【ドゥルルーズ】最近お疲れのようで
12月9日(木曜日)
[場所:グランド]
[吹雪]:「はあ、はあ……」
[セフィル]:「よーし、その調子だ。後3周、踏ん張るんだ」
学園長に背中を押され、必死で足を前に出す。この走り込みも始まって一週間近くになり、少しずつ慣れてきたかもしれない。疲労が溜まることには何の変わりもないんだけど。
[セフィル]:「よし、ラスト一周、スパートをかけるんだ」
[吹雪]:「はい! はあ、はあ……」
腕を必死で振り、ぐっと足を前に出す。
[セフィル]:「よし、ゴール」
[吹雪]:「はあ、やった……」
俺は力つきて芝に体を投げ出した。
[セフィル]:「うん、よく走りきった。大分、スタミナもついてきたようだな」
[吹雪]:「そうですか? はあ、はあ……」
[セフィル]:「そうさ、始めた当初と比べても、息の荒れ方がかなり穏やかだ。それだけスタミナが付いたということだろう」
[吹雪]:「ありがとうございます、はあ……」
[セフィル]:「おお、そうだ。ほら、ドリンクだ」
[吹雪]:「ありがとうございます」
喉を鳴らしてゴクゴクと飲んでいく。
[セフィル]:「はあ、うまい」
走り終わった後のドリンクのうまさは格別だな。
[セフィル]:「本当に、吹雪は美味しそうに飲むな」
[吹雪]:「学園長も飲みます? どうぞ」
[セフィル]:「うむ、そうしよう」
ドリンクを受け取り、そのまま口へ運ぶ。
[セフィル]:「はあ、ほうきで飛び終わった後のドリンクは格別だな」
[吹雪]:「疲れるんですか? ほうきに乗るのは」
[セフィル]:「飛んでる際は、そこまで感じないな。だが、確かに骨は入る。かなりの集中力が必要になるからな。自由に飛び回るには、魔力で制御をしなければならない。ただ乗っていれば自動で飛んでくれるわけではないんだ」
[吹雪]:「そうですよね、やっぱり」
[セフィル]:「乗ってない者から見れば、確かに簡単そうに映るかもしれないな」
[吹雪]:「そうかもしれませんね。学園長、すっごく簡単そうに乗りこなしてますし」
[セフィル]:「昔、血の滲むような練習をしたからな。制御がきかなくて、よく地面に放り出されたものだ」
[吹雪]:「本当ですか?」
[セフィル]:「本当だとも、最初から上手く乗りこなせる者など一握りだ。私にだって、吹雪たちのような時代もあったんだぞ」
[吹雪]:「ちょっと驚きですね」
[セフィル]:「そうだな」
[吹雪]:「いや、学園長は驚かなくていいでしょう」
[セフィル]:「おお、そうだったな」
……………………。
[セフィル]:「どうだ? 落ち着いたか?」
[吹雪]:「はい、大分」
[セフィル]:「疲れはあるだろうが、今日はもう一つしてもらうことがある。いけそうか?」
[吹雪]:「はい、やります」
[セフィル]:「うむ、いい返事だ。じゃあ準備をしなければ、おーい、フェルー、出番だ」
[フェルシア]:「はーい、今行きます」
[吹雪]:「おおっ!?」
一瞬光ったと思うと、目の前にフェルシア先生が現れた。
[フェルシア]:「おはよう、吹雪くん」
[吹雪]:「お、おはようございます。え? 今のってワープですか?」
[フェルシア]:「ええ、ちょっとかっこよく登場してみようかって思ってね。どうだった?」
[吹雪]:「はい、かっこよかったです」
[セフィル]:「だがフェル、大して離れてないのにワープする必要はなかったんじゃないか? お前がいた場所はここから30メートル離れたところだったじゃないか」
確かに、練習前から俺の走ってるところ見てたもんな。
[フェルシア]:「それはあれですよ、学園長。ちょっと、先生らしいところを見せたかったんですよ。それが理由じゃあダメでしょうか?」
[セフィル]:「まあ、気持ちは分かるな。いいだろう、許可する」
[フェルシア]:「ありがとうございます」
仲がいいんだろうな、この二人は……。というか学園長、あなたも生徒の評価を気にするんですか。堂々と構えているだけで十分なはずなのに。
[セフィル]:「さて、何をするかだが、吹雪、知っているか?」
[吹雪]:「はい、俺の魔力の増加を図るんですよね」
[セフィル]:「うむ、ピンポンだ」
[吹雪]:「ピンポン?」
