59話 指名手配
俺達は街道を歩いて進んだ。関所からは街道が整備され迷うことは無かった。途中の村で荷馬車を譲ってもらう交渉をした。村で一番大きな家に向かい、ドアをノックする。
「はい。どなたでしょう?」
白髪の男性がドアから出てきたので冒険者証を見せて身分を証明する。
「俺はB級冒険者のテセウス。この村に荷馬車はあるか?急ぎの旅なので譲って欲しい。」
「私は数台所有しておりますが、どれも使用しておりますので譲るとなると…。」
「金貨200枚でどうだ?」
白髪の男性がピクッと反応した。
「いや…、でも我々も日々の生活で使用し…」
「金貨300枚だ。これ以上は持ち合わせが無…」
「売ったぁぁ!!」
白髪の男性が勢いよく反応した。ちょっとビックリした…。男性と厩舎に向かい馬を2頭選ぶ。どの馬が良いのか分からなかったのでSISで鑑定をしてみた。
荷馬D★☆☆☆☆
荷馬D★☆☆☆☆
荷馬D★☆☆☆☆
黒馬S★★★★★
白馬A★★★★☆
荷馬D★☆☆☆☆
SとAランクの馬が居たのだが、2頭とも怪我をして死にそうになっていた。
「この黒と白の馬は、なぜ死にかけているんだ?」
「はい、これは体は大きいですが、気性が荒く荷馬に適さないので躾をしている所なのです。」
俺は黒馬と白馬に近づき、小さな声で話し掛けた。
「おい、お前達、一緒に来るか?」
すると馬は俺を見つめ「行く」と返事をした気がした。
「黒と白のこいつらを連れて行く。構わないか?」
「ええ、そりゃ…有難いですが、後で交換しろと言わないで下さいよ。」
「ああ、俺がちゃんと面倒を見るので大丈夫だ。」
そして荷馬車を見る。1台だけ幌付きで大きな馬車があった。
「この幌付きが欲しい。」
「これは最も新しく、そして日頃使っているのでちょっと…。」
「金貨100枚を上乗せす…」
「売ったぁぁぁぁぁ!!」
全部で金貨400枚(四千万G)を荷馬車に支払う事となった。大きな出費だが時間と効率には代えられない。良い買い物をした。俺は黒馬と白馬に近づき、魔道具水筒からエリクサーを飲ませた。すると彼らは立ち上がり俺の顔に頬を摺り寄せてきた。
「おお、可愛いヤツめ。これから宜しくな。」
「ブルルン」
白髪の男性に金貨を支払い、馬を荷馬車につなぐ。そして白髪の男性に挨拶をして街道を進んだ。御者は俺とシロで行った。クラン時代に練習をして良かった。まだ慣れてはいないのだが、この馬達は賢く、そして意を汲んで進んでくれた。
聖都に着いたら、まず、ラミとハナコの冒険者登録を急いで行う必要がある。そして保存食などを大量に購入して先を急ぐ。聖都では1泊する予定としているが、他の街では宿泊せずに通過する予定だ。
旅は順調に進んだ。街道に魔物が出現する事は少なかった。恐らく治安維持として聖騎士団が日頃から魔物討伐を行っているのだろうか。人々の暮らしも安定しているようだった。時折すれ違う人々と挨拶をする。誰もが健やかで健全に暮らしているのだろう。
この国に貴族制度は無い。代わりに教会の聖職者には職位があり、その教区単位で領地を治めているそうだ。基本的に民に身分差は無く平等だと聞く。アルカを救出したら、この地にも拠点を築くのも良いなと考えた。
徒歩から馬車へと移動手段を変更した俺達は、予想以上の早さで聖都に到着した。ラミとハナコはコリアラ王国のハグル出身で、俺達冒険者の補佐として旅に同行している事にした。ウルフ達は幻影化して馬車に同行している。
壁門に到着したのだが、逃げ出すように出てゆく人が多く目に付いた。俺達は荷馬車で列に並び、入場の順番が回ってきた。
「よし、止まれ。入場審査を行う。身分証の提示をしてくれ。」
俺とシロの冒険者証を提示する。
