第117話 火種
「あれ?アマトさんとミィナさんは?」
ソウタが質問をすると、ルダルが答えた。
「先ほど、気になるところがあったらしく、そこを見に行ってくるそうだ」
「ふーん、そうなんだ。じゃぁ、おいら親父を呼んでくる!ここで待ってて!」
ソウタは疑いもなく、明るい声で返すと村の奥の方へ走っていった。
アマトとミィナが村の外で待つことは、あらかじめ決めていた。
異世界人を嫌うオーガの村において、いきなり顔を出すのは得策ではない。
そのため、まずはルダル達が接触する手はずになっていた。
ソウタが走り去ると、空気が張り詰めた。
そこへ、ソウタの大声に気づいた村人たちが外へ出てきた。
「おぉ、もしや、ルダル殿ではないか?」
集まったオーガたちの中から、一人の老人が進み出て声をかける。
「ご無沙汰しております。テツゲン村長」
ルダルは、丁寧にお辞儀をしてほほ笑んだ。
牙咆のルダルの来訪に、村人たちの間には驚きが広がった。
テツゲンが、笑顔で握手を求めると、素朴な疑問を投げかける。
「大戦後以来かな?で、なぜこの地に来られた?」
ルダルは少し躊躇するも答えた。
「……実は、人間界に行って調査したいことがありまして」
「なに?人間界へか?」
少し困惑したテツゲン。
そのとき、
「あなた。ここで立ち話するのもなんですから、お家へ上がっていただいたら?」
そう声をかけたのは、テツゲンの後ろに歩み寄って来た彼の妻、シノであった。
「おぉ、それもそうだな」
テツゲンが髭に手を当てて頷く。
「では、こちらへどうぞ」
シノが穏やかに微笑み、ルダル達を家へ招き入れた。
ルダル達は、居間へ通されると、大きなテーブルに着く。
しばらくすると、シノがお茶を運び、ルダルたちに差し出していった。
お茶がいきまわったのを見て、テツゲンが話をし始めた。
「それで……ソウタが大きな声で、皆さん方に声をかけていましたが、何かありましたか?」
「実は、ソウタ君が魔物に襲われていたところを、我々の主が助けたのがきっかけでして」
ルダルが笑みをこぼしながら話した。
「そうでしたか。それで、その主の方はどちらの方ですか?」
テツゲンは、疑いもなく聞いてきた。
その時、部屋の扉が開いた。
「親父、つれてきたよ!」
ソウタが元気に飛び込んできた。
その後に続いてゲンマが入ってくると、
「「なっ……!?」」
ルダルとゲンマが驚きの声を上げた。
「ルダル!お前だったのか!」
「ソウタの親父がお前だったとはな!」
二人は歩み寄ると、言葉を交わす代わりに、右腕を掲げて強く組み合った。
ソウタは驚いた表情を浮かべたが、いつも寡黙な父の見せたその姿に、やがて明るく笑った。
二人が席に着くと、ゲンマが切り出した。
「で……なんでお前がここにいるんだ?」
「村長にも話したが……私たちは人間界を目指している」
「人間界……?」
ゲンマが低く呟くように言った。
「あぁ、そうだ……魔獣出現の謎を確かめに行く」
ルダルの目が鋭く光る。
「魔獣出現だと!?どういうことだ」
意外な話にゲンマの声のトーンが上がった。
「私たちは、これまでに八体の魔獣に遭遇している」
「何っ……!?」
ゲンマが驚きを隠せない。
テツゲンもシノも、その衝撃に声を失っていた。
そして、ルダルが顔を伏せ、
「驚くのは無理もないが事実だ……」
と言って目をつむる。
「そのうちの一体にグレオニウスが殺された……」
ルダルの告白に、ゲンマの眼が見開く。
「まさか……?あのグレオニウスがか……?」
しばし、誰も口を開かなかった――
「だが……」
と言って、ルダルが打ち破る。
「これまで、我々は魔獣どもを倒してきた」
ゲンマ、テツゲンがごくりと唾をのむ。
「それを導いてくれたのが、我々の主……」
ここでルダルが一呼吸を入れると、次の瞬間、目をカッと開け、鋭く言った。
「異世界人のアマト様だ」
「「「!?」」」
ゲンマ、テツゲン、そしてシノが言葉を失った。
ルダルは、じっとゲンマを見つめ黙っていた。
沈黙の中――
「異世界人……だと?」
ゲンマの腕が、わずかに震えた。
ルダルは視線を逸らさず、
「……そうだ」
と静かに返した。
テツゲンもまた、目を閉じたまま拳を握り締めていた。
ガタン!
ゲンマが椅子を倒して立ち上がった。
「お前、正気か!?異世界人どもに、俺たちが何をされたか、忘れたのか!!」
ソウタは、父の怒声に固まった。
そして――
「出ろ……」
低く太い声が響く。
ルダルの口元が、わずかにつり上がる――。
「表へ出ろ、ルダル!目を覚まさしてやる!!」
ゲンマの怒鳴り声が家の外まで駆け抜けていった。




