表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

16.カマドウマと光る赤

 ルー達が森に向かった後、街のギルドではポリンクとソルケが話していた。


 「結局ルーくんは、なんの依頼にしたんですか?」

 「ウッドホッパーです」

 「えっ?あれって森に入りますよね⁉︎」

 「えぇ入ります」


 「しかも今、ウッドホッパーの数がとんでもなく増えてるんですよ!あの人たち八級どころか初依頼です!大丈夫なんですか?」


 「あの依頼は人気が無いですから、少しでも数を減らして欲しくて許可しました。それにあの白い髪の方は…。おそらくかなりの強者です。匂いでわかります」


 そう言ってポリンクが鼻をクッと振る。


 「…確かに雰囲気はありましたけど、あの人鎧も何もつけてませんでしたよ」


 「きっと魔術師なのでしょう。それに相手はただのバッタですから」


 その話を耳に入れた一人の少女が、焦った様子でポリンク達に話しかける。


 「ちょっと待って!あの依頼もう誰かが受けちゃったの⁉︎」


 少女は慌てて自分もウッドホッパーの依頼を受けると言って、ギルドを飛び出して行った。



 

 一方森ではルーとシンが、お互いの覚悟を確かめ合っていた。


 「相手は人を襲うバッタの大群だ、本当にやれるのか?」


 「怖いけどやるしかありません!シンさんこそ弱気じゃないですか?」


 「大丈夫だ。任せておけ」


 不足の事態が起こった場合、冒険者でなくとも退却が基本。何かあれば退避して報告しろとポリンクにも言われていた。だがせっかく戦う気になっているルーを見て、シンはここで退くのはもったいないと感じ、依頼を続けることにした。


 ルーは盾と剣を、シンは予備の魔力レイピアを構えて森の中にもう一度入って行く。歩いていると、すぐにあの羽音が聞こえてきた。


 「来たぞ!」


 一体のウッドホッパーが、ルー目掛けて突進してきた。


 「うわぁ!」

 「怯むな!」

 「おわあぁあ!」


 ルーが左手に装着した盾でウッドホッパーを力強く殴った。バッタは地面に叩きつけられ、見ると頭が潰れていた。


 「やりました…俺やれます!」

 「よくやった、この調子でいくぞ」


 波に乗ったルーは盾と剣を無茶苦茶に振り回して、向かって来るバッタを叩き潰していく。シンも飛んでくるバッタを、レイピアで切り落とす。


 二人で五十体以上始末した頃、大量の羽音が聞こえてきた。さっきの比では無い。


 「来ますね」


 「少し距離を取ろう、お互いの剣があたるかもしれん」


 「はい。…俺なんかわかんないけど、楽しくなってきました!」


 「良い兆候だ」


 薄暗い森の奥からついに音の主が姿を現した。数えられるわけはないが、それでも数百はいるだろう。だがここでまた不測の事態が起こる。


 群れの中心に、妙な虫がいたのだ。


 「なんだあれ⁉︎」


 その虫は二足歩行で腹の出た中年男性のような姿をしており、背丈も人と同じかそれより大きい。それにバッタというよりはカマドウマだった。シンがそれを見て眉間に皺を寄せる。


 「あれなんですか⁉︎」

 「あれは…」

 「どうします⁉︎逃げますか⁉︎」

 「…」

 「シンさん!どうするんですか⁉︎」

 「お前はバッタを頼む。人型は俺が殺す」

 「はい!」


 戦うと決めたルーとシンは、同時に群れに向かって駆け出す。


 その時、走る二人に向けて後ろから誰かが叫んだ。


 「離れて!」


 声とほぼ同時に後方から、二人の間を赤い光の玉が通り抜け、その光がバッタの群れに直撃。


 大爆発が起こった。


 「ぎゃあああ!」


 爆風で吹っ飛んだルーが、本日何回目かの悲鳴を上げた。シンはふわりと着地して振り返る。


 そこには長い杖を持った、烈火の如く赤い髪色をした少女が立っていた。


 「怪我はしてないみたいね」


 少女の軽い口ぶりにシンが物申す。


 「おい魔術師!危ないだろ、殺す気か」

 「アンタには当たって無いでしょ!」

 「いってぇ…なんですか今の爆発…」

 

 吹っ飛ばされたルーが戻ってきた。そのルーの顔を見て少女が驚く。

 

 「け、怪我!」


 少女はすぐさま収納魔術で回復薬を取り出して、ルーの顔にぶっかけた。


 「どうしよう!治らない!なんで⁉︎」

 「これは元からある傷…」


 顔の傷跡を見て、自分のせいだと勘違いしたようだ。意味もなくビチャビチャにされたルーが話を戻す。


 「あの人型はどうなりましたか!」

 「この爆発じゃ生きてないだろう」


 爆発から逃れることが出来た何割かのバッタは、もう逃げてしまっていた。森が薄暗いうえに今ので煙が上がっていて状況がわからない……筈だが少女は答える。


 「一匹残ってる…」

 「何?」

 

