【75】ペロが鍵になりそうです
「そういえば……カミシロさん、めっちゃしつこく”報酬”って言ってませんでした?」
俺の言葉にセインさんがハッとした顔をした。
「確かに。もしかして、”報酬”として、何でもいいから提示したことを相手が飲むと、操られてしまう……とかなのかもしれない。確か、ペロがスキルを返したのもそのタイミングだった気がする」
すると、ペロがフンフンと鼻息を荒くした。
「確かに、ナツキが了承しようとした瞬間、ワシが貰ったスキル返しが発動した気がするのう……」
「え、じゃあもし俺があそこで、部下になるなんてありえないしって了承してて、ペロがいなかったら、カミシロさんに操られてたってこと?」
こわっ! もしあれだけで操られてたらそりゃ皆が引っかかるのも頷ける。
「その可能性が高いね。僕が気になったのは、今のセイワ共和国の状態がその異世界人によって作られていたとしたら、元の状態に戻ったらまともな状態になる可能性が高いことだ」
「…あ! それは確かに。洗脳って解けないんですかね」
すると、セイン様がチラリとペロを見る。
「そのペロの”スキル返し”ってさ。もう洗脳されちゃったら有効じゃないのかな?」
あれ? 確かに、洗脳される前しかスキル返し出来ない、とは何も言われていないぞ……?
「確かに。もしかしたら、洗脳を解くヒントになるかもしれないですよね」
「我が国の魔導士の中にスキルの分析に長けた者がいるんだけど。もし良かったらペロを分析させて貰っても良いかな」
その言葉に俺は頷く。
「わかりました。じゃあそのペロのスキルの分析が終わるまでは暫く皇都にいた方がいいですね」
アルカディアに取りあえず冒険者ギルドも、教会も商業ギルドも建てておいたからな。
酒場も建てたいけれど、ショッピングモールでも酒は飲める。だから、それはそこまで急ぎでもない。
申し訳ないが、アルカディアの街の方はフィオナさんとグレイスさんに任せる事にしよう。
とりあえず、俺がいなくてすぐに困るようなことはないと思うけど。後で連絡しなくちゃな。
そんな事を思っていると、セインさんが渋い顔をする。
「カワグチ殿。申し訳ないんだけど、ペロのスキルの分析が終わったら、ナーミャに行ってもらってもいい?」
「へ?! ナーミャって、何しに行くんですか?」
すると、セイン様が少し暗い顔で言った。
「何となく今日のカミシロの口ぶりだと、正攻法で攻め込んでこない気がするんだよ。以前、自分たちの手を汚さずに、ヴァラにアルカディアを攻め込ませただろう? その時こちらの手の内は報告がいってると思うんだ」
「ああ、それは確かに。バリアが効くのは知ってる可能性が高いですよね」
俺が建てた建物全てからセキュリティが働くと考えると、防御力はヴァラから攻め込まれた時よりもさらに強くなっている可能性が高い。
「僕だったら、負けるって分かってるなら絶対に攻め込まないね。それに、君一人さえいればアルカディアのような街はまた作ることができる。……だったら敵は、君一人を、追い詰めるようにすると思わないかい?」
「僕が困る方法? 何ですか? っていっても、家族のフィオナさんはアルカディアに守られてますし……困ることなんて……」
すると、セインさんは首を振った。
「カミシロは領土の広さをウリにしていただろう? けれど、僕達は、これから大陸を今までよりもっと自由に移動できるようになる」
その言葉に俺はハッとした。
「……もしかして、鉄道ですか?」
「その通り。きっと、物流や人の行き来がラングスチアとナーミャで活発になったらカミシロにとって脅威だ。それに、君のスキルで作る訳じゃないから、きっと大規模な工事になる。そうなってくると、沢山の人が関わってくる事になるだろ? きっと、何か仕掛けてくるとしたら、鉄道関係だと思う。だから、まずは始発になるナーミャに飛んで、ペロのスキルでせめて中核になっている人物だけでも守って欲しい」
