【42】お疲れ様でした。〜フィオナ・フォンティーヌ視点
◇◇フィオナ•フォンティーヌ視点
ビー! ビー! ビー! ビー!
「カワグチ様、ペロ様…」
私はグレイス様達文官さん達とリオネル様、ハーマンさんと一緒に、地下通路に潜ってジッと戦いが終わるのを待っていました。
ラングスチアの魔導士の方が地下通路の大広間の真ん中に監視の魔道具から送られてくる映像を映し出して下さいました。
画面上に、ペロモールの屋上に騎士団の方々とカワグチ様が敵兵と向き合っているのが見えます。
それを固唾を飲んでラミアタウン、そしてエレインタウンの村人達と見守ります。
きっと服装からして、セイワ共和国の兵ではなくてヴァラの兵士でしょう。
服装がセイワ共和国はなんというか、襟元を重ねるような独特な、もっとエキゾチックな衣装なのです。
それは、兵士の身につける服装であっても変わりません。
──一体彼らはどういう気持ちでアルカディアを侵攻したのかしら。
カワグチ様のお話では、ヴァラの国内は今真っ二つに割れているとのことでした。
そして、侵攻を望まぬ第二王女のソフィア様がカワグチ様とリオネル様に接触して来たとのことです。
「…フィオナ様、大丈夫ですか?」
私のことを心配そうな顔でハーマンさんが覗き込んできました。
「ええ、ありがとう」
正直彼女に対してもう複雑な気持ちはありません。
ここでの生活はとても楽しく、毎日異世界の美味しいものを食べたり、カワグチ様やペロ様と映画を見たりして過ごしているうちに、むしろナーミャで追放されて良かったとすら思うようになりました。
…まあ、流石に本当に何もしないのは思うところがあるのですが。
それでも、この快適すぎる生活はやめられそうにありません。
それにハーマンさんはペロマートでのお仕事をいつも頑張っています。
そして、罪悪感があるのかこっそり見切り品のお弁当を仕事終わりに私に持って来てくださるのです。
時々お弁当だけではなく、シュークリームやケーキ、プリンなども持ってきてくださいます。
正直彼女に対する好感度は爆上がりです。
最近は私の好みを把握したのか、パスタやチーズ、ティラミスなど私の好物ばかりを持ってきてくれるようになりました。
──それより、腹立たしいのはリオネル様です。
何故かこちらに親善大使としてナーミャから引っ越してきては、カワグチ様とペロ様を大半の時間、独占しているのです。
しかも、なんと家にまで泊まっているというではありませんか!
私がお二人とショッピングモールでぶらぶらして、お寿司やイタリアンを食べる時間が減ってしまったではないですか。
すると、リオネル様は真剣な目で映像を見ながら叫びました。
「頑張れカワグチ殿! ソフィアたんの為にも!」
思わず私は呆れた顔で彼に聞き返していました。
「……リオネル様。一国の王女に『ソフィアたん』は流石にないと思いますわよ?」
その言葉にリオネル様の肩がビクゥッと揺れます。
「フィ、フィオナ…!! すまない!話さなければと思っていたが…。 私は運命の女性に出会ってしまった…」
「はあ…そうでしたか」
割とどうでもいい情報だったので私は何となくその話は流して画面を見ます。
すると、画面ではバリアから出た不思議な触手がうねうねと敵兵を捕らえています。
…ま、まるで『エイリアン』のようですわ!!
私はこの前見た映画を思い出して大興奮してしまいました。
そして、しばらく経つと何やら大剣を構えた剣士がバリアに剣を撃ち込んでいます。
「…カワグチ様っ!!」
私が不安になって思わず叫んだ時です。
──なんと、カワグチ様な何かのスキルか魔法を使うと、敵兵の武器が全て茶色くて脆い別の物質になってしまったのです。
「……なっ!!」
思わずその場にいた全員が息を呑みます。
そして、さらにその物質を食べてペロ様が食べてなんとこう言ったのです。
「おお、なかなか美味いチョコレートだのう」
……チョコレート、ですって?