「ああ、俺とコイツは冒険者だ。未開地での素材採取が終わったので、ギルドへの販売と食料の補給に立ち寄った。荷台の女性二人は冒険者補佐なので身分証は無い。」
衛兵が荷台を確認する。ラミとハナコがにこりと笑顔で衛兵に応えた。
「採取した素材などの荷物が見当たらないが、どうしたんだ?」
「ああ、魔道具袋に入れている。」
俺はそう言って。大量の風魔石や黒蜘蛛の足を取り出した。
「うぎゃぁっ くせぇぇ!」
衛兵が黒蜘蛛の臭いで叫び、飛び避けた。
「もういい。それを収めてくれ。この水晶に触れて犯罪履歴の確認をする。」
俺はサムス男爵の一件が頭によぎる。だが、今更逃げる事も出来ない。覚悟を決めて水晶に触れた。
「よし、次はアンタだ。」
水晶は何も反応しなかった。俺は安堵して、荷台の二人にも触れるように指示をした。そして銀貨4枚を支払い、入場許可証を受け取って聖都に入った。
すると衛兵が、去り際に「魔国と戦争になる。早く立ち去る方がいい。」と教えてくれた。
先ほどから街を出る人々は、魔国との戦争に巻き込まれないように逃げ出す人々だった。
聖都は大きく、そしてルネサンス様式の建築物が多かった。観光として訪れれば有意義な時間が過ごせたのだろう。
都の冒険者ギルドを探した。中央の噴水近くに盾と剣の徽章を掲げた大きな建物があった。ハグルの街では見なかった徽章だった。そして、それが冒険者ギルドだった。地方の街とは規模が違った。総石作りで4階建ての建物はギルド本部なのかと思わせる威厳を感じた。
俺達4人は荷馬車を停め、ギルドへ入る。ホールは広く、そして受付カウンターは何席もある。だが、冒険者の姿が非常に少なく、受付も1人しか居なかった。
これは魔国との戦争を懸念して、冒険者が他国へ移動したのだろうと察した。
そして、唯一の受付へ向かう。
「ちょっといいか?」
「はい。依頼ですか?」
「いや、この女性二人を冒険者として手続きをしたいんだ。」
「はい。では、この受付用紙へ必要事項をご記入下さい。」
俺は二人に読み書きは出来るかを聞いたが、二人とも問題ないと返答した。
そして出身地はコリアラのハグルとして、年齢は16歳と20際にさせた。特技は無しにした。
「はい。では、この水晶に触れて魔力を登録して下さい。」
二人が水晶に触れて、受付員は冒険者証の作成のために離席した。
『主、ワシは1000歳を越しておるのじゃが、いいのかのう?』
「あ、ああ…。そんな年齢を言っても仕方無いだろ?それに今何歳か覚えているのか?」
『いや。分からん。もしかすると2000歳を超しておるやもしれん。』
「そ…そうか。まあ気にするな。」
「ラミはどうして16歳なの?」
「ああ、それぐらいのお嬢ちゃんに見えるからな。」
「えぇ~、ラミは……。何歳だろ?知らないや。」
「まあ、二人とも、今日から16歳と20歳だ。そして今日が誕生日だ。」
「本当に!ラミ嬉しい!お誕生日が出来たんだね。」
『ワシも嬉しいよ。誕生日なんぞ覚えておらんのでな。』
そんな会話をしていると、受付員が冒険者証を持ってきた。
「こちらが冒険者証になります。」
銅板と思われるカードと小冊子を受け取った。
「冒険者階級や特典、注意事項などは、その小冊子をご確認下さい。登録手数料として一人銀貨1枚となります。」
銀貨を2枚、職員へ手渡した。
「冒険者ギルドへようこそ!貴方様のご活躍を期待しております。」
またまた、マニュアル的な対応と加入挨拶を受けて俺達は冒険者となった。
そして冒険者証を受け取ったラミが「テセウス、次は食材を沢山買おうね」と言った。
「え、テセウス様なのでしょうか?」
受付員が不穏な雰囲気で訪ねてきた。
「ん?ああ、俺がテセウスだけど…。」
「少しお待ち頂いて宜しいでしょうか?」
