【アンダンテ】日常 7
[場所:部室]
[吹雪]:「おつかれさん」
[舞羽]:「こんにちは~」
[愛海]:「あ、来たわね」
座って待っていた女子が一人、こちらに向かって歩み寄ってくる。
[愛海]:「遅いわよー二人とも。何処で油売ってたの?」
[舞羽]:「ちょっと探し物してて」
[愛海]:「何探し物って? 恋? 愛? 優しい心?」
[吹雪]:「何でそんな目に見えないものばかりだよ」
[愛海]:「うん、今日も鋭いツッコミね、大久保くん」
[舞羽]:「相変わらず元気だね、愛海は」
[愛海]:「当たり前じゃない毎日全力で生きなかったらもったいないじゃない? 今日と言う日はもう今日しかないんだから。そこんとこ分かってる? 二人とも」
[吹雪]:「まあな」
[舞羽]:「うん」
[愛海]:「ならもっと楽しそうな顔して、笑って、泣き笑って」
[舞羽]:「な、泣く必要はないでしょう」
[愛海]:「そう? 何か感動シーンっぽくなるでしょ? 泣き笑ったら」
[舞羽]:「今はそんなシーン必要ないでしょ?」
[愛海]:「サービスショットじゃない? ユーザーに対しての」
[舞羽]:「な、何の話?」
[愛海]:「ま、とにかく。二人とも、笑って過ごしたほうがいいよ?」
[吹雪]:「ああ、努力する」
[舞羽]:「分かった」
[愛海]:「よろしい」
――日野愛海。舞羽の友達で、同じ部活の仲間だ。いつも元気なのがトレードマーク、少し翔と相通ずるものがある。こいつがいるから、部の雰囲気はいつも明るくなってる気もしている。
[吹雪]:「そろそろ入れてくれないか? 中に」
[愛海]:「合言葉」
[吹雪]:「何だよそれ……」
[愛海]:「部に入りたいなら、合言葉を言いなさい」
[舞羽]:「き、聞いてないよーそんなの」
[愛海]:「うん、だって今思いついたから」
[吹雪]:「思いつきかよ」
[愛海]:「いいからー、合言葉。行くわよ? ――山」
[舞羽]:「えっと……川?」
[愛海]:「ブッブー、舞羽ハズレ~」
[吹雪]:「いや、ハズレじゃないだろ。山っていったら普通は川なんじゃねぇのか?」
[愛海]:「大久保くん、私がそんなノーマルな答えを望むと思う? 答えは捻って、捻って編み出すものよ。はい、山?」
[舞羽]:「……分からないよ~」
[愛海]:「はい時間切れ~。答えは――上憶良でしたー」
[吹雪]:「分かるか、そんなもん!」
[舞羽]:「分からないよー!」
[愛海]:「おお、ダブルツッコミ、やるわね二人とも」
[吹雪]:「もっと簡単なのにしてくれよ」
[愛海]:「うーん、じゃあ……私の好きな食べ物は何でしょう?」
[舞羽]:「あ、それなら私が分かるよ」
[愛海]:「はい、じゃあ答えをどうぞ」
[舞羽]:「確か……カステラとチーズケーキだったよね」
[愛海]:「ブッブー」
[舞羽]:「え? 何で?」
[愛海]:「確かに大好きよ、その二つは。でも、私が望んだ答えじゃなかったわね」
[舞羽]:「え? 何だったの?」
[愛海]:「正解は――男の子です」
[吹雪]:「食う意味違うわ」
ビシッ。
[愛海]:「おおー、炸裂したわね、吹雪チョップが」
[吹雪]:「まだ昼間だ。下ネタは夜まで我慢しろ」
[愛海]:「もう午後じゃないのー。午後になったらこっちのものでしょー?」
[吹雪]:「一応公共の場なんだから、大概にしとけよ」
[愛海]:「楽しいのになー、残念」
