16.カマドウマと光る赤
ルー達が森に向かった後、街のギルドではポリンクとソルケが話していた。
「結局ルーくんは、なんの依頼にしたんですか?」
「ウッドホッパーです」
「えっ?あれって森に入りますよね⁉︎」
「えぇ入ります」
「しかも今、ウッドホッパーの数がとんでもなく増えてるんですよ!あの人たち八級どころか初依頼です!大丈夫なんですか?」
「あの依頼は人気が無いですから、少しでも数を減らして欲しくて許可しました。それにあの白い髪の方は…。おそらくかなりの強者です。匂いでわかります」
そう言ってポリンクが鼻をクッと振る。
「…確かに雰囲気はありましたけど、あの人鎧も何もつけてませんでしたよ」
「きっと魔術師なのでしょう。それに相手はただのバッタですから」
その話を耳に入れた一人の少女が、焦った様子でポリンク達に話しかける。
「ちょっと待って!あの依頼もう誰かが受けちゃったの⁉︎」
少女は慌てて自分もウッドホッパーの依頼を受けると言って、ギルドを飛び出して行った。
一方森ではルーとシンが、お互いの覚悟を確かめ合っていた。
「相手は人を襲うバッタの大群だ、本当にやれるのか?」
「怖いけどやるしかありません!シンさんこそ弱気じゃないですか?」
「大丈夫だ。任せておけ」
不足の事態が起こった場合、冒険者でなくとも退却が基本。何かあれば退避して報告しろとポリンクにも言われていた。だがせっかく戦う気になっているルーを見て、シンはここで退くのはもったいないと感じ、依頼を続けることにした。
ルーは盾と剣を、シンは予備の魔力レイピアを構えて森の中にもう一度入って行く。歩いていると、すぐにあの羽音が聞こえてきた。
「来たぞ!」
一体のウッドホッパーが、ルー目掛けて突進してきた。
「うわぁ!」
「怯むな!」
「おわあぁあ!」
ルーが左手に装着した盾でウッドホッパーを力強く殴った。バッタは地面に叩きつけられ、見ると頭が潰れていた。
「やりました…俺やれます!」
「よくやった、この調子でいくぞ」
波に乗ったルーは盾と剣を無茶苦茶に振り回して、向かって来るバッタを叩き潰していく。シンも飛んでくるバッタを、レイピアで切り落とす。
二人で五十体以上始末した頃、大量の羽音が聞こえてきた。さっきの比では無い。
「来ますね」
「少し距離を取ろう、お互いの剣があたるかもしれん」
「はい。…俺なんかわかんないけど、楽しくなってきました!」
「良い兆候だ」
薄暗い森の奥からついに音の主が姿を現した。数えられるわけはないが、それでも数百はいるだろう。だがここでまた不測の事態が起こる。
群れの中心に、妙な虫がいたのだ。
「なんだあれ⁉︎」
その虫は二足歩行で腹の出た中年男性のような姿をしており、背丈も人と同じかそれより大きい。それにバッタというよりはカマドウマだった。シンがそれを見て眉間に皺を寄せる。
「あれなんですか⁉︎」
「あれは…」
「どうします⁉︎逃げますか⁉︎」
「…」
「シンさん!どうするんですか⁉︎」
「お前はバッタを頼む。人型は俺が殺す」
「はい!」
戦うと決めたルーとシンは、同時に群れに向かって駆け出す。
その時、走る二人に向けて後ろから誰かが叫んだ。
「離れて!」
声とほぼ同時に後方から、二人の間を赤い光の玉が通り抜け、その光がバッタの群れに直撃。
大爆発が起こった。
「ぎゃあああ!」
爆風で吹っ飛んだルーが、本日何回目かの悲鳴を上げた。シンはふわりと着地して振り返る。
そこには長い杖を持った、烈火の如く赤い髪色をした少女が立っていた。
「怪我はしてないみたいね」
少女の軽い口ぶりにシンが物申す。
「おい魔術師!危ないだろ、殺す気か」
「アンタには当たって無いでしょ!」
「いってぇ…なんですか今の爆発…」
吹っ飛ばされたルーが戻ってきた。そのルーの顔を見て少女が驚く。
「け、怪我!」
少女はすぐさま収納魔術で回復薬を取り出して、ルーの顔にぶっかけた。
「どうしよう!治らない!なんで⁉︎」
「これは元からある傷…」
顔の傷跡を見て、自分のせいだと勘違いしたようだ。意味もなくビチャビチャにされたルーが話を戻す。
「あの人型はどうなりましたか!」
「この爆発じゃ生きてないだろう」
爆発から逃れることが出来た何割かのバッタは、もう逃げてしまっていた。森が薄暗いうえに今ので煙が上がっていて状況がわからない……筈だが少女は答える。
「一匹残ってる…」
「何?」
その言葉を聞いたシンが煙の方を見ると、中から先ほどの中年カマドウマが出てきた。
「まだ生きてる」
「なんて醜い顔なの…」
