【53】それぞれの旅立ち
(あ、意外とそこはきちんと受け入れるんだ)
俺はサミュエル殿下の姿勢を見て意外に思ってしまった。てっきりこういう場合、身内同士で壮絶な争いがあると思ったからだ。
正直、今少しサミュエル殿下を見直した。
ペロも、俺の横で、「お主、なかなか聞く耳があるのう」と褒め称えている。
自分の不向きを、素直に受け止めるのは簡単なことではない。ましてや身分の高い人ほどプライドが高くて受け入れるのが難しいだろうなと思っていた。
てっきり今回もいい顔はされないだろうなと思っていたのだ。
「──君には身分の高いラングスチアの令嬢のところに婿入りして欲しいと思っている。元々はソフィア王女にそうしてもらおうと思っていたからね」
「……そうですか。わかりました。謹んでお受けします」
セインさんの言葉にサミュエル殿下は潔ぎよく頷いた。
「──サミュエル……。お主、本当にそれでいいのか?」
ヴァラの国王陛下が気遣うに彼を見ている。どちらかと言うと、決定に不満があるというよりも、サミュエル殿下を心配しているようだ。
お土産屋の店主が言っていたように、国王陛下の人柄がいいというのは本当らしい。これでもう少し賢ければいい王様だったに違いない。
「ええ。それで国民達の暮らしが良くなるのであれば。……悔しくないと言えば嘘になりますが」
サミュエル殿下が答えると、ソフィア王女がきゅっと口を引き結んだ後、切り出した。
「──っ、セイン様。あの、お言葉ですが、兄が受け入れてくれたとはいえ、この一瞬で私と兄、二人の人生が全てひっくり返ってしまったのです。
勿論我が国はラングスチアの属国となりましたし、どんな結果であれ、我が国がラングスチアに攻め込んでしまったという事実は覆りません。
ですが、どうかご慈悲を頂けませんか?
──兄に免じてショッピングモールの取り分をせめてもう少し頂けないでしょうか?」
その言葉にセインさんがニッコリ笑った。
「うん、いいよ。幸いカワグチ殿が自分の取り分を一割君達に渡してもいいと言ってくれているからね。──彼に感謝するんだな」
すると、ソフィア王女は目を見開いた。
「……いいのですか?」
「あ、全然それはいいっすよ。建てたの僕ですけど、その後特に何かするわけじゃないですし」
「……ありがとうございます」
涙声でお礼を言うソフィア王女を尻目に、俺はふとサミュエル殿下を見る。
彼はなんだか落ち込んだ顔をしていた。
(そりゃそうだよな。国を継ぐと思っていたのに全然違う国に婿養子に入らなきゃいけなくなっちゃったんだもんな……。せめて、相性がいい女性と結婚して欲しいな)
そう思った俺はおずおずと手を上げた。
「あのー…すみません。僕にいい考えがあるんですけど、宜しいでしょうか?」
その言葉に全員が目を丸くした。
◇◇
「それじゃあ、私達は国に帰ります」
──三日後。そう言って、ソフィア王女は頭を下げた。
今日はヴァラの国王陛下やソフィア王女が帰る日だ。ショッピングモールの前に皆が集合している。
「はい。気をつけて下さいね」
俺がそう言うと、ソフィア王女が頷いた。
見送りにはセインさんとリオネルさんと、フィオナさん、グレイスさん、それに勿論ペロもきた。
そして、しばらくアルカディアに残ることになったサミュエル殿下もいる。
「ソフィア、どうかヴァラの事を頼む」
「ええ、勿論ですわ、お兄様。お兄様もどうかお身体には気を付けて」
そう言ってソフィア王女とサミュエル殿下は涙目で抱き合った。
どうやらこの二人の兄弟の絆は強かったようだ。それもきっと、サミュエル殿下が王位を手放すことを受け入れた要因の一つなのだろう。
リオネルさんは涙目でソフィア王女を見ている。
「ソフィアたんー…」
(……短い恋だったな)
俺は傷心のリオネルさんの背中をポンポンと叩いた。
「……きっと、きちんと合う条件でもっとリオネルさんにぴったりな恋人、見つかりますって」
