72話 神の島の噂
神の島が占領されたと聞いた俺とシロは、驚きのあまり言葉を失う。
シロの故郷であり、ポチの住む島であり、不死身の賢者ケイロンが守る、クロノス神の島だ。サムス男爵は結界で守られて入れない。と言ってた。結界を破壊する?人がどうやって神の御業を破るんだ。理解できない。
「シロ…聞いたか?」
『はい。主殿…』
「主、どうしたのじゃ?」
「〝神の島が占領された〟って話が聞こえたんだ」
「ふむ。あの島じゃな?たしかシロの故郷じゃったな」
以前にも少し説明はしているが、俺はこの状況を理解してもらうため、部屋で休んでいるアルカを除く、ハナコたちに神の島について詳しく話した。そしてクロノス神との関係も含めて。
「えー、ひっどーい。それじゃあポチを捨ててきたの?」
「いや違う。俺はシロと必ず迎えに行くと誓った。」
「でも魔国に占領されたんでしょ?やばくない?」
「アイツは強くないから逃げるのが上手なんだ。
それに不死身の賢者ケイロンもいるから大丈夫だとは思う…」
『ポチ殿は危機に敏感です。おそらく身を隠しやり過ごすでしょう』
──皆に島のことを説明していたとき
「魔国で手足を千切られても死なないケンタウロスが見物できるらしいぞ」
とその冒険者風の男が言った。
「おい!どういうことだ!!」
「なんだお前は!」
「ケンタウロスの話だ!どういうことだ!」
「だから何なんだお前は!」
俺はその男へ掴みかかりケンタウロスの話の聞こうとしたが、興奮しすぎて周囲から取り押さえられる。『主殿、落ち着いてください』とシロにまで止められた。
「すまない」と男へ伝え、神の島とケンタウロスの話を教えてほしいと金貨1枚を渡す。すると男は「お、おぅ」と言って機嫌を直し、饒舌に語りだした。
──オレが依頼でシガポルの街へ行った時だ。
あの街は魔国に併合されたんだが景気が凄くてな、ありとあらゆる物と金が集まっている感じだったな。なので色々な情報も飛び交ってるのさ。その情報の中で、魔国とシガポルなどの併合した国の連合艦隊で神の島を占領して、資源を採取しているって聞いたんだ。実際にギルドで作業員の募集もあったしな。
そこに死なないケンタウロスが居て、魔王が手足を千切って魔国に連れ帰ったって話さ。そのケンタウロスは不死身という触れ込みで見学ができるって噂だ。──
「ぐっ…ひどい…、アイツは偉そうだが悪いやつではない…」
『な、な、なんて…残酷な仕打ちを…』
「これはキッツいのう…」
「うわー、やばいじゃん。魔王マジでヤバいじゃん」
「「テセウス様……」」
その男へ他に魔国や魔王の情報は無いか聞いてみた。
「魔王はとにかくヤバいらしい。見た目は子供らしいんだが、陰で悪魔様って呼ばれるぐらいだ。首切り幼女ってヤツもイカれているって話だ。」
「…魔王ってのは魔族の王って意味じゃなく、悪魔の王だから魔王なのか」
「魔国ってのは、従順に従うなら基本的に寛大だそうだ。併合された国々はすごい速度で発展している。ただ、一部の国民や魔族などは拉致されたりと、明確なルールはないみたいだな。」
「よく分からないな。何がしたいんだ魔国は。」
「工業の発展もすごい。自走する鉄の箱や風が無いのに動く巨大な船。大きな鉄筒から飛び出す魔法の球など、噂では魔術師でもないのに操作ができるらしい」
(アルカを救出する時に戦車を見たな。他の国でも噂が出るほど所有してるのか)
「その魔国に襲撃をしかけ、工業特区を破壊して、魔王城の城門まで破壊した頭のおかしい連中がいるらしい。」
「そ、そ、そうか、その連中について何か噂はあるか?」
「なんか鉄棒を飛ばす男と大きなトカゲと白い男、そして姿の見えない魔物が襲撃したって聞いたな。今の魔国の最重要指名手配らしい。」
「ひっどーい!ラミはトカゲじゃないよ!!」
「?」
「い、いや、気にしないでくれ。話を続けてくれ」
「なんでもその集団は〝鉄棒トカゲ軍団〟って呼ばれているみたいだな」
「だ、か、ら! ラミはトカゲじゃないって!!」
「???」
「この子はどうしたんだ?」
「こいつは馬鹿だから気にしないでくれ。それより変な呼び名だな」
「そうか?魔国の冒険者ギルドが命名したって聞いたんだがな」
「冒険者ギルドでも、その〝鉄棒トカゲ軍団〟に関する依頼が出ているのか?」
「ああ、魔国側のギルドでは階級問わずで高額報酬みたいだな」
「こっち側のギルドでも出ているのか?」
「お前たちは冒険者じゃないのか?こっち側は魔国と緊迫している状態だから、魔国に関連する依頼は掲示されていないぞ」
「俺たちは教都から逃げてきたんだ。あそこも魔国にやられたからな」
「ああ、知っている。ギルドでもその話で持ち切りだ」
冒険者風の男から多くの情報を聞き出せた。金貨10枚でも十分な価値があった。俺は男に礼を言うと「ああ、またな」と言って仲間と食堂を出て行った。
静まり返った食堂で俺たちは再びテーブルへ着席する。
周囲に聞こえない程度の声で今後の事を話す。
「俺は不死身の賢者ケンタウロス、つまりケイロンを救出に向かう。シロ、ラミ、悪いがまた一緒に来てくれ。」
『主殿、もちろんです。』
「来るなって言ってもラミも行く。トカゲじゃないってわからせてやる」
「クロそこに居るか?」
『居るゾ』
「お前たちも来てくれ」
『ああ、承知シタ』
「ハナコ、リナ、レナはアルカを守ってほしい」
「主よ、ワシも行くぞ。アルカはチャイナルに滞在している限りは安全じゃろうて。リナとレナよ、アルカを頼んだぞよ」
「……わかりました」
次の行動が決まった。
アルカはチャイナルの街で待機してもらう。
それを伝えるため、部屋に向かった。アルカは「うん。わかった。」とだけ言い再びベッドで横になった。彼女の状態も深刻だが、安全は確保できている。ケイロンは深刻な事態に陥っているため、今は彼を優先した。
魔国へ潜入するため、野営に備えた物資を補給する。一連の旅で消費した分を大量に購入した。この巨大な街は商店も多く物資も豊富で物価も安かった。
この国の人は何でも食べるらしい。〝四本足で食べないのは机だけ〟と揶揄されるほどに。大きな商店に物資を調達していた時、興味本位でヴェノムスパイダーの足1本と頭1個を出して買取は可能か聞いたら、鼻をつまみながら満面の笑みで「売ってくれ!」と言われた。
売却したところ金貨60枚で買い取ってくれた。物資の購入費の元が取れた。
買取の内訳を聞くと、足1本が金貨10枚、頭1個が金貨50枚だった。
あまりにも高額になのでレア素材なのか聞いたら、魔力を含有しているヴェノムスパイダーの素材は、超レアとのこと。なんでも薬の素材になるんだとか。
追加で売却して金貨300枚を受け取った。
アルカたちに当座の生活費としてその金貨300枚をレナに渡した。
彼女たちに見送られながら、俺たちは魔国へと出立した。