カワグチ様は物体をチョコレートに変える能力を持っているということでしょうか。
私は思わず息を呑みます。
──もし、彼に頼めば、アレもコレも、全てチョコレートにしてくれるということ…?
そんなの、素晴らしすぎます!
私はもう勝利を確信して目を輝かせました。
そして、遂に敵将が『降伏宣言』をしました。
ワアアアア!!!
地下通路に集まっていた街の人々が歓声を上げます。
「凄いっ! 流石はカワグチ様だ!」
「彼の方は神じゃああ!!」
すると、グレイス様がホッとした顔で皆さんに呼びかけます。
「皆さん!! 戦闘が無事終了したようです! しかし、敵兵が兵舎に収監されるまではまだ安全とは言えません! 騎士団から連絡があるまではそのままお待ちください! もし具合が悪い方がいたら、お申し出下さい」
幸い気分が悪い方などもいないようで、他の皆さんはコンビニからお酒やジュースなどを購入して酒盛りを始めました。
「皆さんっ! ゴミはきちんと持って帰って捨てましょうね!」
文官さん達の言葉に皆さんが頷きます。
「フィオナさんっ! 乾杯しましょっ! 乾杯!」
そう言って、ハーマンさんが私のジュースを買ってきてくれました。炭酸の入った葡萄味です。
「まあ、いつもありがとう」
グビッと飲むと幸せの味がしました。
「ふふっ、勝利の美酒! 幸せな味ですね」
微笑むハーマンさんに私は尋ねます。
「そういえば、ハーマンさんは最近仕事はどうなの?」
「はい! 人も入ってくれて大分お休みも取りやすくなりましたし。何よりここの街は今まで住んだどこよりも居心地がいいですからね。本当にありがたいです。ラミア村から入ってくれたスタッフさんも頑張ってくれてますしね」
「そう、それは良かったわ」
二人で会話していると、グレイス様が皆さんに呼びかけました。
「皆さん! 敵軍の兵舎への移送が終わったそうです! 彼らには念の為、王都から運び込まれた『監視のアンクレット』がつけられる予定ですので、万が一反逆や住民に危害を加えようとしたら拘束されますのでご安心ください」
ちなみにグレイス様が仰った『監視のアンクレット』とはラングスチアの他にナーミャでも流通している魔道具です。
とあるナーミャ国内の魔導士が作ったとされており、その開発者は謎に包まれております。
ですがとても性能がよく、何故かナーミャの魔導塔の魔術師長が太鼓判を押した為、広く流通することになりました。
こちらを身に着けた場合、常にプライベートが漏れるというわけではありませんがら反逆心や暴力行為などを起こそうとした場合、王都の管理者に通知が行き、アンクレットから出た光の輪で拘束されてしまいます。
「……でしたら大丈夫ですわね」
私はほうっと息を吐き出しました。
「もう家に帰ってもいいですか?」
何人かがグレイスさんに質問すると、彼は笑顔で頷きました。
「はい! ただ、これからカワグチ様がこちらにいらっしゃるので用事のない方はぜひ労いのお言葉をおかけください。
皆さんお疲れ様でした。ゴミはきちんと持ち帰ってくださいね」
小さな子供などがいる方だけは申し訳なさそうにその場を後にしましたが、大半の人達はカワグチ様がくるのを今か今かと待っておりました。
──そして。
ショッピングモールのエレベーターの方からカワグチ様がやってくるのが見えました。
「カワグチ様っ!」
「ありがとうございますっ!」
皆さんが大興奮でカワグチ様に駆け寄って行きました。
「あれー? 皆さん、帰ってなかったんすか? え、まさか待ってた? 何もいいですのに」
そう言って彼は頬をポリポリ掻きました。
なんだか、凄く彼らしくて私は思わず頬を緩めてしまいました。
「カワグチ様っ!」
私が呼びかけるとカワグチ様が振り返ってへらりと笑いました。
「おー、フィオナさん!」
「お疲れ様でした!」
こうして、無事カワグチ様が見事アルカディアを守ってくださいました。




