63話 アルカの変化
ドツイン帝国からコリアラ王国へ入り、未開地の拠点へ向かう。
魔国兵とコリアラ王国兵を避けながら…
正直、厳しいと思う。だが帝国にさえ入国できれば、少し休憩はできるだろう。
帝国は技術力が高く、魔国にも十分に対抗しうる強国だ。
どんな結果であれ、アルカを取り戻した。これで十分じゃないか。
俺がどんな手段を使ってでも彼女を治して見せる。
今はアルカと相まみえたことを喜ぼう。
シロが御者をして少し速めの速度で馬車を走らせる。
俺は馬車の中で皆に感謝を伝える。
「シロ、ラミ、クロ、ハナコ。本当にありがとう。」
『主殿、私は主殿と共にございます。生も死も。どこまでもお供いたします。』
「ラミの命をテセウスにあげちゃったからねー。ま、気にしないで!」
『気にするナ 主のメスのためダ』
『かっかっかっ、殊勝な心がけじゃの。今は暫し再開を堪能するがよい。』
「シロ、ラミ、ありがとうね。いつか、この恩は必ず返すわ。」
「そしてハナコは初めましてだね。助力をありがとう。
テセウスとの事、後でしっかり話を聞かせてね…。」
『う…うむ』
「クロも初めまして。私のためにありがとうね。」
『キニスルナ アルジノ タメダ』
「テセウス。捕まっちゃってごめんね。そして助けてくれてありがとう。」
「アルカ、足の事は俺に全部任せておけ。必ず治してやる。」
「うん…迷惑かけてごめんね…」
魔国の街道を馬車で走る。しばらくすると森が現れた。コクバとハクバも馬車を引き続けて疲労している。ここで程よい広さの場所を探し野営をすることにした。
ハナコに上空から広域探査をお願いして、追手の有無を確認する。今のところは大丈夫みたいだ。早く帝国へ移動する必要があるが、今はまだ無理をする時ではない。
「この辺りで野営をする。広域探査情報からも敵は表示されていない。」
「ピンガーは絶対に打つな。今は超広域探査は必要ない。生き残った魔国兵は戦闘時にピンガーを聞いている。俺達とピンガー音が結びついている可能性がある。俺達の方角すら知られるのは、今はマズい。」
「テセウス? ”ぴんがぁ~”ってなに?」
「そうだな…話が長くなるから食事をしながら説明をする。」
アルカへ未開地の新拠点に関すること、そこから出発して未開地でダンジョンに落ちたこと、SIS端末のこと、ハナコとクロとの出会い、魔国から重要指名手配人とされたこと、そして冒険者として名前が変わりA級になったこと、ブランズ王国の関所でカミラに会って借用書を渡したことなど、離れた時を取り戻すかのようにすべてを伝えた。
「これからテセウスは、冒険者としてはゼリウスを名乗るんだ…」
「そうだ。各冒険者ギルドや魔国の属国などに手配者が回ってるからな。手配書が撤回されるまでの限定だけどな。撤回されれば名は戻る。相手は国家だが絶対に後悔させてやる。」
「その…重要指名手配人の原因って…アタシなんだ」
「どういうことだ?」
「拉致されて目が覚めたら工業特区の収容所に居たの。テセウスが救助してくれたあの施設なんだけど、協力を拒否して暴れていたら、魔王が出てきたわ。」
「そしてテセウスの所へ帰してって叫んだの。すると魔王が魔国関係の全土にテセウスの処刑命令を出す。って言ってた。たぶん手配書のことだとおもう。」
「魔王の見た目は子供だったわ。でも異常に強かった。力じゃ全く敵わなかった。そして力で組み伏せられて…足を…切ら…たの…」
「もういいんだ。アルカ。俺が一生側にいる。安心しろ。」
「うん…ごめんね…役立たずになっちゃって…ごめんね…」
「もう謝るな。お前が悪いわけじゃない。すべて魔王が悪い」
「必ず復讐してやる。だから全て俺に任せとけ!」
アルカの精神状態が崩れてきたので、ひとまず話を終え、食事を進めることにした。他の皆はじっとしており、一言も喋らなかった。
俺は話題を変えるため、SISの固有機能による戦力の増強と、この世界では再現できない高度な技術で作られていることを説明した。そしてSISを使えばアルカも後方戦力として重要な役割を持つことを伝えた。
「じゃあ、そのSISって道具で”ぴんがぁ~”っていうのを出すのね。」
「ああそうだ。今からアルカにもアダマンタイトで情報端末を作る。」
「え!アダマンタイトを使うの!勿体なくない?」
「いや、使用する魔導物質は高位なものほど性能が上がるんだ。」
「うーん、情報端末にアダマンタイトの小インゴットを1個使うんだよね?やっぱり勿体ないなー。ナイフとか良いの作れるよ?」
「そうなんだが、金属武器は切ったり刺したりしかできない。だがこの情報端末は驚くほどの機能を持っているから装着してくれ。それに端末解除をするとオリハルコンに戻るから消費するわけじゃないんだ。」
「うん。テセウスが言うならそうする。」
俺は、[端末登録]→[新規登録]を選択して
オリハルコンインゴットをSISに接触させた。
【高位魔導物質を上位端末へ変換登録しました。SISとリンク開始します。】
【ポーン…。上位端末の利用者を選択して下さい。】
オリハルコンインゴットが白い腕輪端末に変換された。
そして、その使用者を利用者リストからアルカを選択した。
「アルカ、これを装着してくれ。色々な機能が使えるはずだ。」
「うん」
アルカが腕に装着するとサイズが自動で調整された。
「きゃっ!」
おそらくアルカの眼前にパネルが表示されたのだろう。
「て、テセウス?。急に板が現れたんだけど…」
「これがSISの情報パネルなんだ。マップが表示されているだろ?」
「うん」
………
……
…
アルカに機能を色々と説明して、SIS使った念話の練習などもした。
そしてピンガーの概念とその機能も説明する。
「アタシ”ぴんがぁぁ”って語呂が好きかも。なんか可愛い響きだし。」
「いや…ちょっと違うぞ、ピンガーだ」
「ぴぃんがぁぁ?」
「お前、ワザと言ってるだろ…」
「えへ」
食事も終わり就寝することにした。シロが「アルカ殿とゆっくりお休みください」と言ってラミと別のテントへ入る。周囲の警戒はクロとシャドーウルフ達が幻影化して対応するそうだ。ハナコは獣化してどこかへ行った。
俺はアルカを抱き…上げ…て、テント内のベッドへ寝かせる。
「一人で動けなくてごめんね。重いでしょ。」
「大丈夫だ。あれから膂力が大幅に向上している。
ダンジョンに落ちたとき、黒蜘蛛の巣で鍛えたからな。
アルカを抱き上げるぐらい問題はない。」
「テセウス…アタシのステータスを見てくれない?
たぶん足のせいで低下していると思うの」
「アルカ…そんなものは見なくていい。もう気にしなくていいんだ。」
俺はお前の一糸まとわぬ姿の方が見たい。」
「ごめんなさい。今日は少し気分が優れないの…」
「そうか、すまない。色々とあったしな。ゆっくりと休もうか」
夜中に嗚咽を漏らすアルカに気付かない振りをして
俺はテントの天井を見つめ続けた。




