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17.子供とお酒

 「ちょっと!アンタ何したら金貨五枚ももらえるの⁉︎」


 「何って、お手伝いしたんだよ」

 「なんの手伝いよ!」

 「俺の仕事の手伝いだ」

 「私もやる!」


 キャロルは仕事の内容を聞かないどころか、誘われてすらいないのに手伝うらしい。完全に金に目が眩んでいた。


 「手伝うか、キャロルは何ができる?」


 「一通りできるわ、中でも火の魔術が得意ね」


 「一通りか、なら是非手伝ってもらいたい。後、冒険者をしてるなら問題ないとは思うが、親の許可は取らなくて平気か?」


 「は?子供扱いしないで!……それで、私は何をすればいいの?」


 「それは後で話す。とりあえず今からギルドに戻るが、さっきの人型の虫のことは黙っておけ」


 「なんで⁉︎あんな奴は見たことない!絶対に報告しないと」


 キャロルは冒険者を初めてまだ一年だが、初見にして異質な気配を、あの人型の魔物から感じ取っていた。


 「報告はする。だが俺たちは近く、森に入りたい。ギルドに教えるのはその後だ」


 今それをギルドに言えば、ただでさえ六級以上しか入れないのに、さらに厳しくなる可能性があるとシンは考えた。


 「そんな…危険な魔物がいるのに、しばらく黙ってろって言うの?」


 「ああそうだ」


 シンの身勝手な言い分にルーが反論する。


 「だめですよ!キャロルの言う通り、すぐ報告しましょう」


 「……いくら貰えるの」


 「え?」


 「アンタの仕事を手伝えばいくら貰えるの!」


 「俺の仕事が…何もかも全て終われば、いくらでもくれてやる」


 「いくらでも…わかったわ、ならギルドには黙っておく。でも森での用が済み次第報告するわよ」

 

 「それでいい。お前も喋るなよ、ルー」


 「えぇ…」


 二人の契約が成立した。ルーはギルドの決まりや法律に詳しくはないが、これはどう考えても違法行為だ。


 「名前がまだだったな、俺はシン。こっちがルーだ」

 「シンとルーね。よろしく」

 「…よろしく」


 自己紹介を終えた一行は依頼達成の報告をするためギルドに戻った。


 「おかえりなさい!」


 ソルケが元気に出迎える。


 「二人とも初依頼お疲れ様でした。ルー君大丈夫だった?」

 「ああ、もちろん」


 聞かれたルーが下手なことを言う前に、シンが前に出て答える。その後ろでは、初依頼という言葉を聞いてキャロルが驚いていた。


 「初仕事だったの⁉︎なのに森に入れたの⁉︎」


 「シンさんが森に入りたいって言ったら、ポリンクさんがウッドホッパーなら、弱いからいいって」


 「あの堅物の副ギルド長が、そんなことを許すなんて驚きね…」


 報告を終え、ウッドホッパーの頭部を渡して報酬を受け取る。その後は仕事の話と腹ごしらえをしに、三人で味開拓へ向かうこととなった。



 「この時間でも行列ですね」

 「ここって高いんじゃない?」

 「店主と話してくるから待ってろ」


 シンがそう言い店内に入る。店は行列が外まで伸びており、かなり待つかと思ったが、少ししてルーとキャロルも店員に案内された。二人は店の奥に通され個室に入る。そこにはシンと店長がいた。


 「どうもどうも、ルーくんと…お嬢ちゃん?」

 「私はキャロルよ」

 「あっ、店長。昨日は寝ちゃってすみません」

 「気にしないで」

 「そんなことはどうでもいい。リンゴの話だ」


 どうやら先に入ったシンが、店長に依頼を受けると伝えたらしい。それで奥の個室に通されたのだ。

 

 「少し考えるって言ってたのに、早かったね」

 「善は急いだ方がいいと思ってな」

 「嬉しいよ。みんな好きな物頼んでね。僕からのお礼さ」


 それを聞いたルーとキャロルは、喜んで好き放題頼みまくる。シンは店長と話を続けた。


 「俺たちはお前の言う通り、カワズ盆地に行くつもりだ。だがあの土地に金の林檎がある保証は無いんだろ?」


 盆地へ行くだけでかなりの労力を割く。シンは少しでも確かな情報が欲しかった。


 「どこで盆地とリンゴの関係を知ったんだ」

 

