表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

19.変更と報告

 「止まれ!止まれ!」


 投げ飛ばされたシンが、ゴーレムに向かって叫ぶが効果無し。


 またゴーレムがルーに殴りかかる。ルーはそれを腕で防いだが、あまりの威力に手が痺れた。


 「なんて力だ…。でも所長に比べたら」


 ゴーレムの追撃がきたが、それを避けてカウンター気味のパンチを腹に入れた。よろけるゴーレム。所長に比べると動きは遅い。ルーは見切っていた。


 戻ってきたシンがその攻防を見て感心する。


 「避けるのが上手くなったな」

 「シンさん早く止めて!」

 「無理だ、全く言うことを聞かん」

 「えっ!どうすんですか!」


 ゴーレムは通常、術者の命令に従う。だが現在暴走状態にあるようだ。


 「ミドビルの頭蓋骨を破壊するか…」

 「それはダメ!」

 「ならそいつの魔力が切れるまで相手をしてろ」

 「ええ!嘘でしょ⁉︎」

 「ちょうどいいだろ、稽古をつけてもらえ」

 

 シンは屋敷に戻った。残されたルーは攻撃を防ぎ続け、それから一時間程でゴーレムの魔力が切れて停止した。


 「シンさーん!止まりましたよ!」

 「終わったか」

 「俺を見捨てましたね!」

 「危なかったら走って逃げればいいだろ」

 「…まあ、そうですけど」


 逃げるという選択肢に気づかなかったルーが、少しモジモジする。その様子を気持ち悪く感じたシンが、話題を変えた。


 「ところでお前の休みはいつになったんだ」

 「えっと、それが…。所長が俺の実力じゃ、まだ森には行かせられないって…」

 「あのツバメは冒険者か何かか?」

 「エニアニマの元国境警備隊って言ってました」

 「獣人帝国か、あの国は北部が森林地帯で、南部では魔石が取れる。北には魔物が、南には不法入国者と盗掘団が出る。北側ならかなりの武闘派だ」

 「えー、そんな人に認めてもらえますかね…」

 「一週間やる。その所長を納得させろ」

 「強くなれってことですか?」

 「そういうことだ。一週間経っても休日が決まらないようなら、お前は置いていく」

 「待ってくださいよ!なんで急に⁉︎なら郵便所を辞めます!」


 「ダメだ、俺も所長に賛成する。考えたんだが、ここのところどうも変なことばかり起こる。森でも何があるかわからん」


 「そんな…」


 シンはそこらの冒険者よりも強い、故に楽観的だ。森の魔物は探知魔術で遭遇を避ければいい、もし戦闘になっても、自分がいればどうにかなると考えていた。だが鬼熊やゾンビやカマドウマなど、甘い考えから遭遇したイレギュラーを思い返して、自分の考えを改めるとともに、弱いルーを連れて行くのは危険だと判断したのだ。


 「そもそもシンさんは、どうしてその依頼にこだわるんですか?最初は店長の話すら聞こうとしなかったじゃないですか」


 「俺も初めはただの面倒事かと思った、だがそのリンゴは…おそらく俺が探してる物なんだ」


 「探してる物?」


 「すまん、今は関係ない。忘れてくれ」


 少し反発はしたが、ルーも昨日森に入ってから自分の実力の無さを痛感していた。冒険者になったばかりなので仕方ないが、仕方ないで済ましては次の仕事に連れて行ってもらえない。


 「俺が間に合わなければ、母の件も無しですか?」


 「…いや、また別の機会を設けよう。無理に今すぐ強くならなくていい。盆地へは俺とキャロルで行く」


 金の林檎がどの季節に実るのかはわからないが、普通の林檎は今が時期なので、シンはそれが終わる前に盆地に行きたいと考えていた。


 「…わかりました」

 「心配するな。また次のしご…」

 「一週間ですね。俺、死ぬ気でやります」

 「…そうか」


 そこからルーは深夜まで魔石をつけたゴーレムと戦闘訓練を続け、仮眠を取って早朝、郵便所に行き仕事を終わらせた。



 「所長。今日もお願いします」

 「もちろんだよ」


 二人が昨日と同じように、倉庫の前で木剣を構える。


 「いつでもいいよ〜」

 「いきます!」

 

 ルーは昨日とは段違いの速度で打ち込む。相手が強者とわかっていれば、遠慮はいらない。大振りの猛攻を仕掛ける。それを右へ左へひょいひょいと所長が躱して、木剣で切り上げた。顎を弾かれたルーは膝をつく。


 「くそっ」


 所長が今のルーの戦い方を見て声をかける。


 「ルー君は力が強いよね?」

 「はい」

 「ならそんなに剣を大きく振り回さなくてもいいよ。コンパクトに行こう」


 ルーは指摘された部分を少しずつ直して行く。その後は戦術の指導を受けた。


 「僕も昨日考えてたんだけど、魔物と戦う時、君は戦士という役割になる。一緒に森に行く魔術師さんは攻撃魔術は撃てるの?」


 「…はい。火の魔術が得意って言ってました」


 「森で火は出さない方がいいけど…。まあ仲間が攻撃魔術が得意なら、戦士は前に出て戦い、後ろの魔術師が敵を倒すって戦法になると思う」

 「はい」

 「だから君は前に出るんだけど、敵を倒しに行くってよりは、足止めするのが大事なんだ」

 「足止めですか」

 「うん。魔術師の魔力量や、どのくらい戦うかにもよるけど、前で粘らないといけない」

 「倒さず、粘る…」

 「ということは、防御が大切になるよね?」

 「そうですね」

 「練習しよう。僕が今から木剣で攻撃するから盾使って防いでね」

 「わかりました」


 ルーは前衛と後衛の説明を受けて、戦士の立ち回りを練習することになった。


 「いくよー」

 

