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4 学年一優秀な少年、学年一平穏な少女

地味なファンタジーですが、よろしくお付き合いください。

「ユウキ=センドーです。北部の生まれだけど、両親は早逝して、商家にお世話になってました。この度は、皆さんと同じ学校に入れていただいて、感謝してます。これからよろしくお願いします」


 そう言って、壇上の少年、ユウキ=センドーは深くお辞儀した。

 教室中の誰もが、この、変わった時期に入学を認められた謎の平民に注目していた。名門カッツァ家の次男オロゾ=カッツァもそのひとりである。


「あのファリシア先生が簡単に入学を認めたんだって」

「こんな時期に入学するなんて、相当すごい魔法を使えるんじゃ」

「いやぁ、俺はバックについてる商家の金の力がすごいって聞いたぞ」


 ユウキの噂は昨日から校内で飛び交っていたが、魔法学校の一年生の中で最も優秀だと自負するオロゾにとっては、どれも聞き捨てならない話だった。


(ファリシア先生に認められただと? ファリシア先生に一番と認められてるのは俺だぞ!)


 そう対抗心を燃やすオロゾであったが、ユウキはそんな彼の、いや教室中の熱い視線を気にすることもなく、ファリシアに指示された席へと着いた。そこは偶然にも、オロゾのすぐ横であった。


「今日は新入生もいることだし、今までのおさらいも兼ねて、基本の確認をするか」


 そうしてファリシアの魔法学の授業が始まった。おさらいということで、次々と生徒たちに要所を答えさせながら、基本的なことを確認して行く。


 魔法とは、簡単に言うと、頭の中のイメージを魔力を使うことで具現化する、現象のことだ。だから、魔法を使う上で必要になるのは、想像力、魔力、具現化力(創造力)の三つであり、これを魔法の三大要素という。

 三大要素のうち、想像力と具現化力は測定することが難しく、高い魔力が備わっていても、残りのふたつが欠けていれば、優秀な魔法使いにはなれない。この学校では三大要素すべてを鍛えるが、伸びしろがない場合は、ほとんど魔法使いとしては成長せず終わることもある。

 また、想像しやすいもの、具現化しやすいものの傾向は個人差が激しい。炎をイメージしやすい者、水を創り出しやすい者など、得意不得意が出てくる。これを、魔法学では便宜上、属性と呼んでいる。


 ユウキにとって、この授業は非常にありがたいものだったろう。しかし同時に、ほとんど魔力がないと宣言されている身としては、魔法は使えないと太鼓判を押されたようなものであり、非常に残念でもあったろうが。

 ふむふむ、とうなずくユウキの横で、オロゾは意地の悪いことを思いついていた。とにかく彼の実力を確かめたかったし、あわよくば恥をかかせたかったのだ。


「先生! センドーの魔法使いとしての資質や得意な属性とかは、どうなんでしょうか! 俺らは授業を通して互いに何となく力を分かってるけど、新しく入ったセンドーのはみんな知らないので、披露してもらってもいいと思うんですが!」


「カッツァ、そういうめんどくさいのは実技の時間にやれ。と言いたいところだが……どうだ、やってみるか?」


 ファリシアが断ったら食い下がろうと思っていたオロゾは、予想外にすんなり受け入れられたことに軽く驚きを覚える。しかし横の席を見ると、ユウキは明らかに嫌そうな顔をしていた。

 しめた、と思ったオロゾは追い打ちをかけるように挑発した。


「おい、新入生。断ったらお前はこれからずっと臆病者ホーキーと呼ぶぞ」


 ユウキは少しだけ躊躇して、そして了解した。


「うーん……分かりました……」


 まるで気乗りしない感じで立ち上がると、ユウキはオロゾのほうをじっと見て、小さな声で言った。


「ホーキーがどんな意味かは知らないけど、別に好きに呼んでくれていいよ」

 

 生意気な奴だ!と思ったオロゾは、ユウキがどんな魔法を見せようとも、囃し立ててやろうと心に決めた。彼が再び壇上に上がるのをじっと見送る。


「魔法を見せる前に、一言だけ。ファリシア先生の今の授業を聞いて、俺には魔力と、それから具現化力がないんだろうなと分かった。だから大したことはできないけど、一応がんばってみます」


 そう言うとユウキは胸の前でしっかりと手を組む。そして組んだ手の間に少し空間を作るように手を丸め、そこに顔を近づける。


「俺が使える魔法は、どうも変わっているらしくて、大したことはないものを、大したことはない距離だけ、転移させられる……そんな魔法です」


 言うや否や、ユウキは勢いよく組んだ手をほどいて広げる。その間に突然何かが出現し、音を立てながら壇上へと落ちた。

 それは、ただの筆箱だった。羽根ペンなどを入れる木製の小さな箱。


「何だ? 筆箱……誰のだ?」


 ファリシアの声に、教室中の生徒が自分の筆箱を確認しようと机に視線を落とし──オロゾは思わず叫び声を上げてしまった。


「俺のだ! 馬鹿な!」


 もちろんユウキが席を立って前に出る間に、オロゾの机から拝借したものだった。オロゾにわざわざ声をかけて視線を固定させ、袖にすっと落とし込ませたもの。

 そんなことをされていたとは露知らず、オロゾは素で驚愕してしまっていた。ほんのさっきまでここにあった筆箱が、一瞬で! そう思ってしまったのだ。それは他の生徒にしても、ファリシアにしても同じだった。

 手品マジックという概念を知らず、魔法マジックに慣れ親しんでいるという背景。それが、彼らに筆箱が物理的に移動したのだという考えを起こさせない。ユウキの手品マジックは、ある意味で元の世界で行うより遥かに強力なものになりえた。