[吹雪]:「というか、本当に入れてくれよ。日野の問題は難しすぎる」
[愛海]:「ウソー? これでも簡単に作ってるつもりよー?」
[吹雪]:「日野の簡単は俺たちにとっての難しいに値するんだよ」
[愛海]:「これが個性って奴なのね。みんな違ってみんないいなのね」
[吹雪]:「丸パクリじゃねぇか」
[愛海]:「by、日野愛海」
[吹雪]:「勝手に著作権を略奪すんな」
ビシッ。
[愛海]:「あーん、容赦ないわねー、大久保くんは」
[吹雪]:「もういいだろ? 入れてくれって」
何だかんだ言って、少々人に見られているんだ。
[愛海]:「じゃあ、激甘の問題にしてあげる。これならきっと解けるはずよ」
[舞羽]:「本当に解けるの?」
[愛海]:「ええ、ディップさんでも解けるわ」
[吹雪]:「誰だよソレ」
[愛海]:「それじゃあ行くわよ? 今私たちはマラソン大会に出ています。大久保くんが5位を、舞羽は4位を走っています。さて問題、大久保くんが舞羽を抜くと、大久保くんの順位は何位になるでしょうか?」
[舞羽]:「えっと、私が4位なんだから、吹雪くんはさん――」
[吹雪]:「待て、舞羽」
[舞羽]:「んむううっ!?」
危なかった、コレは引っ掛け問題だぜ。
[吹雪]:「答えは、4位だ」
[愛海]:「ファイナルアンサー?」
[吹雪]:「ファイナルアンサー」
[愛海]:「タララーン……正解!」
[吹雪]:「よし」
[愛海]:「よく引っかからなかったね、大久保くん」
[吹雪]:「まあな、危なかったけど、何とか分かった」
俺が5位で舞羽が4位、これがポイントだ。4位の舞羽を抜くと3位に順位が上がると考えがちだが、4位の人間を5位が抜くということは単純に順位が入れ替わるということ。つまり、4位の人間を抜いたら、自分が4位に変わるということになる。よくできた引っ掛け問題だと思う。
[愛海]:「さすがね、おめでとー。あ、そうだ吹雪くん」
[吹雪]:「ん?」
[愛海]:「そろそろ、舞羽の口から手を離してあげたほうがいいかもよ」
[吹雪]:「……あ」
[舞羽]:「ん、……んんぅ……」
慌てて離したが、少々舞羽はぐったりしてしまっていた。
[吹雪]:「すまん、舞羽」
[舞羽]:「あはは……一瞬お花畑が見えたよ……」
[吹雪]:「悪い、つい……」
[舞羽]:「うん、大丈夫。また戻ってこれたから」
[愛海]:「どんな花が咲いてた?」
[舞羽]:「えーっと……ラベンダーとかコスモスとか、いっぱい咲いてたよ」
[愛海]:「そーなんだー、へー」
[吹雪]:「いや、真面目に答えなくていいって」
まだまだそこに行くのは後の話だ。
[吹雪]:「ま、とりあえず、正解したから入っていいわよー」
俺たちはようやく中に入れてもらった。中にはまだ誰もいなかった。
[舞羽]:「愛海、一人だったの?」
[愛海]:「うん、空けた瞬間、冬を彷彿とさせるとても肌寒い風が私を包み込み、全身をブルブル震えさせながら待ってたわ」
[吹雪]:「いや、ストーブついてんだろこの部屋」
[愛海]:「う……」
部屋は十分暖かかった。
[吹雪]:「話を盛ろうとするな」
[愛海]:「……えへ♪」
[舞羽]:「かわいく言ってもダメだよ、愛海」
[愛海]:「お茶目よ、お茶目。笑って流してよ」
[舞羽]:「もう」
[吹雪]:「とりあえず、だ。3人になったし、あれ、やり始めよう」
俺たちは部室の奥の、開発中の品を持ってくる。




