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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
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40 氷山の帯 IV

エルトラム裏町のとあるアパートメントの一室、その部屋には、2人の男女が円型テーブルを挟んで向かい合い、正座していた。


「明日で終わっちゃうのか…」


ユヅルが洩らした一言に、レオは何か誤解したようで、


「な…なにやる前からそんな事言ってるんだい?」


と、訊いてくる。


ユヅルは、なぜそんな事を言われたのか、最初は解らなかったが、自分の発言を思い出し、誤解を招きかねない言動だったと気付く。


「ああ…違うの、明日でこの街踏破しちゃったら、ライトやサクラとの同盟は終わりなんだな〜って」


「あ、あぁ…そんな事か…」


「そうよ?お兄ちゃん考えすぎ」


「すまなかったよ…。まぁ、確かに、明日で終わりになるのかもしれないね…」


「うん…シーフ達はどうか解らないけど」


「…寂しいのかい?」


「……うん」


ライトとサクラのペア『舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』とパーティーを組んで、まだひと月も経っていない。ようやくチームらしくなってきたところなのだが、明日『氷山の帯』をクリアーしてしまうと、このクエストの攻略を共通の目標とした『音速の破壊者(ソニック・ブレイカー)』と『舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』の同盟は、そこで解散になってしまう。それをユヅルは、心寂しく感じていた。


「でも、いずれまた会えるだろう。『ユグドラシル・シティ』のクエストは、お互い2人だけじゃクリアーできないんだからね」


「『ユグドラシル・シティ』って…いちばん最後の街よ、お兄ちゃん?」


「ん…そうだね」


「そしたらそれまで会えないじゃない……」


「僕じゃ足りないのかな?」


「は?」


レオの質問の意図が読めず、ユヅルは思わず反抗的な応答をしてしまう。


「あの…レオお兄様?『僕じゃ足りない』というのは…?」


超丁寧語で問うユヅル。冷静そうな様子とは裏腹に、ユヅルは結構汗をかいていた。それもそうだろう、今のレオの言葉は、他に誰かがいれば完璧に誤解されていた言葉だからだ。


「僕じゃ足りない」なんて、一歩踏み間違えばNGワードになりかねない(かもしれない)ので、禁句に値するだろう。


「…?もう僕の力だけではこの先の攻略は厳しいのか、という意味だが?」


ユヅルが想像(妄想)していた事とは大きく異なっていた事に、ユヅルは一安心して息を吐く。


「そんな事はないんだけど、一緒に戦わなくても、街とかで会えたらなー、って」


「あぁ、そういう事か」


「そう!友達としてよ!」


できる事なら、ユヅルは敬愛の兄と、ライトと、サクラと、シーフと、ウェルゴと、いつまでも一緒のパーティーで戦いたい、それがユヅルの希望だ。だが皆は、強くなるためなら、それぞれの相棒(パートナー)と共に歩む事を選ぶだろう。きっと、レオも。


それなら、せめてまた集まってクエスト攻略に向かうことができたらなと、ユヅルは思う。


だが、そんな思考は、レオの少し冷たい一言で遮られた。


「ユヅル、今はそんな事に頭を悩ませても仕方ないよ」


「…お兄ちゃん」


「越えるべき壁は目の前にあるんだ。壁の向こう側の事は、越えてから考えよう」


兄の言う事は正論だった。


今、目の前には、『氷山の帯』という大きな壁が(そび)え立っているのだ。今は、その壁を越える事を考えなければならない。【皆と別れたくない】というのは、『氷山の帯』の壁を越えた先ににある悩みなのだ。クエスト攻略の前日である今日、その事を気にするような暇は、ないはずだ。


「うん…そうね」


ユヅルがコクリと頷いた。


それを見たレオは立ち上がり、正座して自分の太ももの上に組んでいたユヅルの手を取り、彼女を立ち上がらせる。


「ど、どうしたのよ…?」


突然手を取られたユヅルは、顔を赤くしながらレオに訊ねた。


レオは至って冷静なポーカーフェイスで、ユヅルの手を握ったまま答える。


「知らないのかい?今日は流星群が見られるそうだよ」


「流星群?」


「行かないのかい?」


「行く」


ユヅルはレオに手を引かれて、彼の自宅から出た。ガチャリという音を立てて、レオの設定した4ケタのパスワードが、レオの自宅を保護する。


レオとユヅルは、雲ひとつない澄んだ夜空を見上げながら、既に広がる絶景の中に、無意識の内に取り込まれていく。


大小、強弱様々な光を放つ星々は、広大な宇宙空間に散らばり、曇りひとつない空から顔を覗かせていた。


レオとユヅルの瞳と心が、雄大な空に広がる星々に奪われようとした時、2人の瞳と心は、そこに現れた別のモノに、一瞬にして奪われた。


「これは見事だね……」


「すごい……キレイ………」


他の星々よりも大きくて眩い光を帯びた流れ星たちは、澄んだ夜空をサーサーと駆け抜けていく。


ユヅルは流星群を見ずに眼を閉じて、真剣な顔で何かを考えている。レオには、『祈っている』と判断する事はできなかった(結構鈍いから)。


「ユヅル…?」


「お兄ちゃん、お願い事、お願いしたの?」


「え…?あ、あ!」


ユヅルが眼を閉じていた理由を知り、レオも急いで眼を閉じてお願い事をする。


数秒後、流星群は空を駆け抜け、全てが水平線の彼方へと消えた。また何十年後に見れるのかな、と考えたユヅルだったが、目の前の壁に集中するために、その思考を停止させる。


「ねぇ、お兄ちゃんはなんてお願いしたの?」


「僕はね、【いつまでもユヅルと一緒にいられますように】かな」


「ちょ…!!それ、本当に!!?」


「本当だよ、嘘をついてなんの得があるんだい?」


「似てるね。私も同じような事、お願いしたよ」


「へぇ〜、なんて?」


「【いつまでも皆と一緒にいられますように】だよ」


レオはちょっと不満そうな顔をしていたが、すぐにいつもの顔に戻した。


ユヅルの【皆と一緒にいたい】というのには、当然レオも含まれているし、レオにも、ライト達と一緒にいたい気持ちはある。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「明日、がんばろ‼」


「ああ、がんばろう」


2人は目を合わせて笑うと、再び澄んだ星空を見上げた。

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