「お前らは下がってろ」
シンが前に出てレイピアを構えた。
よく見るとカマドウマは爆発でかなりダメージを負っているようだった。腹から体液がこぼれている。
「なにしてんの?私が倒すからそこ退いて」
少女がシンを押し退けて前に行き、カマドウマに杖を向け呪文を唱え出す。しかしその動きに相手も気づいた。
「ギギギギギギチィ!」
カマドウマは耳を覆いたくなるような鳴き声を発した後、口から何かを勢いよく飛ばしてきた。その速度はウッドホッパーの突進を軽く凌駕しており、シンと少女が気づいた時には避けられない距離だった。
だがいち早く反応したルーが、少女に覆いかぶさる形で身を投げ出してこれを防ぐ。背中に直撃を受け、少女を抱きしめて転がっていった。
シンはその光景を見て、カマドウマとルー達の間に身体を入れて、追撃を受けないよう位置どった。そして疾走。
カマドウマは、向かって来たシン目掛けてまた口から何かを飛ばした。だがそれをレイピアで弾き飛ばし、間合に入って一刀。カマドウマの頭を縦に切り裂いた。
「大丈夫か!ルー!」
敵を撃破してすぐにルーの元へ戻る。
「ぐぁぁ…背中が…」
「見せてみろ!」
背中に攻撃が炸裂したルーが、うつ伏せで倒れ呻き声を上げている。シンがすぐ確認するが、革鎧が少し汚れていただけで特に怪我などはしていなかった。
「おい!ルー、どこが痛いんだ!体の中か⁉︎」
「えっ⁉︎」
ルーが腕立てのように上半身を起こして、一瞬考えてから答える。
「すいません。特に痛くないです」
「…よかったな」
「背中に衝撃があったんですけど、痛くは無かったかもしれません」
「鎧に感謝しろ」
革鎧が怪我を防いでくれたらしい。金貨四十枚は伊達じゃない。
「無事なら退いてくれる?」
ルーの下敷きになっていた少女が声を出した、彼女も無事のようだ。
「あっ!ごめん!」
「……ありがとう」
少女は立ち上がるとルーに短く礼を告げて、カマドウマの所へ歩いていった。
「こいつ何だったの…」
「シンさん、あの人型の魔物はなんなんですか」
「…知らん」
しばらくしてルー達もカマドウマを見にいく。すると少女が何かを集めていた。
「ほとんどダメね…」
「何してるの?」
「バッタの頭を持って帰るの」
「うげぇ、なんでそんなこと…」
「じゃなきゃお金もらえないでしょ」
「ルー、俺たちも拾うぞ」
「そういうことか…」
ルーはポリンクの話を聞いていなかったが、ウッドホッパーに限らず、討伐任務は証拠として、指定された魔物の一部を持ち帰るのが基本。シンと少女が死体を拾うのを見て、ルーもそれに気づいたようだ。
「これは私のだからね!アンタ達にはあげないわよ!」
「うるさい奴だ…」
「あはは」
シンは収納魔術で袋を出す。少女は収納袋と呼ばれる魔道具を持っており、そこに詰める。ルーは気持ち悪そうに二人を見ていた。
「帰るか」
「そうですね。あっ、よかったら一緒に帰る?」
ルーが少女に声をかけた。
「…別にいいけど」
シンは少し嫌な顔をしていたが、三人で帰ることになった。
「さっきの魔術凄かった!あれなに?」
「あれは爆発魔術よ。そんなことも知らないの?」
「あはは…。俺、魔力無くて…」
「だからか…。アンタ達なんでウッドホッパーなんか狩ってたの?こんな依頼普通は受けないでしょ?」
「お前も受けてるだろ」
「私は…ギルドがこの依頼の報酬を上げるのを待ってたの。でも今日、先に受けた人がいるって聞いて急いで来たわ」
人気のない依頼は、ギルドと依頼人が相談して報酬金をあげることがあるらしい。
「俺たちは森で探知魔術を試したかったんだが、やっぱりどうにも上手くいかん。魔術師、お前はかなり得意そうだったな」
「魔術師って呼ばないで、私の名前はキャロルよ」
「キャロル、かわいい名前だね」
「えっ…ありがとう…」
ルーに突然名前を褒められて、少女が少し恥ずかしそうにする。
「キャロル、お前は魔術が得意なのか」
「得意よ!学校では一番だったわ」
「学校?」
「そうか、探知魔術も得意か?」
「まあ、結構得意ね」
「冒険者の等級は?」
「六級よ」
それを聞いたシンが眼鏡をクイっと直して、ニヤッと笑った。
「それで、今回は稼げたのか?」
「急に何?バッタは爆発でほとんどダメになってて、大して稼げなかったわ」
「そうか、残念だったな。おいルー!そういえばお前にこの前の報酬を渡して無かった」
シンがそう言って収納魔術で金貨を五枚出してルーに渡した。
「こんなにもらえませんよ」
「取っておけ」
キャロルはそれを見て目を丸くした。




