26.林檎狩りとドラゴン退治
ルーは戻ってシンを助けに行くつもりだ。だがアメスケがその蛮勇を止める。
「ルーさん、あの怪物を見たでしょう。…貴方に死んで欲しくない。一度出直して、準備をしてから戻りましょう」
「私も同意するわ。シンはみんなが逃げる時間を稼ぐために戦ったのよ。アンタが戻ったら意味ないでしょ。それに多分だけどあの竜は、例の大蛇と似た力を持ってる」
「似た力じゃない、あれが大蛇だ」
「殿、それはどういうことですか」
「…わしらは進化の時期に来てしまったんだ」
キャロルの話を聞いた殿様が、あの竜について語り出した。
数日前。殿様達は蛇に見つからぬよう、廃墟の町を探索していたところ、大きな建物を発見し、その扉を開けた。
すると中には巨大な繭があった。隊員がそれを槍で突いたところ、繭の中から家の屋根を突き破って、あの竜が出てきたのだという。
その後様々なことが起こり、追加の隊は惨殺され、殿は足を失い、竜は階段に引っかかって動けなくなっていたそうだ。
「アメスケよ、今回大蛇を見たか?」
「見ていません」
「…ならばやはり、あの竜が蛇なのだろう。繭の中で竜になったのだろう」
竜は蛇の進化した姿だ、殿はそう語る。確かに今いる竜は、鱗の色がこの遺跡の大蛇と同じで、似た能力も持っている。さらに決定的な事実として、今回誰も大蛇と出くわしていない。
だがルーにとって、そんなことはどうでもよかった。
「竜とか蛇とかは俺にはわかりません。でも三階にいたあの魔物が今下にいるってことは、また上がってくるかも。みんなは早く逃げてください」
ルーはそう言い残して下の階に向かう。後ろからキャロルとアメスケの引き止める声が聞こえたが、振り返ることはしなかった。腹が立ったからだ。
キャロルは身体が痺れている。アメスケは片足の殿と、衰弱した生存者の護衛と誘導があるだろう。今シンを助けに行くのは無謀というよりは無理だ。
誰かに着いてきて欲しいわけじゃない。ただ、命をかけてみんなを逃したシンを、見捨てるという選択が許せなかった。それを助けに行く、これは矛盾だ。それも理解していた。
だがここで階段を降りないと、一生自分のことを許せなくなる。ルーは盾と槍を強く握って、最下層、黄金の大地に降り立った。
「…あそこか」
シンの姿は見えないが、少し遠くで竜が暴れているのが確認できた。走って向かう。そこに近づくほど背中の痛みは増していく。だがそれすら今は些細なことだった。
「シンさん!」
シンが見えた、竜の攻撃を躱し続けている。だがその身体はボロボロで、白髪頭は血で染まっていた。
「何しに来た!早く逃げろ!」
「ダメです!一緒に帰りましょう!」
「そうしたいがリンゴが見つからん!他の奴らはどうなった!」
「みんな上の階に避難してます!」
「殿様達は金の林檎を取れたのか?」
「すいません!聞き忘れました!」
「馬鹿野郎!」
シンは見た目よりは元気そうだ。しかし大声で会話をしていたため竜がルーに気づき、尻尾を振って攻撃してきた。それを盾で受けようとする。
「受けるな!避けろ!」
「ぐぁ!」
太く長い尻尾の一撃は強力で、ルーは受けた盾ごと吹っ飛んで、近くの木にぶつかった。
「生きてるか!」
「大丈夫です…」
「ルー!お前は戦うな、リンゴを探せ。その間は俺がなんとかする」
シンは竜との戦闘中、周りの木を見て金の林檎を探していたが、なにせ全てが黄金に輝いているので見つからない。林檎探しはルーに任された。
「見づらいなぁ」
ルーは一面の黄金に目がチカチカしていた。だが金色の草に金色の木、黄金の林檎があるならこの階だろう。
