七十三話
「終わった……のか?」
「ああ。鈴ヶ森は守られた」
残された者たちは歓声を上げた。
龍晃の生徒たちが出て行くのを見たのだろう。学園のあちこちからも喜びの声が聞かれた。
「あ、そうだ!」
「なんだ、六号」
「スミカ、お帰り」
スミカは微笑む。
「ただいまだ」
スレイ部がスミカを取り巻いた。
そんな雰囲気の中、エリナが遠慮がちに切り出した。
「あの……皆さんに伝えなければならないことがありますの」
視線がエリナに集まった。
〈学園破り〉は阻止されたが、エリナの父親の会社、笠舞カンパニーがセンゾウに買われた事実は覆らない。センゾウにもはや悪意がないにしても、俵屋コーポレーションは利益至上主義の巨大企業だ。うまみのない鈴ヶ森との提携は即解除されると思って間違いない。
ためらっては先を続けられない。そうエリナは覚悟し、口を開く。
「笠舞」
スミカが名を呼んだ。それはピンと張ったビニールひもに入った切れ目だ。エリナの覚悟は、一瞬生まれた間によってプツンと切れてしまった。
「その件はいい。今はそれぞれの活躍を讃え、勝利に喜ぶときだ」
スミカは、はっきり“その件は”と言った。エリナは学園に笠舞カンパニーが関わっていると大っぴらにしてはいない。センゾウがそれを買い、提携が打ち切られることとなれば、なおさら知りようがない。
しかし、スミカの目。それを見たとき、万事心得ているのだとエリナは確信する。すると、彼女の心の内にあった不安は自然と消えていた。
「はい、スミカ様」
エリナの表情が変わったのを見て、スミカが満足そうに頷いた。
窓から差し込む光がチカリと目を射す。
学園長はむにゃむにゃと目を擦った。いけない、いけない。いつのまにか寝ていたらしい。
何か悪い夢を見ていた気がするが、窓の外にはいつも通りの鈴ヶ森学園があった。少し生徒たちが騒がしいのだが、彼らは若い。溢れるパワーを発散させたいときもあるのだろう。元気なことはいいことです。
彼は書類の端を机の上でトントンと揃えると部屋を出ようとした。
ぎぃいい……。
おやと学園長は扉を見た。木目がしっかりと活かされたデザインもだが、何といっても開閉に音一つ立てない建付けが気に入っていたのだが。
彼は不思議そうに何度も扉を開閉する。その度に扉がガタピシ揺れて、どこかに擦れるような音がした。
なぜこんなことに?
彼はその場で長考した。
……だが、特に思い当たる節はない。
まあ、いいでしょう。後で修理してもらおうと気楽に考え、学園長は部屋を出た。
彼が階段を下った頃、蝶番が外れ、扉はばたりと外向きに倒れた。




