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12.休息と怒り

 「金の林檎…聞いたこともないな」


 「俺も無いですねぇ、ふわぁ、眠たい」

 「店主はどこでそのリンゴの存在を知ったんだ大書庫か?」


 「違うよ。あれは確か七年前だった」そう言って店長が話しだした。


 王都では最高の料理人を決める大会が数年に一度開かれており、七年前、店長は大会用のレシピ作りに苦戦していた。

 そんなある日、店で食事をした客が、この料理を考えた人に会いたいと言い出したらしい。その報せを店員から受けて、店長は会いに行ったそうだ。


 その客は店長の料理に大層喜んで、お礼として、金の林檎をくれたのだという。


 店長はその怪しい林檎を持ち帰り、一口食べたそうだ。そこから奇跡が起こる。頭の中に新しいレシピがどんどん湧いてきたのだ。食材を持っただけで何を作ればいいかわかる。料理の正解が思い浮かんだ。


 大会は優勝。全審査員が店長に投票した。



 「で、またレシピを思いつくためにそのリンゴが欲しいと言うわけか」


 「いいや、湧き出たレシピは使わなかったんだ、どれも試すと美味しかったけど、僕のほどじゃ無い。それに料理は考えてる時が一番楽しいからね」


 「なるほど。それは失礼した」


 シンが少し邪推をしたが、店長は誇張でも見栄でもなく、事実として料理の天才だった。


 「なら何故リンゴが欲しいんだ」


 「味だよ。あれは今まで食べたどのリンゴより、いや、どの果物よりも美味しかった!あれを使って最高の一品が作りたい!」


 「そもそもどこにそのリンゴがあるのか把握してるのか」


 「確かな情報かわからない、だけど手がかりになりそうな土地を見つけたんだ。【カワズ盆地】って知ってる?」


 「…なるほどな」


 地名を聞いたシンが何かを理解した。それはこの街の北西、フニャードの近くの森から西だった。


 「王都の冒険者でも依頼を受けないわけだ。場所が悪すぎる」


 カワズ盆地は広大な森に囲まれており、その森には土鬼をはじめ危険な魔物が多く棲息している。そこに一番近いこの街でも、歩いて二日の距離になる。森の中ということを考慮するとさらにかかるだろう。


 「無理だな。それをくれた奴にまた貰え。俺も一つ欲しい」


 「それが出来たらもう貰いに行ってるよ。どこの誰だかわからないから苦労してるんだ。僕なんか種から育てようとして、色んな人に協力してもらったけど全く芽が出なかったんだ。もうお手上げだよ」



 林檎を渡してきた相手の素性はわからず、種は芽を出さない。だが店長は諦めきれず、足と金と人脈を使って手がかりを見つけた。それがカワズ盆地なのだと言う。



 「今すぐじゃなくていいんだ。報酬は出すから!頼むよぉ」


 「食すとアイデアが湧く果実…。何日か考えさせてくれ。その時に今日の代金も払う」


 「時間取らせちゃったからね。お代はいらないよ。いい答えを聞かせてね」


 店長の頼みを保留にして店を出ようとする。だがルーがついてこない。


 「おい帰るぞ、ルー」


 ルーは机に突っ伏して寝ていた。この二日のことで疲れていたのだろう。シンはルーを背負って帰ることにした。


 「また来る」

 「気をつけてねー」



ーーー翌朝



 「チュイチュイ!」


 「うわ!!……ここどこだ」


 ルーは知らない部屋で目を覚ます。傍には昨日のコウモリがいた。


 「シンさんのところか」


 どうやら屋敷で寝ていたようだ。ソファから起き上がり、コウモリに案内されて部屋を出ると、裏庭に連れて行かれた。


 「起きたか」

 「すいません店で寝ちゃって。シンさんが運んでくれたんですか」

 「ああ。お前見た目より重たいな」

 「ははは、荷車引いてると筋肉つくみたいですね」


 裏庭にいたシンは、ミドビルの石棺を開けようとしていた。


 「埋めないんですか?」

 「…埋める。間違いなく埋める。そのためにミドビルを出してやりたいんだ」

 「俺手伝いますよ」

 「じゃあ頼む」


 協力を申し出たルーが石棺の蓋を持ち上げる。中にはバラバラに散らばった白骨と、生前愛用していたであろう、剣と盾が入っていた。


 「白骨化してますね」

 「焼いて入れたからな」

 「何でそんなことを」


 「この世には死体を操る不届き者がいてな、そいつらは常に強い戦士の遺体を探している。まあ要はゾンビ化を防ぐために焼いたんだ」

  

 「そんな極悪人がいるんですね。でも骨はいいんですか?墓場には骸骨のゾンビもいたじゃないですか」


 「あれはスケルトンだ。ゾンビと比べても弱いし、骨は一度焼くと脆くなる。もしミドビルの骨がそうなっても、棺すら開けられなかっただろう」

 

 「へぇ。そうなんですね」


 ルーはその話を聞いて、(スケルトンくらいなら自分でも倒せそうだ)そんなことを考えていると、シンに声をかけられる。


 「悪いが、昨日俺が倒れてた部屋から大きな木箱を持って来てくれないか」


 「わかりました」


 言われた通りに部屋に行くと、見覚えのある木箱が置かれていた。それをシンに届ける。


 「ありがとう」

 「これって俺が配達した奴ですよね」

 「そうだ。重かっただろ、俺は昨日これを持ち上げようとして、目眩がして倒れたんだ」


 そんな虚弱なシンが箱を開けると、中には茶色い物体がみっちり入っていた。


 「土?」

 「粘土だ、俺は少し作業がある。お前は好きにしていろ。帰ってもいいぞ」


 そう言ってシンはルーに背を向けて、ミドビルの骨を何かの液体に浸し始めた。


 「帰りませんよ。昨日も話を聴くために来たんですから。教えてください、母のことを」



 ルーが本題に入る。


 「何が聞きたい」

 「えっと…母の名前はなんですか?」

 「名前だと?名前も教えて無いのかテールは…」

 「俺が産まれてすぐ死んだ。それ以外のことは何も聞いてません」


 「……」

 

 シンが黙ってしまった。背を向けているため、表情はわからないが何か考え事をしているようだ。しばらくの沈黙の後、言葉を発した。


 「………死んでいない」

 「え?」


 「お前の母親は、【ブルー】は今も生きている」


 ルーは衝撃で何も言えなくなった。死んだと思っ

ていた母は生きていて、名はブルーというらしい。



 「テールに頼まれていた。もしお前がいつか俺と会うことがあっても、何も話さないで欲しいとな」


 「何でそんな口止めを…じゃあ、今教えてくれたのはどうしてですか」

 「なんでだろうな…わからん」


 シンは、母親の名前すら知らないルーを、哀れに思ってテールとの約束を破ったのだ。だが別の狙いもあった。

 

 「母は今どこに⁉︎俺会いに行きます!」

 「…さあな」

 「そこまで言ってなんで、お願いです!」


 「ここまでが墓荒らしの報酬だ。続きが聞きたければまた手伝え」


 シンは自分の仕事を手伝わすために、母親の情報を少しだけ与えたのだ。


 「手伝うから先に教えてください!」

 「ダメだ手伝ってからだ」


 「この野郎!」


 怒ったルーが殴りかかった。


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