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23話 兄からの手紙

 星々が輝き、満月が夜空に浮ぶ夏の夜。

 眩い白亜の王城の外壁には神々の姿を彫った彫刻。

 本殿を囲むように建つ、いくつもある円柱形の塔は雲に届きそうなほどに高い。

 国王なのか王妃なのかは知らないが、誰かを祝うような演奏が昼間からずっと流れている。

 そんな敷地内にある一塔に『海の乙女』――リリアーヌはいた。

 天井の一面には神々が湖を憩いの場として利用している場面を画家に描かせた絵がある。そこからぶら下がる多灯式の吊下灯が室内を明るく照らす。

 床には鮮やかな赤い絨毯が敷かれ、その上には上質な木材で作られた調度品が置かれている。

 まるで姫君のような一室を与え在られたが、リリアーヌの心は常に悲しみに満ちていて、今日は昼間からふさぎ込んでいた。

 きっかけは王城勤めの侍女から、リリアーヌの家の執事が持ってきたと言われて受け取った、お気に入りの白いうさぎのぬいぐるみと兄からの手紙。


(お兄さま……。会いたいわ)


 大人三人が横になっても余裕のある広い寝台の上で、リリアーヌの瞳は寂しさで潤んでいた。

 白い肌をさらりとなでる絹の白い寝間着に着替えた後、一人にしてほしいと王城勤めの侍女を部屋から追い出した。

 リリアーヌはお気に入りの白うさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱く。

 騎士が安全性を確認するという名目で、執事が持ってきた手荷物は全て調べられた。

 白いうさぎのぬいぐるみもその一つ。

 中身に怪しい物や密通などが入っていないかを検分するため、背面を一直線に刃物で裂かれ、綿を全て取り出された。

 王城勤めの侍女が綿を詰め込んで縫いつけてくれた。

 今はぬいぐるみ用のドレスを着させているのでほとんど見えないが、リリアーヌの心は傷ついたまま。


『ひどい! これはお兄さまから誕生日に頂いたぬいぐるみなのよ! お兄さまはそんなことなさらないわ!』


 王城勤めの侍女から白いうさぎのぬいぐるみを渡された時、リリアーヌは涙目で見張り役の騎士を睨んだ。

 引き裂かれるようにアレクシスと無理矢理別れることとなったあの日以降、リリアーヌは部屋に閉じ込められた生活を強いられている。

 お兄さまに会いたいと言っても聞き入れてはくれない。

 だから、兄から来てくれる日をずっと待っていた。

 王城勤めの侍女から、「執事が手荷物を持って王宮に来ました」と聞いたときは期待が膨らみ、リリアーヌの胸が高鳴った。やっと唯一の家族、優しい兄に会えるかもしれないと。

 しかし、その兄は来ず、執事一人だったという。


(なにが書かれているのかしら?)


 兄が書いた手紙は、枕元の脇の丸卓に置いている。

 期待が勝ったときは開けようと封に手を伸ばすが、直前で不安になり置いてしまう。

 結局、丸卓に置いたままにしている。

 なのに、気になって仕方がなく、寝間着に着替えてから寝台に移動しても眠気はこない。


「お兄さま……」


 思い出したのは十四歳の誕生日を迎えて、肖像画を描いてもらったあの日。

 画家が退出した後に受け取った化粧箱。

 あの日が今では昔のことのように思える。

 胸が締めしけられて、涙が頬を伝ってこぼれた。

 絹の寝間着に一滴の染みができる。


(このままでは気になって寝られないわ。お兄さまのことだもの。ひどいことはきっと書いていないわ)


 リリアーヌは手の甲で涙をぬぐって意を決し、寝台からおりて封を手にとった。

 この手紙も検問の兵士によって一度開けられているので、ペーパーナイフは必要なかった。

 円卓の椅子に座って手紙を開く。

 手紙にはリリアーヌが生まれてから今日までの、兄から妹への想いが綴られていた。

 鼻をすすりながら読み進めていくと、なにかおかしいと違和感を抱いた。


「?」


(なんか、文行がおかしいわ……。お兄さま、取り乱して書いていたのかしら?)


 リリアーヌはとりあえず読み進む。

 終わりに近づくにつれ、兄の想いが強く伝わってきた。

 両親と同じくらい自分を愛し、大事にして育ててくれていたこと。

 嬉しいが、やはり違和感は喉に詰まった異物のように残っている。

 リリアーヌはまた、始めからまた読み返す。

 二回目はゆっくりと読んだ。

 文字自体は乱れていない。

 正しい文行で書かれている行もあれば、不自然にぶつりと切るように行を変えているところもある。

 その違いはなんだろうと、意識して読み進めると。


「あっ……!」


 変に文行を変えて書き出しているはじめの文字を拾っていくと、兄からの暗号のような言葉を導きだした。


『か、な、ら、ず、た、す、け、に、い、く』


「お兄さま……!」


 リリアーヌの目からまた涙がこぼれた。しかし、これは嬉し涙だ。

 リリアーヌは白いうさぎのぬいぐるみと同じように手紙を胸に抱く。


(お兄さま。信じています)


 リリアーヌは手紙を抱きしめたまま寝台を降りて、窓辺に歩みより夜空を眺めた。

 夜空を輝かせているのは夏の星座たち。

 その中でリリアーヌの目に留まったのは、寄り添うように輝く兄妹星として知られている『イフ』と『ネフ』の星座。


「お兄さま、おやすみなさい」


(お兄さまもこの星を眺めているといいな)


 その日の夜、リリアーヌは白うさぎのぬいぐるみと兄からの手紙を抱きしめて眠りについた。




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

今後もよろしくお願いします。


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