28.ネズミとウデナガ
ルーとシンは竜から逃げ切って地下三階。ルーがキャロル達と別行動をしたのはこの階だ。少し歩いて見てまわる。
「いませんね。地上に向かったんでしょうか」
「心配するな、あっちにはアメスケがいる。こっちの仕事も終わった、後はただ戻るだけだ」
二人はあの修羅場で大きな怪我もせず、ルーから生えた獣の腕が金の林檎も取ってきた。なんと二つも。最高の結果だろう。
「それなら早く俺たちも戻りましょう。みんなが心配です」
「…ああ、だがその腕のまま里に帰るのか?邪気が出てるぞ」
シンがウデウデの存在を気にした。
「その、邪気ってなんですか?」
「負の感情というか、不快感のようなものだ」
「俺には何も感じません。それにこの子のおかげで助かったし、リンゴも取って来てくれた。…邪険にしないでください」
ルーがウデウデを撫でながらそう言う。林檎の件はシンも心の底から感謝しているが、このまま邪気を纏って四本腕で里に戻れば、確実に騒ぎになる。
「あっ!」
ウデウデは話し合いを聞いていたのか、ルーの身体に戻っていった。
「シンさんのせいですよ」
「…そのまま生活するわけにもいかんだろう」
「あれ?」
「なんだ」
「…すいません。買ってもらった鎧が壊れちゃいました」
ウデウデは鎧を突き破って出てきたため、革鎧の背中部分に穴が二つできていた。
「かまわん。街に帰ったらボーペンの店に行こう」
その後も歩きながらウデウデについて話し合ったが、物知りのシンにも全くわからなかった。
「疲れたー」
「まだ気を抜くな。この階には魔物がいるんだぞ」
二人は地下二階の草原まで戻ってきた。
「みんな大丈夫かな…」
ルーが最後に彼らを見た時、アメスケが付いてはいるが、キャロルは身体が痺れ、蛙達は衰弱し、殿様は片足を失っていた。地下二階は多数の魔物が出る。離れる判断をしたのは自分だが、心配だった。
「あ、あれそうじゃないですか?」
「あいつらまだこんな所にいたのか…」
「おーい!」
「…待て、何かおかしい」
しばらく歩いてキャロル達に追いついた。だが彼女らは立ち止まり、何かと対面している。それに気づいたシンがルーを連れてコソコソと草むらから近づいた。
「魔物みたいなのが二体いません?」
「見た目は魔物だが、話をしてるな」
「ちょっと聞いてみますね」
蛙達とキャロルは、魔物のような見た目の二人組と話しをしている。聴覚の発達しているルーがそれに聞き耳を立てた。
「うんうん、はいはい。あ〜なるほど」
「あの魔物はなんと言ってた?」
「なんか、『そのリンゴくれたら命は取らへん』って言ってます」
それを聞いたシンは、慌ててキャロル達の元へ向かう。
「待て!」
シンが魔物のような二人組を、大声で牽制した。その姿にアメスケ達が驚く。
「ご無事でしたか!」
「シン!よく生きてたわね。ルーは?」
「ルーも一緒だ。それよりどういう状況だ。そいつらはなんだ?」
「盗賊よ、リンゴを奪おうとしてるの!」
地下三階で、ルーがシンを助けに向かった後、キャロル達は持ってきた携行食を、衰弱した蛙達に食べさせていたので、シン達とそこまで距離が開いていなかったのだ。そして地上に戻ろうと二階を進んでいる時に、この二人に声をかけられたと言う。
魔物のような二人組の内、一人は背が低く、ネズミを思わせるような、黒っぽい服装とマスクをしている。衣服は肌に張り付いてピチッとしていて、その体型から見て男だろう。大きな旅行カバンを持っている。
もう一人は背が高く、こちらは蛇革のような物でできた青緑色の服装とマスクをしている。だがその服装よりも腕の長さに目がいく。この者は直立した状態で膝より下に拳がきていた。その拳には分厚い手甲らしき物をはめている。体型からして、こちらも男だろう。
どちらも身体全体がおかしなマスクと服で覆われていて、顔はおろか、肌すら見えない。
「お前らはなんだ?何故リンゴが欲しい?」
「なんや白髪頭、関係あらへんやろ!」
背が高く腕の長い男が、威勢よくシンに言い返した。追いついたルーが、それを聞いて言葉を返す。
「どこの出身ですか?」
ルーが気になったのは腕長男の方言。シンがそれについて言及する。
「その汚い言葉使い、お前西の方から来た人間だな」
「どこが汚いねん!お前ら上品ぶってるだけやろ!どつきまわすぞアホ!」
「何?どつきまわすって?分かる言葉で喋って!」
「はぁ?どつくっちゅうのは、しばくっちゅーこっちゃ!」
「何言ってるのか全然わかんないわよ!」
キャロルとシンが腕の長い男と口論するが、男の訛りが強く会話にならない。対して隣のネズミ男は黙ったままだ。ここに来てルーの、何でも気になる悪癖が発動する。
「あの、そっちのネズミの人はどこから来た方なんですか?」
「えっ僕?僕は西の方じゃないから、言葉は汚くないよ」
