七十四話
「カンパーイ!」
レイジたちはグラスをカチンとぶつけあった。
スレイ部はお菓子や飲み物を持ち寄って、堀之内とレイジの部屋に集まっていた。どの部屋も間取りは同じなのだが、レイジが片付けるのだからレイジの部屋でという、なんだかちょっと酷い理由だった。
それでも、レイジの荷物はほとんどなく、堀之内が普段からまめに整頓しているので部屋はばっちり綺麗だ。適任としか思えないこともあって、二つ返事で了承した。
本来なら、もう就寝の準備を始める時間だったが「今日は特別よー」とノブコ先生のお墨付きである。もちろん彼女も参加していた。
レイジはグラスをぐいぐいと煽る。
「ぷはー! うまい!」
すかさずキョウがブドウジュースを注ぎ、空になったグラスを満たす。
「おー、悪いね」
「へっへっへ、今日は助けに来てくれたからなー」
その様子を見ていたスミカがレモンジュースのボトルを持ってレイジの横に座りなおした。何気ない風を装ってはいるが、彼のグラスの減り具合をちらりちらりと確認しているのがまるわかりである。それでも気づかないのがレイジなのだが。
ついにレイジのグラスが空になった。
「ごほん、六号。今日はよくやってくれた。褒美に私が……」
「レイジー、空になったぞ。どんどん飲めよ」
キョウがスミカの話の途中でグラスにジュースを注いだ。
「おっとと。それで、なんだってスミカ?」
「何でもない!」
ご機嫌斜めである。ムスッとしながらも、グラスを凝視する。
「な、なんだか飲みにくいな」
そう言いながらもグラスを口に運ぶ。
スミカは虎視眈々とジュースを注ぐタイミングを狙う。あと二口……あと一口……それ、今だ!
スミカはレイジのグラスに向けてボトルを傾ける。黄色い液体が丸い縁の中央へまっすぐに吸い込まれていく。底で跳ね返ったレモンジュースが波を立てて踊る。爽やかな柑橘の香り。唾液線を刺激する、きゅんとした酸っぱさを予感させる。
だが、ほとんど同時にキョウのボトルが紫色の液体を放っていた。覆水盆に返らずという言葉のとおり、一度容器から出た液体を元に戻すことは不可能だ。
レモンの黄色いラインにブドウの紫のラインが触れる。最初はぐるぐると捻じれるように絡み合い、鮮明なコントラストを見せていた二つの液体は、落下途中で完全に混合され、あり得ないほど食欲をそそらない、濁った色のジュースに変貌していた。
黄色の楽園は一瞬にして地獄絵図となった。
楽しい場にあるまじき沈黙が三人の間に流れた。
レイジの手にするグラスは、水彩画を描き終えたあと筆を洗ったバケツの水のような色の液体で、なみなみと満たされている。
どう見ても人間の飲み物ではない。だが、香りは甘酸っぱい果物のそれなのだ。ここが非常にミスマッチで、余計にこの液体の不気味さを引き立てている。例えるなら、フルーティな香りのゾンビ。一体これは何だ?
レイジは飲み物を手に硬直した。
どんよりとした色の薄気味悪い液体を前に、それが生み出される原因となったスミカとキョウは何も言えない。