「わかりました。では、まずは皇都でペロのスキルで何かしらカミシロさん対策をした後、ナーミャに飛びます」
俺がそう言うと、少しセインさんはホッとした顔をした。
「ああ。とりあえず、絶対に洗脳されたらまずいのはサール殿かな」
「あー、わかりました……。とりあえずすぐにはアルカディアに帰れそうにはないですね」
新婚なのに、なかなか帰れないのは悲しいが、仕方ないだろう。
俺は心の中で溜息を吐くと、まずはペロのスキルでどうか色々と出来ることがありますように、と心の中で祈った。
◇◇
「ペロー! これ美味しいぞー!」
その日の夜、俺はペロと一緒にラングスチアの皇都を観光していた。
地味にドラゴンでセインさんを皇都に送ったことがあるだけで、観光するのは初めてだからな。
セインさんが特別に許可を出してくれたのだ。
ただし、グレインさん同行という条件付きだったが。
俺達は今ラングスチアの屋台が沢山出ている広場で食事を食べている。
「これはラングスチアの名物で、肉麺という」
名前の通り、肉が沢山入った麺料理である。
ちょっと酸っぱ辛い汁の中に小麦粉で作った麺と角煮っぽい肉が沢山入っている。
「僕たちの世界にも似たような料理がありましたが、このとろけるような食感の肉がゴロゴロ入っているのが美味しいですね」
「あとは、他に甘芋を揚げた料理などが有名だな」
グレインさんは色々と説明してくれた。
その横で、ペロがハグハグと旨そうに肉を食っている。
ちなみに、甘芋はほぼ、日本でのさつまいもだった。ただし、日本とは違ってグレープフルーツくらいの大きさの丸い芋に、紫色の皮がついている。
「おお、ワシはこの甘芋を揚げた菓子が好きじゃのうっ!」
言いながらペロは肉を食い終わって袋に入った甘芋チップスをバリバリ食べている。
「グレインさんは夕飯は大丈夫ですか?」
「ああ。もう食べてきた」
とはいえ、そんなに早く夕飯を食べたのなら腹も減るだろう。
「ちょっと待ってくださいね」
そういって、俺は瓶に入った炭酸入りの酒と、甘芋チップス、それに、クレープっぽい皮に包まれた肉料理を大量に購入した。
半分以上はアルカディアのメンバーへのお土産だが、護衛が終わったらグレインさんにも分けてあげようと思う。
街並みはヨーロッパなのにところどころアジアっぽい建物もあって面白い。
たまにシャチホコのような金の装飾がついたような建物もある。
城に戻ると、俺はお酒とおつまみをグレインさんに渡した。
「今日護衛をしてくれたお礼です。すみません、寛ぐ時間減っちゃいましたね」
俺がお礼とお詫びを伝えると、笑顔で首を振ってくれた。
「気をつかわなくともよいのに。こんな事は日常茶飯事だ。だが、食べ物は有り難く受け取っておく」
どうやら喜んでくれたみたいでホッとする。
俺とペロはセインさんに割り当てたられた部屋に行くと、ふかふかのベッドでぐっすりと寝た。
──次の日。
俺とペロはセイン様に連れられて、ラングスチアの魔導塔に来た。
ラングスチアはどうやら魔道具よりも魔術そのものや、攻撃魔法に力を入れているらしい。
ナーミャと同じように見上げるほど高い塔だが、塔の素材自体は異なっている。
どうやら、皇宮と一緒で魔石て建物が出来ているらしい。
「初めまして。アルカディア伯爵。私が今回ペロ様のスキルを分析させていただく、魔導士のサリアと申します」
セインさんの案内で出てきたのはエキゾチックな雰囲気のする女性魔導士だった。
「今日は宜しくお願いします」
その言葉にサリアさんとセインさん、それにペロが頷く。
「──それでは始めましょうか」
俺たちは、儀式をするという個室に入っていく。
サリアさんが手をかざすとペロの身体が白く光り始めた。