「あぁ…。」
受付員が離席して、誰かを呼びに行った。そして上司と思われる小綺麗な男性を連れて戻ってきた。
「君がテセウス君かね。ちょっと別室まで来て欲しいんだが。」
「何だ?何の用だ?」
「とても大事な話がある。この場では話せない。仲間の同席も認めよう。」
小綺麗な男性は深刻な表情をして伝えてきた。俺達は4人全員で別室に向かうことにした。俺達は会議室に入室した。俺は警戒して【周囲探査】をしたが、取り囲む兵士などは居なかった。
「時間を取らせて申し訳ない。だが、緊急事態だと思ってくれたまえ。」
「え?何が?」
俺はサムス男爵の一件がギルドに流れ、討伐依頼が出されたと思った。
「落ち着いて聞いてくれ。君は〝魔国連合〟から〝重要指名手配人〟として、捜索されている。」
「は?」
俺は何を言っているのか分からなかった。魔国との接点はまだない。これから向かってアルカを救出する予定だが、まだ何もしていない。
「ブランズ王国とポランド共和国の冒険者ギルドから緊急保護連絡が極秘裏に各支部へ伝達された。この聖都も魔国に制圧されると手配書が回り、君は捕縛されるだろう。いや、手配書の内容は生死を問わずとなっている。君の首と引き換えに報奨金が出されているんだ。」
詳しく聞いても意味が分からなかった。なぜ俺が魔国に生死を問わず手配されている? なぜ首に懸賞金が掛けられている?
「な、何を言ってるのか分からない。どう言う事なんだ?ブランズもポランドも魔国も俺は入国した事が無いんだが。」
「ああ、恐らくそうだろうな。通常の手配内容には罪状が記載されている。君の手配書には罪状はおろか、容姿などの特徴すら記載が無い。名前だけで魔国連合に重要指名手配されているんだ。この内容が両国の冒険者ギルドにも回され、S級の討伐として依頼されているんだ。もちろん、ギルドは詳細を訪ねたのだが、魔国連合の担当者も詳細は不明と言い、テセウスと言う名前の者の首を持って来いとだけ言ったんだ。」
「は?なにそれ?」
「それでブランズのギルド支部が調査をしたのだが、コリアラ王国に滞在するB級冒険者で、クラン:ニホンを設立しているテセウスと言う者が存在する事を確認したんだ。我々は魔国の侵略行為に反対を表明している。恐らく今回の指名手配も何か裏があるとして、ギルドは冒険者保護に動いているんだ。」
「そ、そうなのか。確かに俺は、クラン:ニホンを設立しているテセウスだ。しかし、全く身に覚えが無いんだが…」
「そうだろうな。それでギルドは君がどこかの支部に尋ねた場合、この情報提供とギルドカードを回収して改名をするように指示が出ている。」
「あ、あぁ…。そうか、じゃあ、頼む…。」
俺は冒険者証を男性に渡して、ギルドカードの変更をお願いした。
「そして、今回の魔国の行いに、ギルドは君への全面的な協力をするようになっている。その代わり、君の偽名を暗号として使うためにギルドで決めさせてもらうが良いかね?」
「ああ、任せる。それで、偽名は何になるんだ?」
「君の名「テセウス」とカトリク教の主神「ゼウス」を合わせたんだ。」
「その名は〝ゼリウス〟とした。これでいいかね?」
「ああ、良い名だ。宜しく頼む。」
男性は冒険者証も持って会議室を出た。俺は驚きの出来事に皆を見渡す。
「なにこれ?どういう事だと思う?」
『主殿。魔国との接点はアルカ殿のみ。二通りの事が考えられます。』
「なんだ?」
『まず、一つ目はアルカ殿が拉致されたのに抵抗してサザ教団と魔国兵士を殺害した件です。』
「ああ、そうか…。そうだったな…。」
『そして、もう一つが…、言いにくいのですが…』
「推測だろ?聞くだけ聞くぞ。」