ネズミ男は標準的な言葉使いだった。何か珍しい方言を期待したルーはガッカリしたが、腕長男は怒り出す。
「【カジリ】お前も汚いと思ってたんか、殺すぞ」
「この僕を殺すんですか?【フリッカー】さん」
ネズミ男の名前はカジリ、腕長男の名前はフリッカーということがわかった。二人の言い合いには殺気がこもっており、少し空気が固くなる。
「流石にそれは不毛やな。やめとこか」
「賢明ですね」
二人は争うのをやめたようだ、急いでいるアメスケが声を上げる。
「すみません。もう通してください、こちらには怪我人もいます。早く治療をしないと」
「じゃあリンゴくれや、お前らさっきまで楽しそうに話してたやん。それが生命の実なんやろ?」
どうやら殿様達は、最下層で林檎を手に入れていたらしい。その話をしていたのを、彼らに聞かれたのだろう。しかしここで部下の蛙達が、フリッカーの態度に怒りを露わにする。
「貴様らいい加減にしろ!殿に向かって!」
「そもそもお前らに許可を取る必要は無い、退け」
衰弱していた蛙達は、キャロルとアメスケが持ってきた携行食を食べて、いくらか元気を取り戻していたようだ。蛙達は二人組を無視して先に進もうとする。しかし…
「アカン」
フリッカーがそう言うと、部下の蛙が一人、身体をくの字に曲げて吹き飛んだ。何をされたのかは分からないが、彼の仕業だろう。
仲間を攻撃された部下達が、一斉に刀や槍を構えて走り出す。だがその刃が届く前に、蛙達は見えない攻撃で次々と倒されていく。その様子をキャロルが不審がった。
「なんの魔術なの…」
部下達は全滅。皆生きてはいるが、元々弱っていたのもあって、立ち上がることができない。これにより残ったのは、ルーとシンとキャロル。そしてアメスケと殿様の五人。
「リンゴくれたら命は取らへんって言ったやん。意味分かる?くれへんかったら殺すってことやで?」
目の前で仲間をやられたアメスケは憤慨する。
「こんなことしてタダでは済まないぞ!そもそもどうやってここに入った!外には見張りがいた筈だ!」
アメスケの言う通り、遺跡の入り口は魔物が入らぬようにアガマとヒナメ、それに数名の蛙達が見張っていた。彼らが素通りさせたとは思えない。
「あーなんかおったなぁ。全員ボコボコにしたで」
「なんだって…」
アメスケの話では、アガマとヒナメはかなりの実力者。フリッカーはその二人を倒したと言う。それを聞いたシンが前に出た。
「リンゴが欲しければ自分で取りにいけ、この遺跡の最下層だ」
「嫌やわ、こいつらが竜がどうのこうの言ってんのも聞いたで、そんなん大変やん。このカエルからもらうわ」
フリッカーは殿様が林檎を渡すまで、一行を通す気は無いようだ。シンは相手を強敵と見て、チョコを取り出して全て口に含む。本当なら黒い液体の入った回復薬を飲みたかったが、竜との戦いで使い切っていた。
「もうええ、渡す気無いんやろ?ほなしばくわ」
「ルーさん!殿を頼みます!」
フリッカーから殺気が放たれる。竜に続いてまさかの連戦。レイピアに杖に刀、それぞれが武器を出し臨戦態勢を取る。ルーは片足の殿の護衛に回った。
「お兄さんは僕とやろうよ」
ネズミ男のカジリが、どこからか出した剣を手に飛びかかってきた。シンはそれをレイピアで防ぐ。レイピアの剣身は魔力だが、剣を受けることができるようだ。
シンとカジリが戦闘に入ったのを見たアメスケが、フリッカーに向かって、口から水の弾を勢いよく吐いた。
その弾は躱されてしまったが、キャロルが追撃の火球を放つ。それを追いかけるように、刀を持ったアメスケが走った。
しかしフリッカーは、飛んできた火球をなんらかの技で弾いて、向かってきたアメスケも遠い間合いから吹っ飛ばした。
「ぐはぁっ!」
攻撃を受けたアメスケにキャロルが駆け寄る。
「アメスケ!何をされたの?」
「…わかりません」
吹っ飛ばされたアメスケと、注視していたキャロルにも、フリッカーの攻撃が認識出来なかった。だがルーには見えていた。
「アメスケさんは殴られたんです!」
「えっ、あの距離で?」
確かにフリッカーの腕は常人より長いが、アメスケが吹っ飛ばされた時、二人の距離は三メートル近く離れていた。
「あの人腕が伸びてます!鞭みたいにしなってました!」
「腕を?聞いたことない魔術ね…それにいつ術を使ったかわからなかった」
キャロルはルーの話を訝しんだが、本人がそれを肯定する。
「にいちゃん、よう見えてるやん」
フリッカーがルーの目の良さに感心して、話しかけてきた。
「そんでお嬢ちゃん、これ魔術ちゃうで」
「魔術じゃなかったらなんなの、病気?」
「わっはっは、酷いな。でもまあそんなとこや」
アメスケは頭を殴られて、意識が朦朧としている。
「キャロルさん、…俺が戦います。隙があればあの人を吹っ飛ばしてください」
意を決したルーが前に出た。
どうしても書き直したくなったので、ここからやり直すことにしました。




