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六十九話

 ふらつくタケミに肩を貸し、ノブコ先生は学園の煉瓦で舗装された道を進んだ。


「六号くん、見つからないわー。電話にも出ないし。きっと、みんな一緒にいるのだと思うけれどー」

「あたしがノブコと出会えたのは幸運だったね……。けど、急いでくれ。あいつらに早く伝えないと……」


 本棟の角を曲った。二人の視野に一人の少女が映る。髪の長い少女。

 リンの傍には五人の生徒たちが倒れていた。レイジ、堀之内、エリナ、アンリ、そしてキョウ。その誰もが地に伏し、起き上がれない。

 堀之内とエリナが震えながら顔を上げる。


「こ、この力は……」

「あり……得ませんわ……」


 何をされたのか、五人の誰にもわからなかった。気づいた時には地面に叩き伏せられていた。

 タケミの腕がノブコ先生の肩からするりと抜けた。そのまま両膝をつく。


「タ、タケちゃん」

「間に合わなかった!」


 リンの力は圧倒的だった。対峙したタケミにはわかる。スレイ部の力を侮るわけではない。しかし、身内である精一杯のひいきを込めても、彼女には勝てない。そう伝えなければいけなかった。

 可能性があるとすればスミカだ。彼女ならリンに対抗できる。だが、どこへ行ったのか。消息さえつかめない状態なのだ。


「こんなとき、スミカ様さえいたら……」


 それは都合のいい仮定だ。スミカはここにいない。タケミの願いに応え、彼女が現れる様子はなかった。

 だが、倒れていたうちの一人が起き上がった。


「ろ、六号……!」

「鈴ヶ森は守る。スミカにいつも通り、帰って来てもらうんだ」

「ほう……立てるのか」


 おぼつかない足取りでリンに接近するレイジ。

 拳を振り上げる……が、殴れない。レイジは女の子を殴ることができない。それが明確に敵対する存在であったとしても。


「覚悟もないのに私の前に立つな!」


 レイジが吹き飛ばされる。

 ようやくリンが何をしているのか理解した。極限まで研ぎ澄まされた動き。シンプルに理由はそれだけだった。風のように流れ、光のように気づいたときには当たっている。目にも留まらぬ拳撃。

 レイジが背中から地面に落ち、滑りながら止まった。


「レイジくん!」

「レイジ、もう立ってはいけませんわ!」

「いや、まだだ……」


 レイジは立ち上がる。


「おい、よせ!」

「レイジくん、もうボロボロだよ。どうして……」


 一歩を踏み出す。


「ここがスミカの帰ってくる場所だから……。守らなきゃ。スミカが帰って来れなくなる」


 リンは鼻をふんと鳴らす。


「誰のことを言っているのかわからんが、立ち上がるだけではサンドバッグで事足りる。少々、失望した」


 容赦のない攻撃。ほとんど見えず、防御が間に合わない。レイジは再び吹き飛ばされ、這いつくばった。しかし、すぐに腕にぶるぶると力が入り、体が持ち上げられる。立ち上がる。


「レイジくん! いくら君でも、これ以上は危険です!」

「こんなパンチ、なんだってんだ。単純な暴力じゃない。信念を感じる。けど、それだけだ。スミカのパンチの方が十倍は……痛い!」

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