 所長の木剣による攻撃をルーが木の盾で弾く。もちろん被弾する事もあるが、フェイントに引っかかっても瞬発力でカバーして、かなり高い割合で攻撃を防げている。


 「ルー君反応がいいね」

 「ありがとうございます」

 「剣は絶望的だけど、盾はかなりいいよ」

 「剣は絶望的なんですか!」

 「うん。なんて言うかね、才能が無い」

 「俺だって頑張ってるんですよ!」

 「普通は頑張らなくても出来ることが、君には出来てない」


 絶句。所長は失礼な事を言うが、それだけ正直ということ。その素直な物言いにルーが肩を落とす。


 「そんな…俺はどうすれば…。もう森に行くことは叶いませんか」

 「そんなことないよ。これ使ってみる?」


 そう言って所長が、倉庫から何かを取り出してきた。

 「なんですかこの棒」


 ルーはしばらくそれを試してみる。


 「俺、これなら扱える気がします」

 「僕も使ったことはないけどさ、結局はこれが強いよ」


 それを使って、また倉庫前で所長と訓練をした。以降シンの屋敷には行かず。ルーは次の日も、その次の日も、所長との腕試しをする。毎日寝る間を惜しんで家でも練習をした。


 そして約束の一週間目。


 「ルー君、君は強くなった。もう森に行っても大丈夫。でも武器はちゃんとしたのを買ってね」


 「わかってます。ありがとうございました、所長」


 「休日のことなんだけど、他の街から配達員の助っ人を呼ぶから、明後日からでいい?」


 「大丈夫です。…あの、関係無いんですけど、所長はエニアニマのどこを警備してたんですか?」


 「北部森林だよ」

 「…強いと思いましたよ」


 どうやら所長は警備隊時代、エニアニマの北側で魔物と戦っていたようだ。


 「この何日かで、僕は君に戦い方を教えたけど、戦わないで済むなら、なるべくそうしてね」


 そう話しながら、所長が上着を脱いで上半身を見せる。その小さな身体には、肩から腹にかけて、切り裂かれたようなとても大きな傷跡があり、その部分だけ羽毛が剥げていた。


 「…なんなんですか…その怪我」

 「僕はこれで隊を降りた。君も気をつけてね」



 所長との一週間の訓練を終えて、期限ギリギリで許可をもらったルーは、急いでシンの屋敷に向かう。到着すると、屋敷の前に人が立っていた。


 「あれ?キャロル…さん」

 「ルー!」


 そこにいたのは、森で出会った魔術師のキャロルだった。


 「私、ギルドづてに呼び出されたんだけど…ここってアイツの家なの?」

 「そうですよ。シンさんの屋敷です」

 「へぇ…。なんて言うか、ボロいね」


 「ははは、俺も最初はそう思いました。でも中は綺麗なんで安心してください」

 

 そう言いながらガチャっと扉を開け、二人は屋敷に入った。


 中に入ってシンを呼ぶが返事はなし。ペットのコウモリも飛んでこない。二人がしばらく待っていると、シンが玄関から入って来た。


 「おお、来てたのか」

 「来てたのかじゃないわ!人のこと呼びつけといてどこ行ってたの!」

 「悪い、買い出しに出ていた」


 キャロルと会うのは一週間ぶり二度目のはずだが、彼女はまるで古くからの友人のように二人に接してくる。友達のいないルーは、それが少し嬉しかった。シンは少し嫌そうだった。

 

 「久しぶりだなルー、休日は貰えたのか?」

 「はい。たっぷり七日間」


 ルーはニヤっと笑って答えた。


 「…正直お前は置いていくつもりだった。強くなったんだな?」

 「今までで一番頑張りました。所長も認めてくれてます」

 「ならいい。休みはいつからだ?」

 「明後日からです」

 「キャロル、明後日から出発する。問題ないか?」

 「私はいつでもいいわ」

 「よし、当日の流れを決めておこう」


 日程が決まったところで、シンが計画を二人に話した。


 その内容は、明後日の早朝にフラウを出発して、二日から三日かけて森を北西方向に抜ける。するとカワズ盆地に出る。その盆地には里があって、その里で聞き込みをして金の林檎を探す。見つけ次第確保、また森を抜けて帰るというものだった。


 「そんな場所に人里があるわけ?」

 「ああ、森の奥にあるせいで誰も行かないがな」

 「シンさんは行ったことあるんですか?」


 「俺も無い。だがそこの出身の者と会ったことがある、だから存在だけは知っている。他に質問はあるか?無いなら武具店が閉まる前に、装備を整えに行く」


 三人は武具店に向かった。



 「いらっしゃいませー、あっ!お客様」


 革鎧を買った時の店員が、シンに気づいて声をかけてきた。


 「お預かりしていた剣の調整が済みました」


 店員が奥から持って来たのはミドビルの剣。預けていたのをすっかり忘れていた。剣は研がれて、持ち手には新しい革が巻かれ、まるで新品のように見える。


 「良かったなルー。今回はこれを持っていけ」

 「…シンさん。言って無かったんですけど俺、武器を変えました」

 「なんだと、剣はやめたのか?」

 「はい。俺の武器はあれです」


 そう言ってルーが指をさしたのは「槍」だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