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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
42/60

41 氷山の帯 V

「おぉ………」


「綺麗…………」


空を翔ける流星群を眺め、感嘆の声を漏らすライトとサクラ。


街行く人々も足を止め、夜空の絶景に浸っていた。


「そうだ!!ライト君、お願い事しないと!!」


思わぬサプライズ(?)に慌てふためいているサクラが、手をパタパタ振りながらライトに言った。


「ああ、そうだな。せっかくだし、何かお願いするか」


別にこういう類のモノを馬鹿正直に信じているわけではないが、流れ星を見たらお願い事をするという、現実世界(リアル)の慣わしに、住む世界が変わったからといって逆らいたいと思うわけでもないので、ライトもサクラと同じように、両手を合わせて目を瞑った。


だが、目を瞑ったはいいが、何をお願いするかは決めていなかった。周りの人々の反応を見るに、流星群が見られる事は予め予告していたようだが、ライト達はその情報を掴んでいなかった。よってこの流星群は、ライトにとってサプライズなのである。


ライトは、流星群が通り過ぎるまでの数秒間で、お願い事を必死に考えていた。


そして思いついた、咄嗟に思いついたにしては良いお願い事が叶うことを、ライトは流星群に手を合わせて祈った。


やがて流星群はすべて通り過ぎ、空は数秒前までの、星々が輝く澄んだ夜空に戻る。


武具屋の前で御祈りしていたライトとサクラは、街を人々が歩く足音を聴いて、目を開けた。


早速、ニッコリしたスマイルを披露するサクラは、その可愛らしい表情に相応しい、素直な感想を口にする。


「綺麗だったねー!」


「そうだな。俺は流れ星見るの初めてだったから、すごく楽しかった」


「へぇー、初めてなんだ。私は1回あるよ、現実世界(リアル)で」


「そうなんだ。俺もどうせなら現実世界(リアル)で初体験したかったかな」


「こっちのも負けず劣らずだったよ?」


「確かに、こっちのも綺麗だったけどな」


「それより、ライト君はなんてお願いしたの?」


流れ星綺麗、という話から、突然なんてお願いした?という話に切り替えられたライトは、話の展開の速さに少しばかり驚いた。


「サクラが教えてくれたら、俺も教える」


「えーッ、なにそれ〜なんかズルい」


「ズルいってなんだ…」


サクラは、ライトに条件を付けられたのが気に入らなかったのか、しばらく無言となっていた。だが、また笑顔を浮かべて、自分のお願い事の内容を話した。


「【いつまでも、皆と一緒にいられますように】だよ」


ライトは、サクラの本当に素直なお願い事を聞き、自分のお願い事の内容を話すのが、なんとなく嫌になった。なんか、自分がカッコつけてるような感じがしたのだ。


「はい、ライト君の番」


そんなライトの思考はお構いなしに、サクラが「話せ話せ」と促してくる。


こんな場面で急かしてくるサクラは、実は相手の心を読める力があって、今も自分の心情を読まれたから、悪戯半分で急かしたのだ、というライトの思考は、ライトの自意識過剰ということにしておこう。


「…【皆を守れますように】って願った……馬鹿らしいけどな、十代後半にもなって」


ライトは、自分の願い事が、戦隊ヒーローに憧れる幼稚園児が七夕で短冊に書きそうなお願い事に、自分でそう願っておきながら、ほんわかと赤面する。


「馬鹿らしい…かな?いいと思うけど」


サクラが女神の如き微笑みでライトに言う。その顔に、ウソや軽蔑は含まれていない事など、ライトはすぐに解る。


唯一、心から信頼できる相棒(パートナー)だから………。


「そう言ってもらえると、助かるよ」


「そっか」


ライトとサクラの願い事トークは、ここで途切れてしまう。そして流れる沈黙。


何か話題をと考えるライトだったが、なかなか良い話題が思いつかない。武具屋の工房から聞こえる鉄を打つ音と、道行く人の雪を踏む音だけが、2人の鼓膜を震わせていた。


その沈黙を破ってくれたのは、氷色の刀を持って工房から出てきた武具屋のおじさんだった。


「お客さん、出来上がったよ」


「あ、ああ、ありがとう」


ライトは強化を依頼していた刀を全体的に見回し、鞘から抜いて軽く振ってみる。


氷色の太刀【氷刀(ひょうとう)(うたげ)】改め、【氷刀・祭囃子(まつりばやし)】は、攻撃力が上がるのはもちろん、斬れ味も数段上がっている。その太刀を手にしたライトは、満足げな表情を浮かべた。


