第316話 赤提灯の出店 後編
西地区のアーケード商店街にある赤提灯の店で料理修行に励むアマンダ宰相。
コロシアムで出店するお店のメニューの試食会で舌鼓を打つ。
ーーー 豆腐好きなドワーフ女史の視点です ーーー
武鬪大会会場のコロシアムで、師匠のお店「シン」が出店を出すことになりました。
そして、今日はその際に販売するお料理の試食会です。
最初の厚揚げ串はとっても美味しかったです。
それでいてヘルシーなんですもの。世の女性達が放っておく訳がありません。
「さて、お次はコレだ」
そう言って師匠が出してきたものは、……うーん、何かの揚げ物?
丸くって、クロケット……ここではコロッケでした……コロッケみたいな形状です。
コロッケは、「シン」のメニューにもありますから知ってます。たまにまかないでも出して頂けます。
「これはコロッケ?」
スイレン様も私と同じ感想をお持ちのようです。
「ああそうだ。
まあ、食べてみてくれ」
師匠に促され、食べてみます。
サクッ。
ほふっほふっ。
揚げたてなので、これも熱々です。
ホクホクだけじゃなく、旨味もあり、中身がしっとりしていて食べやすいです。それに、いつものコロッケよりもやや軽い口当たりですね。
「おからコロッケさ」
「あたしはソース掛けよっと」
スイレン様がソースを掛けてらっしゃいます。
私はこのままの方が好きです。
「昔の肉屋のように、紙に包んで渡せば片手で食べられるだろう」
「それは良いけど、カレー味は無いの?」
「やってやれんこともないが、今は無いぞ」
かれえ味? 辛い味?
「なぁんだ。あたし、アレ好きなのに」
コロッケのバリエーションの一つなんですね。
「それより、パサつきとかは無いか?」
スイレン様と二人揃ってコロッケにかぶり付きながら、首を振ります。
「そうか。
おからの弱点は水分を余計に吸ってしまうことだからな。
ふかしたじゃがいもにたっぷりダシ汁を仕込んで正確だったな」
「旨味も強くて美味しいです」
「お、そうか。
普通はおからコロッケには鶏ミンチを入れるのが定番だが、今回は牛と豚の合い挽き肉を使ってみたんだ。
豆腐と言うとあっさりし過ぎるかと思ってな」
「ビールにも合うわね」
「フフ、正解」
なんだかんだと息がぴったりのご夫婦。私の理想の夫婦像なのです。
「じゃあ、あたしも一品」
スイレン様がそう言って、出してきたものは……。
焦げ茶色の細長いスティック状のお豆腐……なの?
「なんだ。豆腐バーか」
「簡単に出来るし、甘い物も良いと思ってさ」
豆腐ばあ? 甘いの?
「さあ、食べてみて。
ラップを外して、そのままかじり付けば良いからさ」
このらっぷ……。
ペラペラなフィルムになっていて、さらに透明。そして柔らかい。
コレが登場して、心底驚きました。
こんなに薄いのに、水を通さないんですもの。
食料品の長期保存も可能。他にも色々と活用出来そう。
あ、違う。今はそこじゃない。豆腐ばあの方が重要。
ムンズ。
その豆腐ばあを持ち上げてみる。
ああ、確かにお豆腐の柔らかさが感じられるけど、持ち上げるのに支障のない固さもある。
らっぷを半分めくり上げてパクリ。
ん~!?
