【48】ヴァラのまち散歩
「セイン様。あのー……。大丈夫ですかね?」
晩餐が終わり、部屋に戻る前に俺とセイン様は、二人で謁見室のコンビニで一杯飲むことになった。
──今日の反省会である。
「んー? 何が?」
そう言ってセイン様は缶チューハイをグイッと飲んだ。
「ラングスチアじゃなくて、ヴァラが。ショッピングモールで買い物する人が増えれば増えるほど、恐らくヴァラ国内にお金が落ちなくなっていきますよね」
その言葉に彼は口の端を上げた。
「よく気づいたね! さすが! 君のそういう物分かりの良いところが好きだよ。ヴァラの王族よりよっぽど頭がいいね」
「……あんまり締め付けすぎるとよくないんじゃないですか。僕、別にヴァラのショッピングモールは五割でいいっすよ。もう十分儲けてるんで。お金は大好きですけど、必要以上に欲しいとまでは思ってないですし。……二割はヴァラにあげて下さい」
その言葉にセインさんはニッコリと笑った。
「優しいなぁ。君は! ……けど、侵略されたからさ。悪意はなくてもちょっとはお灸を据えてやらなきゃね。もし向こうが気づいて色々言ってきたら、何かと交換にじゃあ君の分け前から二割あげてもいい?」
「……教えてはあげないんですか?」
俺が尋ねると、セイン様は頷く。
「当たり前だよ。それまではこのままいくよ? ──だって僕、条件とか全部丁寧に説明したんだよ? 気づかない方が悪いよね」
俺はその言葉に苦笑いしてしまう。
「まあ……王族なのに気付かないのはまずいですね」
「そ! なんか、10年くらい前からそう感じることはあったんだよね。もう属国になったから面倒は見てあげるけど……。色々詰めが甘いなぁとは思うよね。ま、国民に大きな影響が出る前に流石に気づくでしょ」
セインさんは腹黒いけど上に立つにはこれくらいの方がいいのかもしれないなぁと思う俺だった。
◇◇
──次の日。
セインさんとヴァラの国王陛下、サミュエル王子で締結する内容を具体的に話し合う……というので、俺はペロと一緒に散歩に出かけることにした。
「ふーん……、なんだか綺麗な街だな」
街の中は割と平和そうな感じで、色とりどりの漆喰が塗られた家が立ち並んでいる。
通りではパンや花などが売られており、遠くの方にはうっすらと山も見える。
街には小さな商店が立ち並び、それなりに活気がある。俺は近くの商店に入ると、お土産を物色した。
「いらっしゃい! お兄さん、商人か何かかい?」
「……そうですね。隣国で店を営んでいて。今日は上司と仕入れと、ついでに観光に来ました」
嘘は言っていない。本当に商売をしているからな。
「そうかい! うちは結構、鶏煎餅の種類が豊富だからな! 色々見ていってくれよ」
そういって店主は朗らかに笑った。
俺はカレー味とハーブチーズ味の鶏せんべえを二箱ずつ、さらにキャンディなどのお菓子を籠にポンポン入れていく。
「うまそうだのう!」
そう言ってペロが尻尾をフリフリしていると、店主が試食の煎餅を一枚ずつくれた。
「あ、うま。──店主さん、ここの国って住みやすいですか?」
「そうだなぁ……。国王陛下も王太子様も良い人だし、まぁまぁかな。だが、今の王妃様がセイワ共和国から嫁いでこられてから陛下は疲れた顔をしてるって評判だ。」
やはり、王妃様がこの国の腐敗の元凶になってしまっているようだ。
「……前の王妃様は優秀で良い人だったんだけどなぁ。亡くなられてからもう10年は経つな」
その言葉に俺は思わず目を見開く。
「え、今の王妃様って元々いらっしゃった方じゃないんですね」
「ああ。前の王妃様は──サミュエル様や王女様達のお母様なんだが、結構陛下に忠言などもなさっていたようだ」
(そうだったんだ……)
とりあえず俺はその店で沢山買い物をして店主と仲良くなって、連絡先まで交換してしまった。
お勧めの料理や、観光スポットを尋ねてみた。それでわかったのだが、どうやら子供向けの簡単な遊園地のような施設もあるらしい。
(遊園地か。そういえばアルカディアにまだそういうのってなかったな。レベルが上がったら作れるようになるんだろうか)