 「王都で遺跡の研究をやってる方に聞いたんだよ」


 店長が言うには、王都で金の林檎について調べている時、悩む店長を見かねた常連の遺跡研究者が、生涯をかけて調べた遺跡の調査資料を持ってきてくれたそうだ。


 その研究者は主に食文化について調べているらしく、おかげで持ってきた資料には、果物や野菜、肉などの群生地や生息地が記されていた。


 その中に金の林檎らしき果物が取れる土地についての記述もあり、その場所が今のカワズ盆地らしい。


 「でも心配な所が二つあってね。まず一つは、その資料は数百年以上前に造られた遺跡を元にしてるから、今も林檎があるかわからないってこと」


 「なるほどな、もう一つは?」

 

 「それがもう一つは…資料では林檎じゃなく【輝く果実。生命の実】って呼ばれてたんだ。だから僕が求めてるものかはわからないんだよね」


 その言葉でシンの眼が、眼鏡の奥でギラリと光った。


 「生命の実…!間違いない。ルー!郵便所を辞めろ」


 唐突な命令にルーが飲んだ水を吹き出す。


 「ゲホッ!な、なんですか急に!辞めませんよ」


 「辞めないならしばらく休暇を取れ。盆地に行くのに森の中を二日歩いて、向こうでリンゴを探して、また二日かけて帰って来る。どう考えても五日以上はかかる」


 「五日も…。所長に一度頼んでみます」


 「アンタ…じゃなくて、ルーは郵便所でも働いてるの?」

 「うん。おっきい荷物の配達員」

 「給料良いの?」

 「あんまり良くないかな」


 各々雑談していると、先に飲み物を持ってきた店員がシンの前に酒を置いた。


 「この酒は誰のだ?ルーか?」


 身に覚えのない注文をシンが訂正する。だが意外な人物が声を上げた。


 「それ頼んだの私、こっちこっち」


 頼んだのはキャロルだった。それをシンが咎める。


 「おい、子供が酒を飲むな」

 「子供?私、二十五歳なんですけど」


 その場にいた全員が困惑する。


 「キャロル…さん?」

 「ごめんねお嬢ちゃんなんて言って」

 「…すまなかった」


 「…もういいわよ、慣れてるから」


 キャロルは背が低く、顔も幼い。声も高いためかなり若く見えた。二十五歳のキャロルがシンに尋ねる。


 「それでさっきから、林檎林檎ってなんのこと?」

 「ああ、カワズ盆地を知ってるか?」

 「今聞いたわ」

 「この街から北西の…」

 「場所も聞いてたわよ、行くのに二日かかるんでしょ」


 「そうだ、そこにあるリンゴが欲しい。だが森を抜けるために探知魔術が必要なんだ」


 「シンは使えないの?まさかアンタも魔力無し?」


 「いや、俺は魔力もあるし、探知魔術も使える。だが森のような広い場所では、どうも上手くいかんのだ」


 「だから私を誘ったってわけね」

 「その通りだ。これで準備は整った。あとはルーが休みを取ってくるだけだ」

 「…わかりましたよ。休日だけど、明日聞いてきます」


 三人の話し合いが終わったところで、丁度食事が来た。次から次へと運ばれてくる料理は、どれも最高の味だった。



 「じゃあ、日付が決まったらギルドに伝えてちょーだい」


 「はい。お気をつけて」

 「ルー、お前も帰るか?」

 「今日は帰ります。で、また明日所長に会った帰りに屋敷に行きます」

 「そうか、余裕を持って七日ほど休みをとってこい」

 「そんなに休めるかな…。それもですけど、明日ミドビルさんの埋葬の続きをやりましょう」

 「…それは気にするな、俺がやっておく」

 「手伝わせてください。盾と剣のお礼も言いたいし」

 「お礼って、骨にか?」

 「はい」


 三人は店の前で解散した。



 ルーは帰り道、一人考える。弱いウッドホッパーとはいえ、今日魔物を倒せた。つまり自分は戦えるということ。だが、あの人型の虫には勝てなかっただろう。今、必要なものがある。森に二日も入るなら尚更だ。


 「強くなりたい…」


 ルーは、生まれて初めて強さを求めた。


 その声を、誰かが聞いていた…。

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