『では、アルカ殿が拉致先の工業特区への協力を拒否し、テセウス様との関係を調査されて交渉材料として手配されている可能性がございます。』
「あぁ…。それも有り得るな。ハグルの街に密偵など放てば、すぐに調べがつくからな。」
『その場合。アルカ殿が無事だと良いのですが…。』
「どう言う事だ?」
『アルカ殿は高名な鍛冶師です。恐らく狙われて拉致されたと思います。それで協力を拒むと拷問などが懸念されます。』
「………そうだな…」
『ええ。急ぎましょう。あまり猶予が無いかもしれません。』
ギルド職員の男性が戻ってきた。冒険者証はA級:ゼリウスと記載されていた。
「あれ、ランクがA級になってるぞ?」
「ああ、B級とA級では特権と信用度が違うのだよ。支援の一つとしてランクアップも含まれている。」
「そうか。それは有難い。この冒険者証は、いつまで使っていいんだ?」
「君の手配が取り下げられるまでだ。その後は勿論、元の名前に戻すし、ランクはA級のままとする。」
「感謝する。俺もギルドの為に尽くす事を誓おう。」
「ああ、この先の道中に気を付けてくれたまえ。それとギルドにはテセウス名の討伐依頼は保留としている。その点は安心したまえ。」
俺達は会議室を出て、ギルドホールへと出た。人は殆どおらず閑散としている。
本来は冒険者で溢れ返り、賑やかなのだろう。
そして、食料調達のために荷馬車に乗り街を回る。ウルフ達は、ギルドには入らず外で待機していた。今は並走している。商店も大半が閉められている。街を歩く人も少ない。聖騎士団と思わしき集団が慌ただしく動き回っているのを見かけた。戦争が近いのだろう。
俺達は、価格を問わず食料を買い占めた。食料価格はハグルの街の10倍になっている。街の人も逃げ出す訳だ。物流が止まり、著しく物価が上昇している。一般の民では生活不可能なほどに。
次に道具屋と鍛冶屋を回った。道具屋は開店休業状態だった。一切の商品が無く、聖騎士団に全て買い占められたそうだ。鍛冶屋へは素材を探しに行った。ミスリスや鉄、銅などの素材は全く無かった。しかし、オリハルコンの小インゴットなら数個有るとの事だった。仕入れたが転売するには高額なのと、加工をするには扱える者が居ないとの事で、仕入れ値以下で全て譲ってくれた。鍛冶屋もこれを売ると聖都を出るらしい。そのため売り急いでいた。
オリハルコンの小インゴット7個で金貨700枚だった。高いのか安いのか分からないが、アルカが作った、このオリハルコン剣の価格からするとg単位は半値以下と思われる。その後も食材や貴重素材を探したが、開店している店は見当たらなかった。
そのため俺達は聖都を出発することにした。戦争が近い事と手配を警戒して宿に泊まることは諦めた。野営ならば魔国の襲撃でも対抗できる。その方が安全だった。
ブランズ王国のティファルと言う街に向けて出発する。壁門からブランズへと続く街道は、聖騎士団と歩兵が行き交い俺達の荷馬車は何度となく通行を制限された。そして軍の通行量が減ったと思った時、街道側方の草原に大規模な軍隊が展開していた。
「な、なんだこの数は!本当に全面戦争が勃発するんだな。」
広く見渡しの良い草原には幾万もの兵士と騎兵が整列をし、陣形を整えていた。
「こんなに軍隊の数が居るなら、魔国とは言え勝てないだろ。」
『総力戦とも思える兵数ですね。見渡す限り兵士で埋められております。』
「おっと、巻き込まれたらダメだから急いで先を進むか。」
『はい』
俺は馬達に名前を付けていた。〝コクバ〟と〝ハクバ〟そのままなのだが、彼らは気に入ってくれた。
「コクバ、ハクバ、悪いが付近は危険なので急いでくれ。」
「「ヒヒーン」」
馬達が「任せろ」と言わんばかりの返事をして、荷馬車は街道を急ぎ進むのであった。