「そんな魔法があるなんて……そんな……」


 敗北感に打ちのめされながら、オロゾはうめく。もしあいつが、他の魔法も今のように鮮やかに使ってみせるようなことがあれば、自分の地位は崩れ去る。平民なんかに屈辱を覚えさせられる。そんなことになったら……。


「おっと、授業の時間は終わりだな。次はゾボドロ先生の歴史の授業か」


 微妙な空気に割って入ると、ファリシアは授業の終わりを宣言した。

 そそくさと席に戻るユウキを、オロゾは執念のこもった目で、他の生徒たちは驚きと心配がない交ぜになった目で、見つめていた。



   ☆   ★   ☆



 ラウラ=ウェルヴェットはほっとしていた。

 魔法学校の一年生の教室において、ラウラの席は一番後ろの隅、教室内の人間関係がすべて把握できる位置にある。また、ラウラ自身も人間観察が得意であり、その能力を遺憾なく発揮して、快適な学校生活を送っていた。


 そんなラウラからすると、オロゾ=カッツァはできるかぎり衝突を避けるべきタイプの人間だ。確かに魔法には秀でているが、プライドが高過ぎて、他人を思いやる心がない。

 ところが変な時期に現れた新入生ユウキ=センドーが、あろうことかオロゾの挑発に挑発で返し、見たこともない転移魔法を見せつけてしまったため、オロゾの機嫌は常に最悪。まさに一触即発の状況だった。


 それが、二日、三日と授業を重ねるうちに、ユウキの実力が明らかになっていき、オロゾが暴発するような事態にはならなそうな情勢になってきた。それゆえ、ラウラはほっとしているのである。

 ユウキは火も起こせず、風も吹かせられず、雷も走らせられず、光も発せず、水も申し訳ばかりにちょろちょろと出すだけという、非常に才能のない魔法使いだった。それはそれで、オロゾたちに野次られてはいるのだが、オロゾのちっぽけな自尊心はそれで満たされているらしく、すっかり上機嫌になっていた。


これで、あのユウキという謎の平民と、会話してもたいして注目されないだろう。そう、ラウラは考えた。


 ラウラは、平民の出だからではない、まったくの異質さをユウキから感じとっていた。こうして皆で机を並べて授業を受けているのに、彼だけはいつも別の方向を向いて他のことを考えている。そんな気がした。

 もし彼が、ラウラの予想通り、この国の外から来た者であれば、彼女自身のために話をしたかったのである。


「ユウキくん、ちょっと来てもらえませんか」


 その日の授業のあと、ラウラは寮へと戻る途中のユウキを捕まえて、適当な部屋で話をすることにした。物置らしき部屋の、奥のほうへと入り込む。


「何の用? 君は、ラウラさんだっけ。たしか、ラウラ=ウェルヴェット。一番後ろの席の人だよね」


 サロンマジシャンにとって、人の名前と顔を覚えるのは当然のことである。何しろ、同じ人に同じ手品マジックをするわけにはいかないのだから。中でもユウキは、特にそれが得意だった。

 しかし、そんなことは知りもしないラウラは、大いなる勘違いに襲われる。


(うそ……。口を聞いたこともないのに、私の名前を知ってるなんて。もしかして、私に一目惚れして、それで名前調べたんじゃ……)


「えっ、ああ、その、ちょっとあなたと話をしてみたかったんです」


 ラウラはいろいろと聞き出そうと思っていたのに、逆にユウキから先制攻撃を受けた気分であった。自分のことを好きなのだ、と意識してしまうと、そこに無関心ではいられない。ラウラは自分の声が上ずり、心臓の鼓動が早くなるのを聞いた。


「あなたは、どこか他の人と違う気がして、気になっていたから……」


 言ってから、これではまるで自分も気があるみたいではないか、とラウラは思った。そんな勘違いをされては困る。

 慌てふためくラウラをよそに、ユウキは平静だった。


「他人と違う? 魔法が全然使えないこと?」


 またからかい( 、、、、)か、とユウキが明らかにがっかりしたのを見て、ラウラはさらに慌てる。


「そ、そうじゃないです! そうじゃなくて、その、何と言うか……。ユウキくんって、この国の生まれって感じがしないような……」


 慌てた結果、駆け引きも何もなく疑問をぶつけてしまうラウラ。ユウキのポーカーフェイスは崩れることがなかった。


「そうかもね。俺の両親はこの国の生まれじゃないみたいだし、ずっとハイリアにいたわけでもないから、そう感じるのもおかしくないんじゃない?」


 どこか話をずらされたような、ごまかされたような印象を受けて、ラウラは食い下がる。


「いや、そうじゃなくて、ユウキくんは、この国の人じゃないんじゃないですか? それなら何の目的があって……」


「もし──」


 急にユウキの語気が強まり、ラウラの言葉が遮ぎられた。ユウキは内心、この年下の同級生にどう対応しようか迷っていたが、彼のほうでも何かを彼女に何かを感じ取っていたのだ。他の同級生たちからかけ離れた何かを。


「もし、例えば俺がこの国の人じゃなかったとして、君はどうするの?」


 ラウラは答えに詰まる。

 やがて、目的を隠しても仕方がない、と正直に答えることにした。決意に至るまでには、多少の時間を費やしたが。


「ユウキくんが、この国の人じゃなかったらいいなと思って、正直に話します。今まで、誰にも話したことがないので……誰にも言わないでほしいけれど……」

ここまで読んでいただいて、多謝です。


ブックマーク等、増えるたびに嬉しくて、喜んでます。誤字脱字などもありましたら、教えていただけると助かります。

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