[セフィル]:「ちょっと言ってみたかっただけだ。気にするな」
[吹雪]:「は、はい」
[セフィル]:「この学園の生徒から見れば、吹雪はかなりの魔力を持っている。しかし、ホーリーカルムを唱えるものと考えるとまだ少し物足りない。だから、唱えられるだけの魔力を養っていかなければならない。効率的に養うには、やはり魔力を放出するのが手っとり早い。フェルは防御系魔法に長けている。フェルに向かって、今自分の中に眠る魔力の80%くらいをとき放つんだ」
[吹雪]:「80%ですか?」
[セフィル]:「うむ、全部出し切ってしまうと、この後に支障をきたすからな。80%でも十分だ。自分で何となく分かるだろう。今自分がどれだけ放出したかは」
[吹雪]:「何となくは」
[セフィル]:「なら問題ない。遠慮せず魔力を使うといい」
[吹雪]:「何でもいいんですか? 魔法は」
[セフィル]:「基本的にはオーケーだ。大半の魔法は把握している。今自分が気に入っているものでもよし、研究中のものでもよし、好みで問題はない。ただ、一つだけお願いがある」
[吹雪]:「はい、何でしょう?」
[セフィル]:「セイクリッドスパークルはNGだ。無効化されたら、フェルにダメージが貫通してしまう」
[吹雪]:「あ、はい、分かりました」
[フェルシア]:「お願いよ? 吹雪くんには殺されたくないから」
[吹雪]:「だ、大丈夫ですよ、心配しないでください」
[フェルシア]:「うん、信じるわ」
[セフィル]:「おお、そうだ吹雪」
[吹雪]:「はい」
[セフィル]:「始める前に、聞いておきたいことがあるんだが」
[吹雪]:「はい、何でしょう」
[セフィル]:「君は昔、魔力の暴走をよく起こしていたと繭子から聞いたんだが、それは本当なのか?」
[吹雪]:「――はい、本当です」
[セフィル]:「そうか」
[吹雪]:「すいません。言ったほうがよかった、ですよね?」
[セフィル]:「いや、いいんだ。気にすることはない。ひょっとしたらって思ってな。みんなに期待される中で、マジックコロシアム出場を拒んでいたのには、それも理由に含まれていたんだろう?」
[吹雪]:「はい。はっきり言ってしまえば、それが一番の理由ですね」
ここ何年はほとんど安定しているんだが、もしものことはいつも突然起こるもの。そんなことが起こっては、学園にとんでもない迷惑をかける。だから俺は、一観客として楽しむことを選んでいた。
[吹雪]:「問題を起こしたくはなかったですから」
[セフィル]:「なるほどな、吹雪なりのけじめだったのか」
[吹雪]:「一応。とは言っても今年は売り言葉に買い言葉で出場してしまったんですけど」
[セフィル]:「何も起こらなかったんだ、いいじゃないか。近年は安定しているんだろう?」
[吹雪]:「そうですね、魔力のセーブは上手くできてると思います」
[セフィル]:「うむ、この練習の目的にはそれも含まれている。この練習で暴発する癖も解消できるようにしよう。吹雪のためにもなる」
[吹雪]:「はい、努力します」
[セフィル]:「何が原因なのだろうな? 普段の吹雪からするとあまり考えつかないんだが」
[吹雪]:「やっぱり両親の影響を強く受けたんだと思いますよ。受け継いだ魔力を、俺の力でセーブするには有り余っていたんじゃないでしょうか」
[セフィル]:「まあ、魔力の暴走は幼い頃によく起こるものだからな。年を増す毎にそれは解消されていく、理屈には一番合っているな」
[吹雪]:「俺の力が至らなかったんです、多分」
[セフィル]:「全てが吹雪の責任というわけではないことは分かっていないといけないぞ? 暴走を起こす者は多くはないが、時たまあることだ。大問題というわけではない」
[吹雪]:「はい、分かっています」
[フェルシア]:「私たちも協力するから、頑張りましょう、吹雪くん」
[吹雪]:「はい、お願いします」
[セフィル]:「よし、では始めようか。何かあったら私もサポートに入る。自分のペースで魔法を打ち込んでいくといい」
[吹雪]:「はい、じゃあいきます」
[フェルシア]:「ええ、どうぞ」
俺は詠唱の構えに入った。
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…………。
……。