 その言葉を聞いたシンが煙の方を見ると、中から先ほどの中年カマドウマが出てきた。


 「まだ生きてる」

 「なんて醜い顔なの…」

 「お前らは下がってろ」


 シンが前に出てレイピアを構えた。


 よく見るとカマドウマは爆発でかなりダメージを負っているようだった。腹から体液がこぼれている。


 「なにしてんの?私が倒すからそこ退いて」


 少女がシンを押し退けて前に行き、カマドウマに杖を向け呪文を唱え出す。しかしその動きに相手も気づいた。


 「ギギギギギギチィ!」


 カマドウマは耳を覆いたくなるような鳴き声を発した後、口から何かを勢いよく飛ばしてきた。その速度はウッドホッパーの突進を軽く凌駕しており、シンと少女が気づいた時には避けられない距離だった。


 だがいち早く反応したルーが、少女に覆いかぶさる形で身を投げ出してこれを防ぐ。背中に直撃を受け、少女を抱きしめて転がっていった。


 シンはその光景を見て、カマドウマとルー達の間に身体を入れて、追撃を受けないよう位置どった。そして疾走。


 カマドウマは、向かって来たシン目掛けてまた口から何かを飛ばした。だがそれをレイピアで弾き飛ばし、間合に入って一刀。カマドウマの頭を縦に切り裂いた。


 「大丈夫か!ルー!」


 敵を撃破してすぐにルーの元へ戻る。


 「ぐぁぁ…背中が…」

 「見せてみろ!」


 背中に攻撃が炸裂したルーが、うつ伏せで倒れ呻き声を上げている。シンがすぐ確認するが、革鎧が少し汚れていただけで特に怪我などはしていなかった。


 「おい!ルー、どこが痛いんだ!体の中か⁉︎」

 「えっ⁉︎」


 ルーが腕立てのように上半身を起こして、一瞬考えてから答える。


 「すいません。特に痛くないです」

 「…よかったな」

 「背中に衝撃があったんですけど、痛くは無かったかもしれません」

 「鎧に感謝しろ」

 

 革鎧が怪我を防いでくれたらしい。金貨四十枚は伊達じゃない。


 「無事なら退いてくれる?」


 ルーの下敷きになっていた少女が声を出した、彼女も無事のようだ。


 「あっ!ごめん!」


 「……ありがとう」


 少女は立ち上がるとルーに短く礼を告げて、カマドウマの所へ歩いていった。


 「こいつ何だったの…」

 

 「シンさん、あの人型の魔物はなんなんですか」

 「…知らん」


 しばらくしてルー達もカマドウマを見にいく。すると少女が何かを集めていた。


 「ほとんどダメね…」

 「何してるの?」

 「バッタの頭を持って帰るの」

 「うげぇ、なんでそんなこと…」

 「じゃなきゃお金もらえないでしょ」

 「ルー、俺たちも拾うぞ」

 「そういうことか…」


 ルーはポリンクの話を聞いていなかったが、ウッドホッパーに限らず、討伐任務は証拠として、指定された魔物の一部を持ち帰るのが基本。シンと少女が死体を拾うのを見て、ルーもそれに気づいたようだ。


 「これは私のだからね!アンタ達にはあげないわよ!」

 「うるさい奴だ…」

 「あはは」


 シンは収納魔術で袋を出す。少女は収納袋と呼ばれる魔道具を持っており、そこに詰める。ルーは気持ち悪そうに二人を見ていた。


 「帰るか」

 「そうですね。あっ、よかったら一緒に帰る?」


 ルーが少女に声をかけた。


 「…別にいいけど」


 シンは少し嫌な顔をしていたが、三人で帰ることになった。


 「さっきの魔術凄かった!あれなに?」

 「あれは爆発魔術よ。そんなことも知らないの?」

 「あはは…。俺、魔力無くて…」


 「だからか…。アンタ達なんでウッドホッパーなんか狩ってたの?こんな依頼普通は受けないでしょ?」


 「お前も受けてるだろ」


 「私は…ギルドがこの依頼の報酬を上げるのを待ってたの。でも今日、先に受けた人がいるって聞いて急いで来たわ」


 人気のない依頼は、ギルドと依頼人が相談して報酬金をあげることがあるらしい。


 「俺たちは森で探知魔術を試したかったんだが、やっぱりどうにも上手くいかん。魔術師、お前はかなり得意そうだったな」

 

 「魔術師って呼ばないで、私の名前はキャロルよ」


 「キャロル、かわいい名前だね」

 「えっ…ありがとう…」


 ルーに突然名前を褒められて、少女が少し恥ずかしそうにする。


 「キャロル、お前は魔術が得意なのか」

 「得意よ!学校では一番だったわ」

 「学校?」

 「そうか、探知魔術も得意か?」

 「まあ、結構得意ね」

 「冒険者の等級は?」

 「六級よ」


 それを聞いたシンが眼鏡をクイっと直して、ニヤッと笑った。


 「それで、今回は稼げたのか?」


 「急に何?バッタは爆発でほとんどダメになってて、大して稼げなかったわ」


 「そうか、残念だったな。おいルー!そういえばお前にこの前の報酬を渡して無かった」

 

 シンがそう言って収納魔術で金貨を五枚出してルーに渡した。


 「こんなにもらえませんよ」

 「取っておけ」

 

 キャロルはそれを見て目を丸くした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