「【祭囃子】か…明日から活躍してもらうぜ…!!」


「じゃあ、明日はライト君が1人前衛で闘ってね、他全員はサポートするから」


「OK、任せろ!」


もちろん、サクラが冗談で言っているのは解っていたし、ここで真面目に「嫌だ」とかって言ってもつまらないので、その冗談に乗ったライト。


「え、無理でしょ」


即座にサクラから頂いた台詞(せりふ)に、ライトは「はめられた」と苦笑する。要はどちらを答えようが、ライトは必ずからかわれていた運命だったということだ。苦笑いしか出てこなかった。


「ライト君」


サクラが、真剣な眼差しでライトを見つめる。


ライトの着る黄色のロングコートが、サクラのピンク色のミニスカートが、ヒラヒラと風に揺れる(見えてはいない)。


「明日、頑張ろうね!!!」


サクラが作り笑いではない、本心からの笑顔で、ライトに明るく言い放った。


ライトには、その笑顔の下には隠れた覚悟あると、すぐに解る。


ライトは思い出す。


あの日、闘技場で散った仲間との約束を。


その約束を、そして願い事を果たすために、ライトは明日の午後、太刀の(つか)を握る手を強く握りしめ、サクラに返答する。


「ああ、勝ちに行こう!!!」



翌日、午後1時。エルトラム中心街・総督府3階・クエストカウンター。


いつも通りクエスト契約が行われている、総督府3階のクエストカウンターに、一際目立つ集団が現れた。


先頭を歩く2人は、黄色のロングコートに氷色の太刀を背負った少年・ライトと、ピンク色のセミロングコートを着た、ライフルを左手に持つ少女・サクラ。


舞うような華麗な戦闘スタイル故に、2人に与えられた二つ名は、『舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』。


その後ろを歩く、黒ずくめの片手剣使いの少年・レオと、弓使いの少女・ユヅル。


瞬き禁止の戦いを見せる兄妹に付いた二つ名は、『音速の破壊者(ソニック・ブレイカー)』。


最後尾に、蒼い髪の片手剣使いの少女・シーフと、赤い髪の太刀使いの少年・ウェルゴが続く。


見た目の色といい、放つオーラといい、出会(でくわ)した者の視線は自然と、その6人に集まっていた。


6人は、周囲のハンター達の視線を浴びながら、若い娘が座るカウンターへと向かった。


「こんにちは、皆さん」


接客の定型文を紡いだカウンターの看板娘に、先頭を歩いていた『舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』が話し掛け、参加人数6人のクエストを受注する。


作業が完了すると、6人はクエスト出発口へと足を進めていく。


「準備はいいか?」


ライトの問いに、皆は同時に頭を縦に振った。


「OKだよ、ライト君」


「さ、行こうか」


「いつでもいいわよ?」


「全力を尽くします!!」


「仲間の仇…取らせてもらう」


いかにも屈強そうなメンバーが揃ったパーティーは、淡い光に包まれて、虚空へと消えていった。


彼らが挑むクエスト。それは氷山に巣食う巨大な蛇型のドラゴンモンスター『ディオルガ』の討伐クエストだ。


かつてこのクエストをクリアーしたハンターは多かれど、離脱(リタイア)、もしくは、絶対に避けたいパターンに見舞われたハンターもいるのは事実。


エルトラム最終難関クエスト。


そのクエストの名は、『氷山の帯』


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