お豆腐の柔らかさを持ちながら、食べるという食感もしっかりある歯応えです。
お豆腐なのに甘い。甘さが足されています。
さらに、ほんのり苦味も混じってる。
「スイレン様、このお豆腐、甘くありながらも少しの苦味もありますよね?」
「ふふん。
ココアパウダーを混ぜたからね。
美味しいでしょ?」
「はい、とっても!」
ここあぱうだー……また新たな食材の名。
大樹の森の都は、本当に未知の食材に溢れています。さすが美食の都。
「師匠、これはぜひ出すべきお料理です!」
「こういうのが好きなところは女の子らしいな」
師匠が笑っていらっしゃいます。
お顔が暑くなって両手で頬を抑えます。
「あらあら、顔が真っ赤よ。可愛らしい」
スイレン様も笑っていらっしゃいます。
ンンッ。気を取り直して。
「わ、私も一品ご用意致しました!」
顔を隠すように、急いで厨房の奥へ引っ込みます。
冷蔵庫を開け、私の作ったソレを手に取り、お二人の下に戻ります。
「こ、こういうのを作ってみました」
今回は上手くいってるはず。
グラスを三つ用意し、そこに冷蔵庫から取り出したボトルの中身を注ぎ入れます。
トポトポトポ。
滑らかに注げた。うん、上手くいった!
「お豆腐のドリンクです」
これは、ちょっと自信があります。
我ながら美味しいと思いましたから。
「お豆腐の原料となる豆乳と果汁を組み合わせてみました」
果物との組み合わせも豊富にありますから悩みましたが、今回はオレンジにしてみました。この都のオレンジは、甘味が強くて豆乳とのバランスが良かったのです。
お二人が豆腐ドリンクに口を付けます。
どうでしょうか?
「うん、まあこんなもんかな」
「うーん……豆乳ドリンクなら、もうちょっとそれらしくした方が良いかな?」
うっ、厳しい。
それに、"それらしく"って仰っていました。"それらしく"とは?
疑問が顔に出てたのか、
「ああ。
せっかく豆乳ドリンクを使うんなら、もうちょっとヨーグルトっぽい方が、"らしい"ってことよ」
スイレン様が答えてくれました。
「それに、ここでは"豆腐ドリンク"と言うよりも"豆乳ドリンク"の方が通りは良いぞ」
師匠からもご指摘頂きました。
そうなんですね。これから"豆乳ドリンク"と呼ぶことに致します。
「作ってるところを見たけど、急いでかき混ぜ過ぎな気もしたけど……。
…………。
よし、ちょっと、あたしも作ってみようか」
スイレン様はそう言うと、新たな豆乳を取り出し、グラスに注ぎました。
「豆乳は常温でOK。
わざわざ温める方法もあるけど、今回はパス。
そして、豆乳に果汁を少しずつ入れて、ゆっくりとかき混ぜる」
あ、私はボールで思いっきりシャカシャカやってしまいました。
「そうするとね、豆乳がとろりとしてくるのよ。
ヨーグルトっぽさが出るの」
「豆乳のたんぱく質と果汁の酸味が反応して、固まってくるのさ」
へー、勉強になります。
「さあ、召し上がれ」
スイレン様の作った豆乳ドリンクに手を伸ばします。
ゴクリ。
わわっ、トロッとしてます。
果汁の甘さがあるのに、その食感で余計に柔らかさを感じます。
「……美味しい」
思わず、口に出ました。
「ありがと」
スイレン様の笑顔がまぶしい。
「まあ、こんなところだな」
他にも、色々出ましたが、秀逸だったのは"お豆腐ドーナツ"。
まさか、お豆腐でスイーツが出来るなんて。
普通のドーナツは、修行の帰りにいつも購入していた(とっても美味しいのです)のですが、それよりもふわふわで口当たりも柔らかで、断然こっちの方が好きです!
師匠によると、普通のドーナツは小麦粉を使うらしいのですが、今回のお豆腐ドーナツでは米粉を使ったとのこと。
大樹の森国は、お米の一大産地ですものね。
それから、三人で協議して出店のメニューを決めていきました。
お豆腐のバリエーションが豊富過ぎて、絞り込むのに大変苦労しました。
だって、どれも美味しいのですもの。
え? どれに決まったか、ですか?
うふふ。
それは、当日にご来店頂ければ、お分かりになりますよ。
では、ご来店をお待ちしておりまーす♪
豆腐料理が色々出てきたようですが、メニューになるのは果たして?
新之丞の奥さんの睡蓮も料理の才能があるようですね。
さて、武闘大会はまだまだ先。
次話は、大会景品の魚介類を獲る為に奮闘するある一団の動きを追います。
お楽しみに。