俺はなんとなく雑に慰めた。
そんな彼の事をフィオナさんは少し生暖かい目で見ている。まあ、確かに元婚約者が他の女性を追いかけ回した上に失恋しているのを見るのは複雑な気分にもなるだろう。
また、契約書類を正式に交わしヴァラがラングスチアの属国になる事が決まったため、ニッケル騎士団長をはじめ、侵攻に駆り出された人達が釈放された。
そして、その中には剣聖ヴィクラムもいた。
彼らはペコリとおじぎすると、ヴァラの国王陛下とソフィア王女に付き従って去ろうとした。
「あ、ちょっと待って下さい」
俺は声をかけると、一人一人にお菓子の詰め合わせを渡した。
「…これは!!」
ニッケル騎士団長が目を見開いた。
「──皆さん王都に家族がいる人ばかりだって聞いたので。家族と食べて下さい」
実は昨日、フィオナさんと大量のお菓子を購入してお土産用に作っていたのだ。
もちろん、ソフィア王女とヴァラの国王陛下には少しだけいい店のお菓子をプレゼントした。
「──感謝する。家族を人質に取られたとはいえ、何の罪もないアルカディアに攻め込んで申し訳なかった!」
ニッケルさんは声を張り上げた。
「いいんすよ。そういう仕事だったんだからしょうがないじゃないですか。
もう宰相も捕まったって言うし、上の人がソフィアさんに変わるっていうことですから。就労環境が良くなるといいっすね」
俺がそう言うと、何人かが鼻を啜り上げる。
「申し訳ありませんでした…!」
「いえ。今度は普通に遊びにきて下さいね。それで観光してアルカディアにお金落としてって下さい」
俺がそう言うと、ソフィア王女がギュッと手を握ってきた。
「──カワグチ様。本当に、ありがとうございました」
こうして、彼らは帰っていった。
「ひとまず、決着……かな?」
そう言ってセインさんがニヤリと笑う。
「ええ、そうですね」
「──これから君はアルカディア伯爵だ。宜しく頼むよ」
何はともあれ、俺はようやく肩の力が抜けて、ふうっと息を吐いた。
◇◇
『号外! アルカディアに大型商店、ペロモールが正式にオープン予定! それと同時にアルカディア伯爵、並びにヴァラの第一王子、並びにナーミャの第二王子が結婚相手を募集! アルカディアにてお見合いパーティーを開催予定。
──アルカディアには、大型商店の他に宝石のような美しい透き通った建物や空に浮かぶ畑もあり、一度見るだけでも感動もの! 観光がてら、貴女もアルカディアのお見合いパーティーに行ってみませんか?!
条件:ラングスチアを含め、アルカディアに隣接する国五カ国の言語を話せること。役場にて、きちんと両親の身分と爵位を証明する事ができる事。借金がないこと。
さらに細かい条件や詳細は王宮担当サダニアまで』
──数日後。
王都でこんな記事が配られた…とセイン様から新聞が送られてきた。
ちなみに、この国ではきちんと手紙を届けてくれる仕事の人がいるらしい。
「おー、これで、何人か来てくれるといいんだけど」
実はサミュエル殿下がラングスチアに婿入りが決まった段階でお見合いパーティーのことを提案したのだ。
(せめて、サミュエル殿下に好きになった人と結婚して欲しいし、俺とリオネルさん立場的に結婚した方がいいし)
どうせなら三人一緒に募集してしまおう作戦だ。
そして、俺はふと気づいた。
(今更だけど、大使館作ってないから作らなきゃ。流石に結婚するのにリオネルさん、無職はあんまり宜しくないからな)
俺は、あくびをするとテレビを見ていたペロを誘ってリオネルさんの所に行く事にした。
ピンポーン
「リオネルさーん、大使館建てに行きましょー。流石にこれから結婚するのに無職は良くないですって」
俺がインターホンを鳴らすと、パジャマに無精髭のリオネルさんが出てきた。
「……ソフィアたんに失恋したばかりでやる気が出ない」
その言葉に俺は溜息を吐く。
「いいから行きますよ!」
俺はやる気のないリオネルさんを無理矢理外に引っ張り出すことにした。