そんな事を考えながら、俺は街の中をペロとぶらぶらの歩いた。
リカーショップに行くと、地ビールっぽい瓶詰めのビールが沢山売っていたのでそれもお土産に購入する。
考えてみたら異世界に来て初めての旅行なので少し浮かれてしまう。
俺が人目のない路地裏で、隠れて買い物したものをアイテムボックスに仕舞った。そして、お昼は何を食おうかな……と思ってウキウキ散歩していた時だった。
「盗人だ!!」
「あの子供を捕まえろ!」
誰かの叫び声で振り向くと、小さな女の子が走ってきた。
するとペロが飛び出して女の子に飛びかかり、あっという間に捕まえてしまった。
(そっか。そういえばペロって神獣なんだっけ)
「捕まえて下さりありがとうございますっ! ほら! 来るんだ!」
男の人がそう言って女の子を連れて行こうとしたので、慌てて話しかける。
「──何を盗んだんすか?」
「この子が店の果物をいくつか盗んだんです!! ほら!!」
見ると、両手にはりんごやバナナなどをいくつか抱えている。
すると、女の子が泣きそうな顔で頭を下げた。
「──ごめんなさい! でもお父さんが死んでお母さんが病気で……。弟も私ももう何も食べるものがなくて……」
そう言われて俺はなんだか気の毒になってしまった。
「あー、良いっすよ。俺がじゃあお金出すんで。いくらですか?」
すると、追いかけていた男は驚いた顔をした後、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「──いいんですか? 銀貨一枚です! まいど!」
俺が去っていく男を見つめていると、女の子がおずおずとお礼を言ってきた。
「──お兄さん、本当にありがとうございます」
「あー、うん。弟は家にいるの? あと、追い詰められても盗みはだめだぞ」
俺が注意すると、女の子は素直に頷いた。
「はい、本当にごめんなさい…。弟もお母さんも今家にいます」
そう言われて、俺とペロは顔を見合わせる。迷ったが心配だったので様子を見に行くことにした。
「──誰? お客さん?」
女の子の家はボロボロの一軒屋だった。家の中に入ると、ボロボロのベッドでお母さんが寝ていた。
その横では、弟がうとうとしている。
「うん! このお兄ちゃん、果物を私達にいっぱい買ってくれたんだよ!」
そう言うと、お母さんは「まあ…!」と言ってお礼を言ってくれた。
弟は嬉しそうにりんごを頬張っている。
「──病気、かなり悪いんですか?」
お母さんは悲しそうに声を震わせた。
「ええ。いつまで生きられるのか……──この子達を残していくのが心配で心配で。あと、この子達の成長を見守りたかった……」
すると、頭の中ですかさず再び文字が表示される。
【この女の壊れた細胞を、健康な細胞に変えますか?
──MPを100消費します】
……おい。
──いや、治すつもりだったよ? けどここは話の流れ的にもう少ししんみりしとく場面じゃないのか?
パアアアッ!!
その瞬間、お母さんの身体が光り出す。
「あれ? なんだか急に身体が楽になったわ?」
そう言ってお母さんがむくりと起きた。
うん、悲壮感が一瞬にして消えたな。
「あ、治しました。そんなことより、働く所がなくて困ってるって話でしたよね? これ、僕の名刺です。もう少しでセイワ共和国との国境に大きな商店がオープンしますんで。仕事なかったら、僕の紹介って言って下さい。交通費、ここに置いとくんで! それじゃ」
俺は、金貨をとりあえず五枚置く。
女の子のお母さんは名刺を見ながら動揺している。
「え、え?! な、治した? か、『カワグチ』様…、ですか?こんなに沢山頂けません」
「いや、金持ちになったら一回、こういうの、やってみたかったんです。それじゃあ!」
そう言って、俺は追いかけられる前に女の子の家を後にした。
(うん! なんか、困ってる人を助けて崇められるのは承認欲求満たされるわ)
──この日以降、ヴァラの街には噂が流れる。
『国境に大きな商店ができるらしい』と。
そして、失業した者達は新しい職を求めて、国境を目指して移動を始めるのだった。




