイヤだ」
「なんでですか!」
「イヤと言ったらイヤだ」
「くれるって言ったじゃないですか!」
「お前が壊した手錠にしろ!」
子供のような喧嘩をしていると、やかんが白い息を吹いた。
「ふぅ、沸いたか」
シンは話題を変えるように紅茶の用意をする。慣れた手つきでティーポットに茶葉を入れ、沸騰した湯を注ぎ蒸らす。
その時ルーがあることに気づいた。
(この匂い)
「父もよくこれを飲んでたんですか?」
「そうだな、来れば必ず飲んでいた」
「父から時々甘い匂いがしてたんです。これだったんだ」
「やっぱり鼻が効くんだな」
「鼻?昔から鼻は良い方でしたよ」
テールの匂いの正体は、この家で出された紅茶だった。また一つルーの疑問が解消された。
カップに紅茶が注がれる。
「いただきます」
「火傷するなよ」
紅茶を啜り喉に通す。鼻から抜ける香りには、心が落ち着く豊かさがあった。
「おいしい」
「そうか」
紅茶を飲むルーをシンが優しい顔で見つめる。
「テールがいなくなって、生活には困らなかったか?」
「はい。祖父も居ましたし、父がカバンいっぱいに金貨を残してくれていました。そのおかげで、お金に困ったことは一度もありません」
「…それはよかった。お前の祖父は元気か」
「五日前に亡くなりましたよ。一昨日が葬儀でした」
「なに⁉︎…本当か?」
「はい」
「お前…いやなんでもない」
シンは「お前昨日働いていただろ。祖父と仲でも悪かったのか」と聞こうとしたが、「悪かったです」と言われたら気まずいのでやめた。
その後もいくつかの質問をしたり、テールの話をしたり、魔道具の話をした。そんな楽しいお茶会が終わると、すっかり夜になっていた。
「じゃあそろそろ俺帰ります」
「荷車を忘れているぞ、ルー」
「あっほんとだ」
「雨が強かったからな。昨日表の納屋に移動させておいた。納屋の場所は…」
「正門側の向かって右の所ですよね、来る時見ました。」
「…そうだ。鍵はかかっていない」
「ありがとうございます。また、ここに来てもいいですか?」
「もちろんだ。歓迎する」
ルーがドアノブに手をかけると、ガチャリと鍵が開く。扉を開こうとしたルーをシンが呼び止めた。
「待て、ルー」
「どうしたんですか?」
「お前、俺の仕事を手伝わないか」
「し、仕事ですか?」
想定外の誘いにルーが戸惑う。
「もちろんお前が良ければだが」
「どんなことするんですか?難しいことはできませんよ?」
「フッ、わかっている。物を集める仕事だ。金は払う」
これだけ大きい屋敷に住んでいる。払われる額もそれなりに期待できるだろう。しかしルーはお金に困っていない。怪しい勧誘に少しためらう。
「ちなみに何を集めるんですか?」
「さまざまだが、魔道具を集めることもあるな」
「お受けしましょう」
即答。ルーは魔道具に目が眩んでしまった。
「本当か、受けてくれるか」
シンの口角があがる。
「でも俺には配達の仕事があります。手伝える日は限られますよ」
「かまわん」
「いつからですか」
「今日だ」
「今日⁉︎」
予想より遥かに早い初出勤に驚愕する。
「そうだ今日だ、準備するぞ」
「嘘でしょ⁉︎今から⁉︎」
「なんだ、やはり嫌なのか」
「いやいや、嫌じゃないですけど、もう夜ですよ。今から何するんですか?」
「墓荒らしだ」
ちょっと説明多めになっちゃいました。(´・∀・`)アラマァ




