第29話:帰省
魔王城へ向かうルートは、偶然にも俺の故郷の近くを通っていた。
最後の決戦になるかもしれない。
俺は少し寄り道をして、両親に顔を見せることにした。
「ここがアスクの実家? のどかないいところだねー!」
モアがキョロキョロと辺りを見回す。
俺の故郷は、山間にある小さな農村だ。
人の良い村人たちが、畑仕事をしながらのんびりと暮らしている。
そんな平和な村に、ビキニアーマーという劇物が投下された。
「お、おい見ろよ……」
「なんだあの格好……」
「都会じゃああいうのが流行ってるのか?」
村人たちが手を止め、目を丸くしてモアたちを見ている。
刺激が強すぎる。
日常になりすぎて麻痺していたが、ここに来る前に服を着てもらうべきだったな。
後悔先に立たず。俺は頭を抱えながら、実家の扉を叩いた。
「ただいま。父さん、母さん」
「おや、アスクじゃないか!」
扉が開くと、少し白髪の増えた父と、エプロン姿の母が出てきた。
二人は俺の無事な姿を見て、目を細めた。
「よく帰ってきたな。元気そうで何よりだ」
「王都で冒険者として頑張ってるって、手紙は読んでたわよ」
久しぶりの家族の団らん。
俺はホッとして、肩の力を抜いた。
だが、父の視線は俺の後ろ、モアとマホに向けられていた。
「うわっ……そちらのお嬢さん方は?」
「……ああ、パーティーメンバーのモアとマホだ。優秀な仲間だよ」
「はじめまして! モアです!」
「……マホ。魔術師」
二人が挨拶する。
父と母は、二人の格好を上から下まで凝視し、それから顔を見合わせた。
微妙な沈黙が流れる。
そして、父がおずおずと口を開いた。
「その、アスクよ。……お前、あの……あれはどうなんだ、変態のほうは……」
ズバリ聞かれた。
いきなりのことで、俺の心臓が止まりかける。
「は!? な、何のことだよ父さん!」
「いや、村にも噂が届いててな……。変態騎士団とかいう、露出狂の集団が王都で暴れまわっていると」
田舎の情報網を舐めていた。
行商人や旅人を通じて、噂はここまで届いていたらしい。
「ち、違うよ! あれは誤解なんだ! 俺たちは真面目な冒険者で……」
「でも、そのお嬢さんたちの格好は……」
母が困惑したように言う。
確かに、説得力ゼロだ。
二人ともは聖女のビキニを着込んでいる。
どこからどう見ても、露出狂の集団である。
「これは……その、機能性を追求した結果というか……流行というか……」
俺がしどろもどろになっていると、モアがニコニコしながら口を挟んだ。
「お父さん、お母さん! 安心して! アスクはすごいんだよ!」
「ほほう、そうなのか?」
「うん! アスクはね、私たちがどんなに酷い怪我をしても治してくれるの! だから私たちは、安心して裸になれるんだよ!」
「裸に……」
父の目が泳いだ。
言葉のチョイスが致命的だ。
「……アスクの回復魔法があれば、衣服など不要。私たちは彼に全てを委ねている」
マホも淡々と追撃する。
「全てを委ねる」とか言うな。誤解が深まるだろ。
「そ、そうか……。アスク、お前……」
父が俺の肩に手を置いた。
その目は、何かを諦めたような、それでいて息子を見守るような、生温かい色をしていた。
「立派になったな」
「なってないよ!? 変な方向に解釈しないでくれ!」
「いいんだ。男なら、多少の性癖の歪みは……いや、変態と呼ばれるほどの道を見つけたのなら、父さんは何も言わん」
「違うって言ってるだろ!」
「母さんも応援してるわよ。……孫の顔が見られるなら、お相手が露出狂でも構わないわ」
「飛躍しすぎだろ!」
両親は完全に「息子はそっちの道で成功した」と納得してしまった。
弁解しようにも、目の前にいる二人のビキニ姿が動かぬ証拠になりすぎている。
「さあ、上がってくれ。採れたての野菜があるんだ」
「皆さん、歓迎しますよ」
「……お邪魔します」
俺は力なく項垂れた。
実家での団らんは、まるで針の筵のようだ。
モアとマホは田舎の野菜や果物に無邪気に喜んでいるが、俺は父からの「で、どっちが本命なんだ?」という小声の質問をかわすのに必死だった。
数時間後。
俺たちは村を出発した。
両親は村の入り口まで見送りに来てくれた。
「アスク、体に気をつけるんだぞ。……あと、捕まらないようにな」
「たまには帰ってくるのよ。……風邪引かないように気をつけてね」
最後まで誤解は解けなかったが、久しぶりに両親の顔を見れたので、来てよかったかな。
俺は涙目で手を振り、故郷を後にした。
「いいご両親だったねアスク!」
「……理解のある親」
二人は満足そうだ。
俺の社会的地位が、故郷でも完全に崩壊したことを除けば、平和な帰省だったと言えるかもしれない。
家族に別れを告げ、俺たちは再び魔王城への道を歩き出した。
失った名誉を取り戻すために。




