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──もひとつおまけ

 あ、夢だ。

 夢の中でそう認識できるのは、これまた女神様にかかわるときだけだ。


「さっちゃん、なんかやさぐれてきたね」

「誰のせいだと思ってる」


 ぐへぐへ笑う女神様に鼻白む。実物よりも大人びて見えるきれいな人は、夢の中の方が女神様っぽい。


「実際の私もかわいいから」

「それは認める。で? わざわざ夢に現れるなんて、なに用?」

「んーとね、さっちゃん、彼らの元の世界のことを気にしてるみたいだったからさ。行ってみる?」


 がばっと身を起こしたような気がしたけれど、夢の中だからか、実際に身体を起こしたわけではないような気もする。なんだろう、精神と肉体が一緒じゃない感じがする。


「夢の中だからね。そんなもんじゃない?」


 女神様のどうでもよさそうでいて、たぶん正しくはない感じの、至極胡散臭い返しにため息がもれる。

 どうしてこう神々しさの欠片もないのか。隣でむひっと笑っているのは、すましていれば間違いなく目を瞠るほどの美人だ。




 目の前の景色が一瞬にして変わる。まるで巨大なスクリーンを目の前で見ているかのような感覚。スクリーンだってわかってはいるけれど、目の前にありすぎてその端が目に入らないからか、まるで自分がそこに紛れ込んだかのような錯覚を起こす。


「あー…うん、わかっていたんだけど、っていうか……本当は忘れていたんだけど、黄緑色の毛にちょっとひく。ヒゲも黄緑って、微妙すぎる」


 そうだった。彼らは元々この色だった。今にして思うと、あの時必死だったとはいえ、よくこんな奇妙な色を持つ人たちをこちらの世界に連れてこようと思えたものだ。


「鼻毛も胸毛も陰毛も黄緑だよ」


 女神様のドヤ声で、ものすっごくいらぬ情報がもたらされた。そのあたりはどうでもいいよ、この際。


 そこにいた人たちは、なんと言えばいいのだろう、満足そうとでもいうのか、満ち足りた気配を纏っていた。中には不満そうな顔をしている人もいるけれど、それはきっと些細な不満で、大きな何かを憂いているような、抱えきれないほどの何かを諦めているような、そんな感じではない。見渡す誰もが目の奥に少なからず光を持っている。

 そこにある空気は、彼らから聞いていたような、のんびりとした穏やかさではない。どこか静かな昂ぶりのような、内に秘められた大いなる希望が透けて見えるかのような、そんな高揚した何かを孕んでいた。


「優さんたちの言う通りだったんだ」

「そうだね。それを悟らざるを得なかった彼らは、ものすごく重いものをのみ込んだだろうけど。国の規模や彼らの治政じゃ与えてあげられないものだから」

「もしかして、彼らははじめからそれをわかっていたの?」

「わかっていたんじゃないかなぁ。だから、さっちゃんの誘いにのったんでしょ」


 少しだけ切なさをその声に滲ませた女神様を、初めて身近に感じた。


「だから女神様は、彼らを元の世界に帰さないの?」

「そうとも言える」


 途端に胡散臭さが滲んだ。隣を見れば、女神様がにへっと笑う。


「最初から目論んでたでしょ」

「そうとも言う」


 これには嘘がなかった。夢の中だからこそよくわかる。それでもそこに嫌な感じはない。きっと女神様は女神様で色々考えているのだろう、たぶん。


「さっちゃん、銀蠅のヘアピン何本集まった?」

「わかってて言ってるでしょ! 十二本だよ!」


 しょうがないな、そろそろ元に戻してやるか。

 そんな声が聞こえたような気がしたところで、ぱちっと目が覚めた。




 もしかしたら、それが代償だったのかもしれない。

 彼らがそれまでもっていた色を失い、名前を失い、この世界に来ることと引き替えに、彼らが護りたかった民が大国にのまれても安寧であるように。

 いつか彼らに聞いてみよう。素直に教えてはくれないだろうけれど。

 そしてきっと、彼らのこの先の寿命と引き替えに、私たちはトレンジャーになったのだろう。

 そんな気がする。きっと無意識のうちに私たちはそれを選んだ。もしかしたら彼らもそうだったのかもしれない。


 まあ、やられちゃっているのは間違いない。なにせあの女神様だ。






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