「あっ!あれか!」
ルーが高い木に実る林檎を発見。確かにそれは金色に輝いている。
「シンさん!見つけましたよ!」
大声を出すが返答なし、悪寒がして状況を確認しに戻ると、まさに今、竜がシンを掴んで飲み込もうとしていた。
「おおぉぉぉい!!」
シンが食べられるのを阻止しようと、ルーが咄嗟に槍を投げた。それは竜の脇腹に突き刺ささり、少し怯ませたが捕食は止まらない。
「やめろおぉぉ!!!」
ルーは地面が抉れる程踏み込んで走り出す。シンはぐったりとして意識が無く、そのまま口に放り込まれてしまう。
それと同時に竜にたどり着いたルーが、脇腹に刺さった槍を足場に、竜の顔に飛び移り、口の中に自らも入った。
両足で下顎を踏み、両手で上顎を押し上げる。全身全霊、持てる限りの力を振り絞って口が閉じるの阻止する。竜は元が蛇だからか、口の可動域が広かった。
開こうとするルーの怪力と、閉じようとする竜の顎の力。お互いの力が拮抗している…かに思われたが、徐々に閉じる力が勝り始めた。
「ゥゥウグァァァアアア!!!」
ルーが雄叫びをあげながら、鼻血が吹き出すほどの力を出す。身体中の骨がビキビキと音を立て、筋繊維がブツブツと切れる。ルーの身体は限界を迎え、竜は口を閉じた…。
だがすぐにまた開いた。いや、開かされた。もちろんルーによって。しかし様子がおかしい。
ルーは四本腕になっていた。
着ていた革鎧を突き破り、背中から獣のような白い腕が飛び出している。フニャードで見たあの腕だ。だが今回は少し違った。ルーに意識があったのだ。
「…シンさん」
「ルー…なのか?」
「早く出てください…」
意識を取り戻したシンが竜の口から飛び出すと、ルーも四本の腕で上顎を跳ね除けて飛び出た。地面に着地した二人は、改めて竜と対峙する。
「ルー、なんだその腕は」
「…これが狼男じゃないんですか?」
「そんなわけないだろう。まるで魔物だぞ、大丈夫なのか?」
「めちゃくちゃ大丈夫ですよ。今ならなんでもできる気がします」
シンはルーの姿に驚いたが、まずは目の前の強敵だ。しかし竜はこちらを見たまま動かない、今まであれだけ暴れていたのに、今になって様子を見ている。
「こいつ大人しいですね」
「お前から漏れている邪気のせいだろう。隣にいるだけで俺も吐きそうだ」
「酷い言われようですね。邪気?ってなんですか」
「…身体に問題が無いなら今はいい、それよりリンゴは?」
「一つ見つけました!でも結構高い場所になってます」
「そうか、ならこいつをどうにかしなければならん。お前は戦えるか?」
この竜から逃げながら林檎を収穫するのは不可能。かと言って一人で相手をすれば、また喰われるかもしれない。シンが覚悟を問う。
これはルーにとっては予想外の質問。あれだけ戦わなくていいと言っていたシンが、戦闘の意思を確認してきた。それだけ切羽詰まっているのだろう。しかしルーは全く迷わず即答する。
「はい!戦えます!」
ここで戦わないなら、戻って来た意味がない。それにルーは謎の高揚感で好戦的になっていた。
「…よく言った。なら倒すぞ!」
「ぶっ飛ばしましょう!」
「後、こいつとは目を合わせるな。身体が痺れる」
「キャロルさんがやられたやつか…わかりました」
シンが回復薬の瓶を収納魔術で取り出して、本日二本目のそれを一気に飲み干した。
「ルー!」
「なんですか!」
「この竜を倒したらリンゴを街に持ち帰って、味開拓で宴会をするぞ!」
「おー!」
シンが大声で鼓舞すると、ルーもそれに答えた。
黄金の大地にて、二人の男によるドラゴン退治が始まった。




